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1920年代、ベルリンの一筋縄では行かない魅力、キャバレー! [before 2005]

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第1次大戦末期、ドイツ革命により、ドイツ帝国は瓦解、プロイセン王国は消滅、と同時に敗戦(1918)。これにより、ドイツ国民は多額の賠償金を払わされ、困窮のどん底に突き落とされるのだったが、困窮なんてそっちのけで、享楽的な文化が爆発!それは、プロイセン流の抑圧的な文化の反動だったか?1919年に成立したヴァイマル共和国の下、1920年代、ベルリンは、とにかくイケイケだった。その最後を描き出す、ボブ・フォッシーが手掛けたミュージカル、ライザ・ミネリが主演した映画、『キャバレー』。そこで歌われていた、キャバレー・ソングに注目してみたいと思う。ま、クラシックからは、ちょっと逸れるのだけれど、1920年代のベルリンを知るには欠かせない要素。何より、底抜けに楽しい!いや、こういうドイツもあるのかと、ちょっと驚かされてしまうほど...
ということで、1920年代の音楽の都、ベルリンへ!現代音楽からジャズまで、幅広いレパートリーを誇る異色のアンサンブル、ロベルト・ツィーグラー率いる、マトリックス・アンサンブルの演奏、ミュージカルに、映画に、マルチな活躍を見せたヴォーカリスト、ウテ・レンパーによる、キャバレー・ソング集、"BERLIN CABARET SONGS"(DECCA/452 6012)を聴く。

ベルリンのキャバレー文化は、第1次大戦前に遡る。まず、ドイツ語では「カバレット」と呼ばれ、カフェの延長線上にあるもの、というイメージ。綺麗なおねえさんたちがいるところ、という昭和的なイメージとは一線を画す。けど、コントを見せたり、キャバレー・ソング(カバレット・リート)を聴かせたり、というあたりは、独特の猥雑さを孕み、ボブ・フォッシー、ライザ・ミネリが生み出したイメージそのもの... ちなみに、第1次大戦前は、シェーンベルクも、ベルリンにて、キャバレー・ソングの仕事(1901-02)をしておりました。そうした経験が、やがて『月に憑かれたピエロ』(1912)に結実... というあたりはさて置きまして、第1次大戦を経た1920年代のキャバレー・ソングを特徴付けるのが、ジャズ!"BERLIN CABARET SONGS"に収められたナンバーは、どれも大なり小なりジャズの影響を受け、第1次大戦後の新しい音楽、というものを強く印象付ける。一方で、ドイツならではのトーンも当然あるわけで、ドイツのジャズのキメラ的な禍々しさが、思い掛けない味わいを引き出す!
始まりの、シュポリアンスキーの「だましの世界」からウケる!パパシュビンデ、ママシュビンデ... ドイツ語は解らないけど、どうしようもなく耳に残るフレーズ... で、歌っている内容が、パパはだまします。ママもだまします。ママは口先だけでだまします。オッティリエ叔母さんも、そして、家族みんなも、小さな犬でさえも... って、まあ、1920年代のドイツ人家庭の荒みっぷりたるや!いやいや、風刺こそキャバレー・ソングの真髄。で、ドイツ語が解らなくとも、メロディーを追っていると、そのコミカルな風景が目に浮かぶようで、楽しい!また、ウテ・レンパーの表情豊かな歌声を聴いていると、そこにオペレッタの伝統を見出せるようで、とても興味深い。実際にオペレッタで活躍した作曲家によるナンバーもあり、ハンガリー風というか、ジプシー調なあたりがウィンナ・オペレッタを思わせる、ネルゾンの「今日は暴虐のタメランになりたい気分」(track.15)などを聴くと、キャバレー・ソングのベースにあるものが浮かび上がるよう。父親がオペレッタの作曲家だったホレンダーの「脱ぎな、ペトロネラ!」(track.8)の民謡調も、オペレッタのコミカルな雰囲気と共通するものを感じる。オペレッタの大衆的な人懐っこさ、あるいは安っぽさ、時に甘ったるさに、舶来のジャズを引き込んだのが、1920年代のキャバレー・ソングだったか?逃れ難いドイツの伝統と、新しい流行への無邪気な関心が綯い交ぜになっての、このケミストリーは、魅惑的。
それから、意外と多いマーチ。このあたりは、プロイセン仕込み?けど、軍楽の厳めしさは、パァーっと楽しさに変換されて... 例えば、シュポリアンスキーの「むらさきの歌」(track.13)の陽気さ!これは、ゲイ・リベレーションの応援歌(さすがは、ヴァイマル共和国!)なのだけれど、絶妙にレインボー感とドラァグ感が出ていて、巧い。それから、マーチ調のナンバーに、ちょっとアクセントを付けると、タンゴにもなる?というのが、同じくシュポリアンスキーの「私は妖婦」(track.6)。ドスの利いた歌いには、タンゴのトーンが滲むよう... かと思うと、マーチのリズムに乗りながら調性が不安定になるゴルトシュミットの「過去の男」(track.10)。さすが、ゴルトシュミット(マーラーの10番の交響曲、クック版に携わり、その初演時の指揮者も務めた作曲家... )、『月に憑かれたピエロ』を匂わせつつ、キャバレー・ソングといえども攻めて来る。単に大衆的なだけでない、1920年代のベルリンの、多様で、一筋縄には行かない魅力。その魅力が、間もなくナチスに踏みつぶされる歴史を知るからだろうかか、何とも言えない切なさも感じられるキャバレー・ソング。カッコよくない、カッコよさに、惹き付けられる。
そんな、1920年代のベルリンを聴かせてくれたウテ・レンパー... 久々に"BERLIN CABARET SONGS"を聴いてみたら、その鮮やかな歌いっぷりに驚いた。いや、キャバレー・ソングということで、どこかで軽く見ていたのかもしれない。で、1920年代、狂騒の時代の錯綜するテイスト、ジャズやら何やらが、ごった煮になったものを、的確に捉えて行くウテ・レンパーの鋭い音楽性に脱帽。それでいて、個性豊かなナンバーのひとつひとつを、表情豊かに歌い上げてしまう。手堅さと、器用さと、芝居上手、けれど、きっちり節度を以って歌い紡ぐさじ加減の絶妙さ!全18曲、全てのナンバーが、それぞれに輝きを放ち、まったく飽きさせない。そんなウテ・レンパーを支えるツィーグラー+マトリックス・アンサンブルも、見事!ジャズ・バンドからオペレッタのオーケストラ、時々、軍楽隊?いや、サーカスの楽団?ウテ・レンパーに負けず、手堅く、器用。何より、楽しませてくれる!いや、"BERLIN CABARET SONGS"は、最高に楽しい!

BERLIN CABARET SONGS UTE LEMPER

シュポリアンスキー : だましの世界 〔レヴュー 『だましの世界』 から〕
ホレンダー : セクス・アピール
ネルゾン : ペーター、ペーター、戻って来て!
シュポリアンスキー : ハイ・ソサエティーの歌
シュポリアンスキー : 女の親友同士
シュポリアンスキー : 私は妖婦
シュポリアンスキー : 青色の時
ホレンダー : 脱ぎな、ペトロネラ!
ホレンダー : 男ども追い出せ!
ゴルトシュミット : 過去の男
ホレンダー : と、仮定して...
ホレンダー : 私は誰のものなの
シュポリアンスキー : むらさきの歌
シュポリアンスキー : 男性的―女性的
ネルゾン : 今日は暴虐のタメランになりたい気分
ホレンダー : 小さな憧れ
ホレンダー : みんなこどもにかえろう!
ホレンダー : ほら男爵

ウテ・レンパー(ヴォーカル)
ロベルト・ツィーグラー/マトリックス・アンサンブル
ジェフ・コーエン(ピアノ)

DECCA/452 6012




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