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チャイコフスキー、幻想序曲に浮かぶ、激しい心象... [2011]

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シェイクスピア、没後400年のメモリアルということで、シェイクスピアにまつわる音楽を聴いている今月... 改めてクラシックを見渡し、シェイクスピアにまつわる作品を探ってみると、その多さに驚かされる。いやはや、クラシックのシェイクスピア贔屓って凄いなと... 裏を返せば、それだけの魅力を放つシェイクスピア作品の数々であって、希代のストーリー・メーカーの、ジャンルを越えた存在感に思い知らされる。そうした中で、"シェイクスピア作曲家"と呼びたくなるような、より強くシェイクスピアにインスパイアされた作曲家たちがいる。シェイクスピアの戯曲に基づく3つのオペラ、『マクベス』、『オテロ』『ファルスタッフ』を作曲したヴェルディ。交響曲、オペラ、合唱曲など、多岐に渡ってシェイクスピアを音楽化したベルリオーズ。そして、『ロメオとジュリエット』、『テンペスト』、『ハムレット』を題材に、幻想序曲を書いたチャイコフスキー。それぞれのテイストで、切り口で、ヴァラエティに富むシェイクスピアが響き出すわけだけれど、最も熱っぽいサウンドを聴かせるのは、チャイコフスキー!
ということで、熱いチャイコフスキーによるシェイクスピアを、若さ溢れる面々の熱い演奏で聴く... グスターボ・ドゥダメル率いる、シモン・ボリバル交響楽団による幻想序曲集、"Tchaikovsky & Shakespeare"(Deutsche Grammophon/477 9355)を聴く。

まず、チャイコフスキーが発明した「幻想序曲」なるものが、おもしろい!オペラなのか、劇音楽なのか、物語の扉絵としての"序曲"を思わせつつも、扉絵を越えて雄弁に物語を語り出し、交響詩のような豊かなイメージを喚起する。でもって、詳細にではなく、まさに幻想のように物語を音楽で展開し、いい具合にダイジェスト感、ハイライト感を醸し出して、絶妙なのかも... 中には、「ハムレット」(track.1)のように、後に劇音楽の序曲として転用されたものもあるが、いわゆる"序曲"とは一線を画すイメージの広がりと、聴き応えと、程好い長さ(20分前後... )が魅力的。そんな、幻想序曲を3曲、全てシェイクスピアを題材に作曲したチャイコフスキー... そこに注目したドゥダメル... ここで聴く"Tchaikovsky & Shakespeare"は、これまで交響曲のツマのような扱いだった幻想序曲こそ主役とし、そのおもしろさを見事に引き出す。また、その3つの幻想序曲をつぶさに見つめれば、それぞれにチャイコフスキーの人生が浮かび上がるようで、シェイクスピアの物語とも重なり、私小説的?
サンクト・ペテルブルク音楽院を卒業(1865)し、モスクワに移って、駆け出しの教師だった頃、デジレ・アルトーとの恋と破局を経ての29歳、1869年に書き始められた「ロメオとジュリエット」(track.3)。2番の交響曲が成功するも、オペラ『オプリチニク』が、なかなか上演に至らず、ちょっとくさり気味の33歳、1873年に作曲された「テンペスト」(track.2)。そして、国際的な名声を獲得し、巨匠として、すでに揺ぎ無かった48歳、1888年に完成された「ハムレット」(track.1)。3つの幻想序曲から、それぞれの時代の作曲家の心境を想像してみる... そもそも、エモーショナルな幻想序曲だけに、作曲家の心の内の吐露のようでもあって、いろいろと刺激的なのかも... 例えば、「ロメオとジュリエット」(track.3)の、あの激しさ!チャイコフスキーにとっての『ロメオとジュリエット』のようだった、5つ年上のベルギー人プリマ、デジレ・アルトーとの恋は、シェイクスピアが描いた10代のピュアなカップルとは違って、それぞれに音楽シーンにおけるキャリアがあり、立場があり、ヨーロッパ中で活躍するプリマと、ロシアの新進作曲家の間に、関係を維持できるほどの余裕は無かった。そして、プリマは、ロシアから次の舞台へと旅立ち、チャイコフスキーはあっさり捨てられてしまう。その傷心が、あの激しさへと至ったか...
一方、「テンペスト」(track.2)では、思うように仕事ができないもどかしさを、弟に陥れられた主人公、プロスペロウに重ねるのか?繰り出される激しい情景は、嵐(=テンペスト)というだけでない、まるで復讐劇のような熱を帯び、最後は大団円のシェイクスピアが描いたファンタジー・ロマンスとは趣を異にする激しさに圧倒される。というより、嵐に掻き乱される感覚がたまらない!いや、それだけの感情エネルギーが注ぎ込まれているのだろう。となると、「幻想序曲」は、チャイコフスキーの恨み節だった?さて、巨匠となってからの「ハムレット」(track.1)は、さすがに大人になった作曲家の姿が感じられ、依然、激しくはあるものの、一味違う、より文学的な深みが印象的。それでいて、輝かしい国際的な名声を獲得しながらも、どこかで影に怯えるような表情が浮かび、5年後の死(1893)が予兆されているよう。いや、王子に生まれながらも、ままならない運命に翻弄され、死へと突き進んでしまうハムレットに自身を重ねるのか?チャイコフスキーらしいゴージャスでドラマティックなサウンドも、どこか切なく聴こえてしまう。だからこそ、チャイコフスキーの音楽は魅力的で共感を呼ぶのだなと、納得。
そんな、チャイコフスキーによるシェイクスピア、幻想序曲、全3曲を聴かせてくれた、ドゥダメル+シモン・ボリバル響。これが、すばらしい!若いオーケストラの真っ直ぐな視点が、チャイコフスキーのスコアにこびり付いた垢を全て洗い落し、よりチャイコフスキーの真実に迫るような鋭い演奏を繰り広げていて、惹き込まれる。魅了される!圧倒される!とにかく、幻想序曲、全3曲が、こんなにも魅力的だなんて、これまで気付かなかったよ... それを実現し得たユース・オーケストラに端を発するシモン・ボリバル響ならではの、音楽への真摯な姿勢、若さゆえの全力投球... 全力投球ではあっても、徹底して高度な技術を獲得した彼らなればこそ、強引なところが一切無い、クラリティの高さ... チャイコフスキーが綴った全ての音が力と熱と輝きを以って鳴り響きながら、見事にバランスが保たれるという、息を呑むサウンド。ドゥダメルも、オーケストラに身を任せるようなところがあり、殊の外、素直な音楽を展開し... だからこそ、チャイコフスキーが透き通って響き出す!力強いドラマに聴き入りながらも、作曲家の内面が見えた来るようで、ゾクゾクする。

TCHAIKOVSKY & SHAKESPEARE SIMÓN BOLÍVAR SYMPHONY ORCHESTRA OF VENEZUELA DUDAMEL

チャイコフスキー : 幻想序曲 「ハムレット」 Op.67
チャイコフスキー : 幻想序曲 「テンペスト」 Op.17
チャイコフスキー : 幻想序曲 「ロメオとジュリエット」

グスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル交響楽団

Deutsche Grammophon/477 9355

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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日本では、あまりニュースにならないけれど、今、ベネズエラが、凄いことになっている。国家破綻による市民社会の瓦解... スタートこそ輝かしく、理念高かったチャベス政権は、次第に妙なものへと変化(ヘンゲ)して、シェール革命と世界経済の収縮により、石油価格が下落(そもそもが、石油バブルだったのだよね... )すると、南米切っての産油国は、闇に呑み込まれて行った。そして、チャベス大統領の死... 支柱、カリスマを失えば、もはや、国家として体を成さず、荒廃ばかりが進むことに... そうした中、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラを生んだ、エル・システマのこどもたちはどうなったのだろうか?ユース・オーケストラなんて、真っ先にシワ寄せが来るはず。あんなにも豊かな音楽を生み出したこどもたちの今が、とても気になる。貧しくとも、驚くべき音楽大国を打ち立てたベネズエラ... その成果が失われないことを祈るばかり...




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