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シベリウス、時代を突き抜ける瑞々しさ、『テンペスト』。 [before 2005]

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さて、今月は、クラシックにおけるシェイクスピアに注目してみようかなと...
で、クラシックが扱うシェイクスピアというと、オペラだったり、幻想序曲などの管弦楽作品がすぐに思い浮かぶのだけれど、シェイクスピアの残した戯曲そのものを考えれば、まずは劇音楽かなと... とはいえ、クラシックというジャンルから改めて「劇音楽」を見つめると、独特。劇音楽とは、ある種の機会音楽であって、他のクラシックの作品とは、一線を画すのかも... 自己主張の強いクラシックに在って、脇に回り、芝居の盛り立て役に徹するというのは、クラシックらしくないのかも... だから、おもしろい!制約の中で、音楽として、どれだけ表現できるか、作曲家の腕の見せ所。考えてみると、試金石とも言えるジャンルかもしれない。
ということで、シンフォニストで、国民楽派で、実は、劇音楽作曲家でもあるシベリウス、そのシェイクスピア劇のための劇音楽... ユッカ・ペッカ・サラステが率いたフィンランド放送交響楽団の演奏で、シベリウスの劇音楽『テンペスト』(ONDINE/ODE 813-2)を聴く。

シベリウスというと、シンフォニストのイメージが強い。北欧の大自然をそのまま響かせるような交響楽は、シベリウス芸術の醍醐味だと思う。が、シベリウスといえば、何と言っても国民楽派!ロシアから独立を果たそうとするフィンランドの人々を鼓舞した「フィンランディア」は、シベリウスという作曲家の代名詞。また、フィンランドの叙事詩、『カレワラ』に基づく作品を多く作曲し、フィンランドの民俗性を、瑞々しく音楽で表現し得たことも、シベリウス芸術の神髄と言えるだろう。そんなシベリウスの、もうひとつの顔が、劇音楽作曲家... オペラは、若干、残念な作品(台本が冴えなかった... )がひとつあるのみの一方で、劇音楽は11作品も手掛けている(楽譜が失われてしまった『森の精』、挿入歌のみの『十二夜』も含め... )。聴き馴染みがあるものとしては、後に組曲に改作され知られる『カレリア』や、「悲しきワルツ」がポピュラーな『クオレマ』などがあり、芝居から独立しても、十分に魅力的な音楽を聴かせてくれる。そんなシベリウスの最後の劇音楽が、シェイクスピアの『テンペスト』。
1925年、コペンハーゲンの王立劇場の委嘱で作曲された劇音楽『テンペスト』は、シベリウスの創作意欲が翳り始めた頃、60歳、還暦を前にして完成された、劇音楽の集大成(初演は、翌、1926年... )。いや、伊達に集大成ではない濃密さ。響き出す音楽が、しっかりとしている。で、その始まり、序曲の嵐の情景が、なかなか興味深い!それは、第1次大戦後、バリバリのモダン・エイジとなった1920年代のサウンドとでも言おうか、なかなかの表現主義的サウンド!シベリウスでも、こういうマッドなサウンドを繰り出せるんだ... と、新鮮な思いになる。しかし、モダニズムへのプレッシャーがあって、その創作意欲は翳ってしまったのだよなァ。シベリウスの音楽は、ロマン主義に立脚したものだったけれど、その人生の後半は、ストラヴィンスキーや、シェーンベルクが、暴れまくっていた時代に当たってしまう。まさに、遅れて来たロマン主義者... 序曲の後、1幕の幕開け、「ミランダは眠りに誘われる」(track.2)の、シベリウスならではの瑞々しく、物悲しいトーンに触れれば、20世紀の音楽であることを忘れてしまう。続く、エアリエルの登場(track.3)は、より19世紀調なのかもしれない。
とはいえ、今となってはモダニズムすらノスタルジック。21世紀から見つめるシベリウスの音楽は、かえって時代を突き抜けて、瑞々しさを放っている。そうした中、印象的なのが、1幕のコーラスのスキャット(track.4)... 何か、古き良きハリウッドのファンタジー映画を思わせるテイストで、ワクワクさせられる。で、よくよく聴くと、このテイストが、あちこちから聴こえて来て、おもしろい!『テンペスト』のマジカルな雰囲気を引き立てつつ、シェイクスピア劇の勿体ぶった表情とは一線を画す、クラシック離れした総天然色感?まさに古き良きハリウッドのファンタジー映画を先取るポップさ、カラフルさが広がり、魅了されてしまう。そして、この感覚に、シベリウスなりの20世紀音楽へのアンサーを見出せる気がする。で、ふと思う... シベリウスこそ、ハリウッドに行くべきだったのではと... いや、それだけ、魅惑的な音楽が綴られる、シベリウスの劇音楽『テンペスト』。先鋭的なモダニズムの対岸で、より柔軟性に富んだ、現代にも通じるセンスが息衝き、ロマン主義、国民楽派を越えて、新たな表現の芽が生まれているようにも感じられる。なればこそ、シベリウスの最後の劇音楽となったことが残念だ。
そんな、劇音楽『テンペスト』を聴かせてくれる、サラステ、フィンランド放送響。サラステは、一般的な組曲版ではなく、コペンハーゲンでの初演版を、そのまま取り上げる。だからだろうか、より情景が強調され、映画的なイメージを喚起するのかもしれない。また、このマエストロならではの鮮やかさも効いている。シベリウスが書いたスコアのありのままを鳴らし切って生まれる、総天然色感!北欧の偉大な作曲家のイメージに流されることなく、シベリウスの新たな展開を引き立てる演奏... そこには、フィンランド放送響ならではのクリアかつ力強い響きが作用して、シベリウスらしさと、らしからぬカラフルさを絶妙にカクテル。ある意味、劇音楽というスケールを越えた音楽を聴かせてくれるよう。さらに、表情豊かな歌声で物語に絶妙なアクセントを加えるフィンランドの実力派の歌手たち。それから、オペラ・フェスティヴァル合唱団。その全てが相俟って、本当にファンタジックな情景が浮かび上がる!シベリウスって、ファンタスティック!

SIBELIUS: THE TEMPEST ・ JUKKA-PEKKA SARASTE
FINNISH RSO, OPERA FESTIVAL CHORUS, SOLOISTS


シベリウス : 劇音楽 『テンペスト』 Op.109

エアリアル : モニカ・グロープ(メッゾ・ソプラノ)
ジュノー : ライリ・ヴィリャカイネン(ソプラノ)
キャリバン : ヨルマ・ヒュンニネン(バリトン)
ステファノー : ヨルマ・シルヴァスティ(テノール)
トリンキューロー : サウリ・ティーリカイネン(バリトン)
オペラ・フェスティヴァル合唱団
ユッカ・ペッカ・サラステ/フィンランド放送交響楽団

ONDINE/ODE 813-2

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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