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第1次大戦の傷痕をなぞって、兵士の顛末、役人の執念... [before 2005]

1918年、第1次大戦は終わる。その結果、ヨーロッパの形は大きく変わる。
ロシア革命(1917)により、終戦を待たずに崩壊したロシア帝国を皮切りに、長い歴史を誇って来たヨーロッパの数々の王家が、玉座から追放されて行く。そして、歴史ある帝国が瓦解し、それまででは考えられなかったような、新奇な枠組みを持つ国家、チェコスロヴァキアや、ユーゴスラヴィアが出現し、中世以来の国境線は大きく書き換えられる事態に... 戦争が終わったというだけではない、営々と続いて来た「ヨーロッパ」もまた終焉を迎えたわけだ。そうした中、音楽は逞しく復興を遂げ、さらには、旧来のモラルを破壊するような表現が登場。第1次大戦後、間もないヨーロッパには、独特の雰囲気を放つ作品がいろいろ生まれた。
そんな、第1次大戦の終戦を象徴するようなバレエ... ロバート・クラフトの指揮の下に集まった腕利きのアンサンブルによる、ストラヴィンスキーの組曲『兵士の物語』(NAXOS/8.557505)と、デイヴィッド・ロバートソンが率いていたリヨン国立管弦楽団の演奏で、バルトークのバレエ『中国の不思議な役人』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901777)を聴く。


ストラヴィンスキー、終戦の年の『兵士の物語』のメッセージは、ビター。

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第1次大戦が終わる1918年に作曲されたストラヴィンスキーのバレエ『兵士の物語』(track.2-10)は、終戦の年ならではの事情を抱えた作品と言える。まだ、戦争が終わっていなかった夏、それでも某かの舞台を繰り出して、収入を得ようとしたストラヴィンスキー、戦争で荒廃したヨーロッパの様々な場所でも上演できる、旅回り一座のようなバレエの作曲を試みる。ヴァイオリン、コントラバス、トロンボーン、ファゴット、クラリネット、トランペット、パーカッションの7人というコンパクトな編成を用い、語り(ここで聴くのは組曲版なので省略... )を伴って、ちょっとサーカスの音楽を思わせるチープさを漂わせながら、軽快に展開される音楽は、『春の祭典』の衝撃が完全に過去のものとなってしまったようなキャッチーさを見せ、ストラヴィンスキー流の大衆音楽と言えなくもない。そうして描かれるストーリーなのだけれど、ロシアの民話に基づき、戦争が終わり帰郷する兵士が、途中、悪魔と出くわし、持っていたヴァイオリンと、これから先のことが書かれているという魔法の書物の交換を持ち掛けられる。兵士はそれに応じるものの、魔法に対価は付き物... それは、民話版、ファウストといったところ?いや、終戦の年には、このストーリー、なかなか鋭いメッセージを放ったはず... 軽快に、楽しげな音楽で彩りながら、悪魔との取引に乗ってしまった兵士の末路は、当時のヨーロッパにとって、苦いものに感じられたかもしれない。
さて、クラフトは、『兵士の物語』と同時代に作曲された、ストラヴィンスキーの過渡的な多彩な作品を取り上げ、それらがまた興味深い!ナイディックが吹く、クラリネット独奏のための3つの小品(track.11-13)、ピカソのために(track.14)の、抽象的な佇まいは、第2次大戦後を思わせる感覚もあって、ささやかながら刺激的。そして、日本人として、興味津々なのが、『春の祭典』と同じ、1913年に作曲された、日本の3つの抒情詩(track.26-28)。山部赤人、源当純、紀貫之による短歌をソプラノが歌うのだけれど、何となく東アジア調のおぼろげなトーンは、意外と短歌の雰囲気を捉えている?いない?いや、これはこれで、おもしろいのだと思う、ストラヴィンスキー流、短歌の世界... 一方、時代は少し下るのだけれど、何ともほのぼのとしたパストラーレ(track.1)、オリジナルのジャズ・バンド版によるロシア風スケルツォ(track.29)のカッコ良さには、マイケル・ナイマンを思わせるところも... それから、ストラヴィンスキーなよる吹奏楽アレンジのヴォルガの舟歌(track.30)の、勿体ぶったユーモラスさ!ストラヴィンスキーの様々な表情を織り込むクラフトの選曲の妙に、膝を打つ!
さすがは、ストラヴィンスキーの愛弟子、クラフト。ストラヴィンスキーを身近に接して得た、独特の境地を感じさせるストラヴィンスキー解釈。即物的にも思える明晰さで、一筋縄には行かないストラヴィンスキーの音楽を怜悧に捌き、クラフトらしさを裏切らないのだけれど、即物的なくらいだからこそ、ストラヴィンスキーの飄々と佇む音符のひとつひとつを活かし切って... また、怜悧に捌かれるユーモアのシュールな魅力... 規模の小さな作品を集めながらも、ピリっとした1枚に仕上げて来るあたり、唸ってしまう。そんなクラフトに応える、演奏家たち、歌手たち、オーケストラのパフォーマンスも冴え、魅了されるばかり... ただ、英語で歌われる『狐』(track.23)は、ちょっとガッカリかなと... 本来のロシア語の響きが持つ語感が、音楽に作用して生まれる、動物たちのエキセントリックな表情が、削がれてしまうのは、ちょっと残念。

STRAVINSKY; Histoire du Soldat ・ Renard

ストラヴィンスキー : パストラール Op.5 〔ストラヴィンスキーとドゥシュキンによるヴァイオリンと木管四重奏版〕
ストラヴィンスキー : 組曲 『兵士の物語』
ストラヴィンスキー : クラリネットのための3つの小品 *
ストラヴィンスキー : ピカソのために *
ストラヴィンスキー : プリバウトキ **
ストラヴィンスキー : 猫の子守歌 **
ストラヴィンスキー : 歌と踊りによる道化芝居 『狐』
ストラヴィンスキー : バリモントによる2つの詩 **
ストラヴィンスキー : 日本の3つの抒情詩 **
ストラヴィンスキー : ロシア風スケルツォ 〔オリジナル、ジャズ・バンド版〕 *
ストラヴィンスキー : ヴォルガの舟歌 〔ストラヴィンスキーによる吹奏楽版〕 *

チャールズ・ナイディック(クラリネット) *
キャスリーン・シエシンスキー(メッゾ・ソプラノ) *
スーザン・ナルッキ(ソプラノ) *
ロバート・クラフト(指揮)
セント・ルークス管弦楽団 *
20世紀古典アンサンブル *
フィルハーモニア管弦楽団 *
他...

NAXOS/8.557505




バルトーク、混迷するハンガリーの中で『中国の不思議な役人』は、ダーク。

HMC901777
1918年の第1次大戦の結果、オーストリア=ハンガリー帝国が瓦解する。中東欧の諸民族にとって、それは悲願の民族自決が達成された瞬間であり、バルトークの祖国、ハンガリーもまた、独立を勝ち取ることになる。のだが、話しは一筋縄では行かない... 連合国に敗戦した同盟国として戦ったハンガリーは、敗戦国として広大な領地の周縁を周辺国に占領されてしまう。さらに、革命による共和国の樹立後、さらなる革命によって共産主義体制が樹立されると、ルーマニアの軍事介入(1919)を招き、王を戴かないまま王国に戻るという、奇妙な体制を樹立。直後、締結されたトリアノン条約(1920)により、クロアチア、スロヴァキア、トランシルヴァニアが割譲され、気が付けば、国土は3分の1に... そんな、完全なる独立と、内政の混乱、国土の縮小という様々なことが同時に進行した不穏な中、生まれたのが、バルトークのバレエ『中国の不思議な役人』(track.11)。『兵士の物語』同様に、終戦の年に作曲が始められるも、戦争が終わってもなお混迷する国内情勢を受け、なかなか完成させるに至らなかったが、1925年に完成。翌年、ブダペストのオペラハウスで、初演の準備が始まる。が、あまりに陰惨なストーリーに、初演は中止。同年、ドイツのケルンで初演されるも、スキャンダルとなり、即中止。
美人局の娘がカモになる金持ちを探す中、やがて中国の不思議な役人を出くわすドラマは、情事と暴力に塗れ、今を以ってしても、スキャンダラス... 娘を意のままにする悪党たちに致命傷を受けながらも、まるでゾンビのように娘に迫る役人... 最終的に思いを遂げることで、死を迎えるという、グロテスクなバレエ... この荒みっぷり、当時のハンガリーの気分でもあったか?役人が、どこかハンガリーそのものの姿に重なるようにも思える。かつてのバルカン一の大国が、周辺国の食い物にされて、痩せ衰えゆくハンガリー... そうしたあたりを、表現主義的に、ダークで、異様な音楽で充たして行くバルトーク。突き抜けたダークさが生み出す不穏な空気と、やがて訪れる絶頂の異様な昂りには、何とも言えない魅力がある。いや、そういうものに魅力を感じてしまうということは、我々が生きる現代もまた相当に荒んでいるということか?何より、時を経ても、恐れ知らずのバルトークの突き抜けた態度が、その音楽の放つインパクトを些かも弱めていないことが凄い。組曲版として聴き易くまとめられたものも魅力だけれど、バレエ(このアルバムでは、復元されたオリジナル・スコアが使用されている... )として、丁寧にドラマが紡がれて行く音楽は、よりそのダークさを深め、味わい深くすらあるのかもしれない。
そんな、『中国の不思議な役人』を聴かせてくれたロバートソン、リヨン国立管。近現代音楽のスペシャリスト、ロバートソンだけに、バルトークの一筋縄では行かない音楽も見事に捌き、仄暗い中を、細部まで丁寧に描き上げ、まるでミニアチュールを形作って行くような、そんなアプローチが印象的。すると、このバレエの表現主義的な性格は薄められ、どこか淡々とドラマが紡ぎ出され、かえって異様さは強調されるのか。ドラマのスキャンダラスさよりも、音楽としてのおもしろみを丁寧に引き出して、そこに、民俗音楽を研究したバルトークの音楽の独特な味わいを引き立て、近代音楽にして、モダニズムとは違う領域を感じさせる。そのニュートラルさが刺激的。また『中国の不思議な役人』の前に、舞踏組曲(track.1-6)、4つの管弦楽曲(track.7-10)が取り上げられ、ジワジワっと表現主義へと踏み込んで行くような展開が絶妙!

Bartók ・ Le Mandarin merveilleux ・ David Robertson

バルトーク : 舞踏組曲 Sz.77
バルトーク : 4つの管弦楽曲 Op.12 Sz.51
バルトーク : バレエ 『中国の不思議な役人』 Op.19 Sz.73

デイヴィッド・ロバートソン/リヨン国立管弦楽団

harmonia mundi FRANCE/HMC 901777




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