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マース、戦争をもたらす者、第1次世界大戦下の『惑星』... [before 2005]

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国際宇宙ステーションには、ウェイクアップ・コールという、目覚ましの音楽が流れるのだそうです。で、それを、宇宙飛行士たちは、あらかじめリクエストしておくらしいのだけれど... 考えてしまう、もし自分が宇宙で目覚めるなら、どんな曲がいいだろうって... ヴォーン・ウィリアムズの揚げひばり、ドビュッシーの沈める寺、マーラーの4番の交響曲、モーツァルトの『コズィ・ファン・トゥッテ』の三重唱、無重力の中で目覚める時、流れていたら、どんなに素敵だろう。って、つい、妄想してしまう。窓からは、美しい地球、漆黒の宇宙... やっぱり、宇宙って音楽が合う!音楽を伝える空気が存在しない場所なのにね... いや、宇宙には耳に聴こえない音楽で充たされている、ムジカ・ムンダーナか... となると、地球という惑星で暮らす我々もまた、音楽の一部なのかも...
そんな宇宙を見上げながら、ケクランの「星空の方へ」、シュトックハウゼンの『十二宮』と聴いて来ての、宇宙の音楽、真打。やっぱり、この作品を外すわけには... ジョン・エリオット・ガーディナーの指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏、モンテヴェルディ合唱団(女声)のコーラスによる、ホルストの組曲『惑星』(Deutsche Grammophon/445 860-2)を聴く。

さて、『惑星』(track.2-8)の前に、興味深い作品が取り上げられるのだけれど、オーストラリア出身で、ドイツで学び、ロンドンで活躍、第1次大戦中にアメリカへと渡った作曲家、グレインジャー(1882-1961)の、想像上のバレエ音楽『戦士たち』。1913年のバレエ・リュスのロンドン公演にあたり、指揮者、ビーチャムから、バレエの作曲を持ち掛けられたグレインジャー... 20代末の若き作曲家には、大きなチャンスだったろうが、結局、話しは立ち消えに... しかし、若き作曲家の意欲は納まることなく、「想像上の」として生み出されたのが『戦士たち』。いや、3台のピアノを用いるなど、結構、挑戦的。で、描かれる情景も、古今東西、様々な戦場に散った戦士たち、古代ギリシアの英雄、ズールー族、ヴァイキング、アマゾネス、果ては、ポリネシアの人喰い族まで、荒々しい戦士たちが亡霊となって、享楽的な宴を繰り広げるというもの... 暴力的で、退廃的で、リヒャルト・シュトラウスの『サロメ』(1905)や、ストラヴィンスキーの『春の祭典』(1913)が初演された時代の気分を含んで刺激的。そして、その音楽なのだけれど、こちらは、『サロメ』や、『春の祭典』の挑戦的な性格とは一線を画し、ライトで、ロマンティックなトーンに貫かれながら、何とも言えず劇画調!そのキャッチーで、ポップな雰囲気は、ミヨーの喧騒を思わせるところがあって、伝統に留まりながらも、新しさを模索する若き作曲家の迸りが、微笑ましく、若さなればこその瑞々しさ、活き活きとした表情には、『サロメ』や、『春の祭典』では得られない輝きが感じられる。
そんな、『戦士たち』が完成した年、1916年、『惑星』(track.2-8)もまた完成している。それが、今から100年前だと考えると、おもしろい。いや、そう遠い話しではない。というより、近代音楽が大きく興隆しようという時代に、伝統に留まることを選んだ2人の選択が、とても興味深い。イギリスで作曲された2つの作品(『戦士たち』は、アメリカで完成... )にある、英国流のマイペースさ... これが、100年を経てもなお、瑞々しいサウンドへとつながるマジック!U.K.の音楽DNAの特性を意識させられる、『戦士たち』からの、『惑星』(track.2-8)という展開。ガーディナーの狙いが、見事に決まる!そして、『戦士たち』の劇画調を、『惑星』(track.2-8)でも活かす、ガーディナー、フィルハーモニア管。ガーディナーらしく、全ての音を徹底して拾い、等しく息衝かせて生まれる、恐るべき解像度!そうして繰り出される音楽は、まさに緻密に描き込まれた劇画。画面の隅々までアグレッシヴに動き出し、息を呑む... 冒頭、「火星」(track.2)の、マース、戦争をもたらす者の、スター・ウォーズ感は、より際立っており... そうあることを厭わない、ガーディナーの澄み切ったヴィジョンに圧倒され、惹き込まれる。
下手に、宇宙の壮大さだの、ロマンティックなものを志向しない、ありのままを徹底して描き出すことで、鮮烈で、刺激的なイメージを生み出すガーディナー、フィルハーモニア管。その演奏が、律儀であればあるほど、劇画調であることが引き立つから、おもしろい。そうして綴られる、組曲、全7曲は、あらゆる場面が息衝き、広大な宇宙へと大冒険に出るような、ワクワク感に充ち満ちている。律儀なのに、生まれる無邪気さ... 何だろう、もの凄くおもしろい感覚!しかし、最後は、全て神秘へと吸い込まれて行く... 神秘なる者、「海王星」(track.8)の、絶妙なフェード・アウト。鮮やかな劇画を繰り広げた後で、やがて静けさに包まれると、何だか切なくなってしまう。存分にワクワクした分、花火が消えるように終わるのが、何だか寂しい。いや、こういう感情を引き起こすまでに至った、ガーディナー、フィルハーモニア管に、感服。

HOLST: THE PLANETS ・ GRAINGER: THE WARRIORS
PHILHARMONIA ORCHESTRA / JOHN ELIOT GARDINER


グレインジャー : 想像上のバレエのための音楽 『戦士たち』 〔オーケストラと3台のピアノのための〕
ホルスト : 組曲 『惑星』 Op.32 *

ジョン・エリオット・ガーディナー/フィルハーモニア管弦楽団
モンテヴェルディ合唱団 *

Deutsche Grammophon/445 860-2




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