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1920年代、狂騒の時代、ジャズ・エイジのピアノ協奏曲。 [before 2005]

不正、不寛容、疑心暗鬼、大言壮語、そして、暴力、暴力、暴力... そんなニュースばかりの中で、ポケモンGOの一連の騒動に癒される。いや、世界中の人々が、ポケモンを探してることが、凄い... 手前味噌だけれど、それだけ愛されるキャラクターを創り出した日本も、凄い... てか、世界は、憎悪や虚言ばかりじゃない!ポケモンも充ち溢れている!なんて言えることが、愉快。それにしても、仮想現実と現実が重なって、ゲームが成立するとは、夏休みの風物詩、ポケモン・スタンプラリーからすると、隔世の観アリ。こんな風に、人々の生活の中に、新たな時代の技術は浸透して行くのですね。いや、感慨深いなと... でもって、時代は前進している!
さて、音楽です。100年前、1916年の音楽を聴いて、第1次大戦、終結の頃のバレエを聴いて... ミヒャエル・リシェによる1920年代のピアノ協奏曲のシリーズ、Vol.1(ARTE NOVA/74321 91014 2)、Vol.2(ARTE NOVA/82876 51051 2)を聴く。


Vol.1、「狂騒の時代」の無邪気さから、時代の終焉のセンチメンタルまで...

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1920年代とはどんな時代だったか?旧家のおぼっちゃんが、実家が火事になって燃えてしまったので、突然、独り暮らしを余儀なくされ、途方に暮れるかと思ったら、とんでもない、夜毎のパーティーに明け暮れて、楽しくて仕方が無かったような時代。それは、第1次大戦の傷が深かった分の反動か、あるいは、旧来の支配階級の退場により、権威主義や押しつけがましいモラルからの解放だったか、思い掛けない享楽的な気分が世界を包んだ1920年代。近代戦の産物である工業化が軌道に乗り、「狂騒の時代」と言われるだけの活気に溢れ、「ジャズ・エイジ」とも言われるほどに、まさに新しい音楽、ジャズが、アメリカからヨーロッパへと広がり、みんなが熱狂し... おもしろいのは、クラシックの作曲家たちも、そうした波にしっかり乗っかって、モダニズムの内で、ジャズを始めとした新奇な取り組みを至極当たり前のように次々と繰り出したこと... もはや、『春の祭典』の初演(1913)のような、警官隊が出動するほどの攻撃的な抵抗は消え、新たな挑戦はますます促され、それをまた聴き手がおもしろがった。1920年代のピアノ協奏曲のシリーズには、そうした時代の気分と、作曲家たちの新しいことへの貪欲さに充ち満ちていて、何とも言えない無邪気さと、そこから生まれるキラキラとした輝きが、眩しい!
で、まずは、Vol.1... その1曲目、『バレエ・メカニーク』(1924)といった奇天烈な音楽により、パリの寵児となったアメリカの作曲家、アンタイル(1900-59)の1番のピアノ協奏曲。『バレエ・メカニーク』の2年前、ベルリンでピアニストとして学び始めた頃、1922年の作品となるこのコンチェルトは、すでにメカニカルな表情も浮かびつつ、伝統的なコンチェルトの形を残し、ジャジーなトーンがロマンティシズに結び付いて、不思議な味わいを醸し出す。いい具合に折衷的で過渡的で、結果、何者でもない... その飄々とした音楽に、すでにパリのアンファン・テリブル(アンタイルは、このコンチェルトを作曲した翌年、パリへ移る... )の要素は現れているのか?続いて取り上げられるのが、やはりアメリカから渡って来たコープランド(1900-90)のピアノ協奏曲(track.2, 3)。アンタイルと同い年のコープランドは、アンタイルとは裏腹に、優等生。パリで、ナディア・ブーランジェに学び、その忠実な教え子として、洗練されたモダニズムを身に付け、やがてアメリカを代表する大家となるわけだけれど、ここで聴くピアノ協奏曲(track.2, 3)は、アメリカに帰国(1924)して間もない頃、1926年の作品。無駄の無いモダニズムを展開しながら、2楽章では一転、パリっとジャズを響かせて、絶妙に切り返して来る!
後半は、フランス6人組、オネゲル(1892-1955)に、印象主義の巨匠、ラヴェル(1875-1937)のコンチェルト... で、アメリカの若い世代に対して、より深みのある音楽を響かせて、気を吐いて見せる!同じようにモダニスティックで、ジャズの影響も随所に感じられながらも、第1次大戦前の伝統の中で学んだ音楽の確かさが滲み出ていて、何より、フランスの作曲家ならではの芳しいサウンド!新大陸からの感性の挑戦的なあたり、爽やかさとは違う、連綿と音楽史を紡いで来たヨーロッパの重みが一音一音に含まれ、洒落ていながら、しっかりと聴き手を惹き込む魅惑に、大人の魅力を感じずにはいられない。そして、その最たるものが、ラヴェルのコンチェルト(track.5-7)!この名曲も、1920年代のピアノ協奏曲として聴くと、より味わい深く、その艶やかさに酔わされる。とはいえ、1930年の作品... いや、1920年代のパーティーの終わりを切なく描き出すようなその音楽、特に2楽章(track.6)などは、いつも以上に心に沁みる。1930年代、全体主義の蔓延と、第2次大戦へと歩み出す時代を前にした美しさ、センチメンタルは、純度を増すかのよう。そうして、巧みに時代を俯瞰し、1920年代のストーリーを紡ぎ出すリシェのセンスに感服させられる。

Piano Concertos of the 1920s ・ Michael Rische

アンタイル : ピアノ協奏曲 第1番 *
コープランド : ピアノ協奏曲 *
オネゲル : ピアノとオーケストラのためのコンチェルティーノ H.55 *
ラヴェル : ピアノ協奏曲 ト長調 *

ミヒャエル・リシェ(ピアノ)
クリストフ・ポッペン/バンベルク交響楽団 *
スティーヴン・スローン/WDR交響楽団 *
イスラエル・イーロン/WDR交響楽団 *

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Vol.2、「ジャズ・エイジ」の諸相、ヨーロッパでの受容から、本場、アメリカへ...

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続いて、Vol.2では、「ジャズ・エイジ」を強調する作品を取り上げる、リシェ... その始まりは、チェコのユダヤ系の作曲家、シュルホフ(1894-1942)の1923年の作品、ピアノと小オーケストラのための協奏曲、「ジャズ風」(track.1-3)。第1次大戦の惨禍を目の当たりにし、左派として反戦を訴えながら、やがてダダイズムへと至ったシュルホフ。虚無であり、反芸術という思想を持つ"ダダ"を、音楽でどう表現するのか?シュルホフが導いた答えは、ジャズ。ヨーロッパの伝統に根ざさない、大西洋を渡ってやって来た真新しい音楽の姿に、ダダイズムを見出せたのは、なかなか興味深い。じゃあ、がっつりジャズで攻めるのか?というと、そうでもないのが、またおもしろいところ... どこかマルティヌー(1890-1959)を思わせる、ファンタジックさに包まれながら始まる1楽章。その幻想的な雰囲気は、チェコの音楽のDNAを感じさせ、思いの外、魅惑的。で、全然、虚無なんかじゃない!そこから、じんわりとジャジーなトーンが滲み始める2楽章(track.2)を経て、ジャズとジプシー音楽が織り成す不思議な終楽章(track.3)。この組合せが、シュルホフにとっての反芸術の表明となるのか... サーカスの奇術ショウが始まりそうな、味のあるチープさとミステリアスさが、ツボ。そんなシュルホフの後で取り上げられる、アンタイルの1925年の作品、ジャズ・シンフォニー(track.4)は、アンファン・テリブルらしいスラップスティックな盛り上がりを見せ、それこそダダイスティック?ジャズをカッコよく展開するのではなく、ジャズの様々な表情をコラージュするような、ごた混ぜ感が、奇天烈で、おもしろく、若き作曲家の向こう見ずが、炸裂!
そして、最後は、本場、アメリカから、ガーシュウィン(1898-1937)のピアノ協奏曲(track.5-7)。最もクラシカルで、コンチェルトであって、それでいて、誰よりもジャズという、Vol.2のアルバムにとっては象徴的な作品。試行錯誤を感じさせるシュルホフ、やりたい放題のアンタイルの一方で、自らの置かれた状況をつぶさに見つめ、真摯に音楽を紡ぎ出したガーシュウィンのコンチェルトは、1920年代のピアノ協奏曲のシリーズを通して、誰よりも安定感を感じさせるからおもしろい(なおかつ、最も長大!)。普段、ガーシュウィンのコンチェルトのみを取り出して聴けば、とてもギミックに感じられるだろうけれど、1920年代という枠組みから捉えると、驚くほど充実したコンチェルトに思え、クラシックの枠組みに丁寧に落し籠められたジャズの在り様に、感心させられるばかり。ジャズ畑のガーシュウィンが、生真面目にクラシックの理論を学び、きっちりと書かれたコンチェルト... そのきっちり感が、もの凄く効いている!改めて、この作品のすばらしさに惹き込まれてしまった。
という、1920年代のピアノ協奏曲のシリーズを繰り広げた、リシェ。とにかく、チャレンジング!いや、マニアックと言うべきか... アンタイル、シュルホフのコンチェルトなんて、ちょっと他では聴けないわけで... そんなマニアックも含め、アメリカ、フランス、そしてチェコと、1920年代の多彩な作曲家たちをひとつにまとめ上げ、時代の気分を卒なく浮かび上がらせる妙!中世以来の音楽史においても、特異な輝きを放つ1920年代、そこにしっかりと焦点を合わせて、「狂騒の時代」のパーティー感と、「ジャズ・エイジ」の浸透を、丁寧に響かせるリシェのタッチは、確か。楽しさや新奇さが際立つ作品を相手にしながらも、どこか淡々と作品を並べ、腰を据えて時代を俯瞰する姿勢が印象的。そういう実直さがあってこそ、浮ついた時代のチャラい音楽かもしれない作品に重みを感じさせ、確かな存在理由を与えているから凄い。それでいて、一音一音には何とも言えない艶やかな厚みがあり、アカデミズムとは一味違う魅惑も感じられ、素敵。

Piano Concertos of the 1920s Vol.2 ・ Michael Rische

シュルホフ : ピアノと小オーケストラのための協奏曲 「ジャズ風」 Op.44 *
アンタイル : ジャズ・シンフォニー 〔ピアノとオーケストラのための〕 *
ガーシュウィン : ピアノ協奏曲 ヘ調 *

ミヒャエル・リシェ(ピアノ)
ガンサー・シュラー/WDR交響楽団 *
ウェイン・マーシャル/ベルリン放送交響楽団 *

ARTE NOVA/82876 51051 2




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