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プロコフィエフ、ポップでライトな『ロメオとジュリエット』。 [before 2005]

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ヴェルディの『オテロ』に始まり、シェイクスピアに基づく様々なスタイルの作品、幅広い時代の音楽を聴いて来て、改めて、クラシックにおけるシェイクスピアに基づく作品の多さに驚かされているのだけれど... では、シェイクスピアのどの作品がより多く音楽化されているのだろうか?シェイクスピア贔屓のクラシックにおけるシェイクスピアの人気作はどれか?意外に存在感を示すのが、太っちょダメ親父、サー・ジョン・フォルスタッフが引き起こす不倫騒動を描いた喜劇、『ウィンザーの陽気な女房たち』。ニコライの序曲が有名なオペラ(1849)はもちろん、この戯曲から派生した『ファルスタッフ』は、ヴェルディ (1893)ばかりでなく、サリエリ(1799)も作曲している。さらに、エルガーが交響的習作「フォルスタッフ」(1913)を、ヴォーン・ウィリアムズがオペラ『恋するサー・ジョン』(1929)を作曲している。『ハムレット』や、『リア王』のような、芝居における定番ではなく、『ウィンザーの... 』というあたり、なかなか興味深い。何か音楽との親和性が、この戯曲には存在するのだろうか?
しかし、最大の人気作は、『ロミオとジュリエット』!オペラに、バレエに、幻想序曲に、交響曲まで、これほどのヴァリエイションを見せるシェイクスピア劇は、他に無い... そんな人気作から、ヴァレリー・ゲルギエフ率いる、キーロフ管弦楽団(現在は、マリインスキー劇場管弦楽団... )の演奏で、プロコフィエフのバレエ『ロメオとジュリエット』(PHILIPS/432 166-2)を聴く。

ロシア革命(1917)による亡命で、世界各地を転々としたプロコフィエフは、間もなくロシア・アヴァンギャルドの旗手として、バレエ・リュスで中核的な役割を担い、パリを中心に活躍。一方で、祖国への帰国も模索し、1930年代に入ると、ソヴィエトでの仕事を増やして、やがてモスクワに拠点を移す。その直前にあたる1934年、レニングラード(現在のサンクト・ペテルブルク... )のキーロフ劇場(現在のマリインスキー劇場... )から、レニングラード・バレエ学校(現在のワガノワ・バレエ・アカデミー... )の創立200年を祝うために、『ロメオとジュリエット』のバレエ化の話しを持ち掛けられる。これが、20世紀におけるバレエの代表作の出発点となるのだが、話しは立ち消えとなってしまい、代わりにモスクワのボリショイ劇場が興味を示し、契約に至るものの、プロコフィエフが書いた音楽は踊ることに向かないだの、何だのと酷評され、結局、契約は破棄されてしまう。が、プロコフィエフは、折角の音楽を無駄にすることなく、組曲化を試み、1936年、第1組曲がレニングラードで初演され、翌年には、第2組曲がモスクワで初演され、オーケストラの人気レパートリーが誕生することに... また、バレエとしても、1938年、チェコのブルノ国立劇場(ヤナーチェクがその多くの時を過ごしたモラヴィア地方の中心都市、ブルノのオペラハウス。ヤナーチェクの多くのオペラを初演している... )で世界初演。これが大成功すると、キーロフ劇場が態度を一変、1940年に、ソヴィエト初演を果たし、瞬く間に、20世紀を代表するバレエとしての地位を確立する。
という、プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』を、組曲ではなく、バレエ、全曲盤で聴いてみるのだけれど... いや、イメージが変わる!インパクトあるナンバーが抜き出されて、組曲化されれば、ロシア・アヴァンギャルドの旗手という個性が前面に押し出され、当然ながらプロコフィエフの音楽こそ際立つ。それを、『ロメオのジュリエット』の物語に還って、2枚組を、じっくりと聴けば、より豊かな情緒に包まれて、組曲以上に惹き込まれるのかも... もちろん、組曲でインパクトを放ったナンバーも魅力的。しかし、それだけではない『ロメオとジュリエット』であって、何気ないシーンも、実に味わい深く、丁寧に描き出されるのが印象的。モダニズムにこだわることなく、様々なスタイルを用いながら、若いカップルが醸す花やぐ空気感をやわらかなトーンで彩り、全体が仄かにポップに香り出す!このポップさが、とても興味深く、クラシックの勿体ぶった気分とは一線を画し、何か古いアニメ映画の音楽を思わせるトーンが感じられ、思いの外、全体がライトに響き出す。このポップでライトなあたり、ユートピア(というのは、もちろん、上っ面のみ... )、ソヴィエト流の楽観主義だろうか?あるいは、ロメオとジュリエット、若い2人の愛らしさか?安易に悲劇を強調するのではなく、若いカップルのピュアな恋、そのものに焦点を合わせ、どこか、死すら夢見心地に捉えてしまうような不思議さ... ポップでライトであることが、かえって刺激的。これは、組曲では絶対に味わえない感覚。シェイクスピアの悲劇のイメージは乱反射し、新たなテイストを獲得している。
そして、このバレエ『ロメオとジュリエット』を、活き活きと、魅惑的に聴かせてくれるのが、ゲルギエフ率いるキーロフ管... そう、マリインスキー劇場がまだキーロフ・オペラだった頃... ソヴィエトが崩壊し、国家の支援を得られなくなったキーロフ・オペラが、若きマエストロ、ゲルギエフの手腕により、苦しい中に在りながらも、新たな息吹を世界に放った頃、1990年の録音... いや、ゲルギエフにしろ、キーロフ管にしろ、今とは違う、初々しさがある!それでいて、古き良き時代のオーケストラの匂いが残っている!だからか、とにかくフレッシュで、味わい深いという、まったく希有な事態が展開する。危機に瀕して見つめ直される音楽への真摯さが新鮮なイメージを生み、鉄のカーテンの向こう側で保たれていた伝統の手堅さと落ち着きが醸し出す、力みの無いナチュラルなサウンドが広がり... 世界へ挑戦し、世界を知り、ロシアを代表する存在に上り詰めたゲルギエフ、マリインスキー劇場管では紡ぎ出せない感覚に充ち満ちている。今となっては、この初々しい輝きが、愛おしい... そして、この愛おしさが『ロメオとジュリエット』に魔法を掛けるのか?1990年に掛けられた魔法は、20世紀の古典に、現代的なセンスを呼び起こし、録音から四半世紀を経ても、古臭くない。それどころか、ポップでライトなあたり、まさに今の時代っぽい!こういうプロコフィエフ像もあったかと、目から鱗!

PROKOFIEV ROMEO AND JULIET
KIROV ORCHESTRA, LENINGRAD VALERY GERGIEV


プロコフィエフ : バレエ 『ロメオとジュリエット』 Op.64

ヴァレリー・ゲルギエフ/キーロフ管弦楽団

PHILIPS/432 166-2

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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