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星空を見上げていたことを思い出して... 星空の方へ... [before 2005]

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七夕の日に、大西さん、宇宙へ!久々の晴々しいニュース。
日本人宇宙飛行士も、もう新鮮味は無いかな、なんて思うのだけれど、宇宙に行くって、やっぱり凄いし、宇宙へと旅立つ映像には、いつもワクワクさせられ、ドキドキさせられ、目が離せない。ロケットの発射は、ある意味、究極の旅立ち... 宇宙という、今以って途方も無い場所への旅だもの... 一方で、ダイナミックな発射に見入り、無事に空の彼方へと見送った後の、ああ良かったという安堵感と、見送る側の行ってしまった感が交錯して、何だか切なくもなる。先端技術の粋を集めた場所に漂う、思い掛けない詩情?だろうか、この感覚が、とても不思議。そもそも、宇宙が詩的に感じられる。中世にはムジカ・ムンダーナという考え方があり、ハイドンは月への旅行をオペラにし、天王星を発見した天文学者、ハーシェルは、作曲家でもあった。もちろん、ホルストの『惑星』は外せず、映画『2001年、宇宙の旅』では、「ツァラトゥストラ... 」を筆頭に、音楽が存在感を示した。そんな風に振り返ると、音楽は、常に宇宙を詩的に捉え、憧れを抱いていたのかもしれない。
ということで、そんな宇宙への憧れを音楽にした作品... ハインツ・ホリガーの指揮、シュトゥットガルト放送交響楽団の演奏で、ケクランの夜想曲「星空の方へ」と、交響詩「ファブリチウス博士」(hänssler/93.106)。いや、今、地上は、目を覆いたくなることばかり。ならば、空を見上げよう。モーツァルトの夜の音楽に続いて、星空に思いを馳せる魅惑的な音楽を聴く。

師である、フォーレの代表作、『ペレアスとメリザンド』(1898)や、ドビュッシーのバレエ『カンマ』(1912-13)のオーケストレーションで知られるケクラン(1867-1950)。世代的には、ドビュッシー(1862-1918)とラヴェル(1875-1937)に挟まれ、もうひとりの、フランス、印象主義の作曲家... いや、この人ほど、印象主義を体現できた作曲家はいない気さえする。また、ドビュッシー、ラヴェルよりも長生きしたことで、その音楽は、よりモダニスティックな深化を見せ、一味違う風合いも生み出す。そんなケクランを特徴付けるのが、理系出身であることかも... こどもの頃は自然科学に興味を持ち、やがて、フランス切っての理系エリート校、エコール・ポリテクニークに進むほどの秀才で、最初から音楽を学んでいないところに、ケクランらしさが育まれたと言えるのかもしれない(エコール・ポリテクニークに入学した翌年、結核となり、理系の道は断念し、転地療養の後、1890年、コンセルヴァトワールに入学、音楽の道を進むことになる... )。で、その音楽は、とても美しいのだけれど、その美しさは分析から紡ぎ出されるような印象も受ける。芸術家の創意だけではない、科学者的な視点とでも言おうか、だからこそ、ドビュッシー、ラヴェル以上に、印象主義を推し進めることができた?オーケストレーションを得意としたあたりも、理系的な視点から、音楽の構造を捉えることに長けていたからこそと言えるのかもしれない。
そんな理系作曲家、ケクランの、こどもの頃の夢、天文学者になることを思い起こしながら作曲されたのが、管弦楽のための夜想曲「星空の方へ」(track.1)。ケクラン少年が、夜、ひとりで星空を仰ぎ見る姿が思い浮かぶような始まり... 小さな男の子が、いろいろ思いを巡らせ、静かに宇宙の神秘に魅了されて行くような展開は、何とも言えずポエティックで、映画でも始まりそうな、そんな雰囲気。1933年に完成されたこの作品、モダニズム全盛の時代ではあるのだけれど、とてもロマンティックで、師、フォーレを思わせるような瑞々しさに彩られ、ドビュッシーやラヴェルの印象主義とは、また違った抒情に包まれる。もちろん、19世紀の伝統に留まっているような音楽ではなく、小さな男の子の思いから広大な宇宙へと視点が移って行くような後半は、壮麗さに包まれ、ホルストの『惑星』に負けないダイナミズムも見せて、圧倒。やがて、宇宙そのものの静けさが広がり、印象的に閉じられる。時間にして12分強、けして大作ではないけれど、十分にスケールを感じさせるあたり、見事。
という「星空の方へ」の後に取り上げられるのが、ケクランの叔父、哲学者にして作家、シャルル・ドルフュスの小説に基づく交響詩「ファブリチウス博士」(track.2-16)。隠遁生活を送るファブリチウス博士が、ひとりの客を招待し、静かにディナーが供される。そこでの哲学的な対話を経て、博士もまた星空を仰ぎ見る... 「星空の方へ」のケクラン少年は、やがてファブリチウス博士となる展開?第二次大戦中に作曲されたケクランの晩年の作品には、作曲家の長い人生を経ての、様々な思いが詰まっているようで、深くも一筋縄には行かない音楽を織り成している。そこには、オンド・マルトノによる電子の音も加えられ、その個性的なサウンドが、どこかスピリチュアルな雰囲気も漂わせ、アクセントに... また、近代戦争の惨禍を経験し、モダニズムが瑞々しさを失った時代を意識させる、仄暗く、沈鬱で、何より厭世的な表情が随所に現れ、何とも切なげで、心に響く。
そんなケクランを聴かせてくれる、ホリガー、シュトゥットガルト放送響。ケクラン・ルネサンスの立役者たち。このアルバムも、世界初録音ということで、気合が入っているのだけれど、何より、ケクランと宇宙という軸で、ケクランの抒情を存分に聴かせてくれるあたり、惹き込まれる。いや、ケクランという希有な感性が捉える宇宙のスペイシーさは、本当に魅惑的で、その演奏に包まれていると、まるで宇宙を漂うかのような瞬間が、度々、訪れる。また夜の音楽とでも言うのか、全体をしっとりと仄暗く鳴らす、シュトゥットガルト放送響の演奏も印象的で、ドイツのオーケストラらしい、重めのロマンティックさが、ケクランの宇宙をよりファンタジックに見せるのか。だからこそ、「星空の方へ」から「ファブリチウス博士」の流れにもドラマを感じさせ、人生と宇宙を重ね、そこはかとなしに壮大な風景を描き出す。そして、心に響いて来る。

CHARLES KOECHLIN Le Docteur Fabricius / Vers la Voûte étoilée

ケクラン : 管弦楽のための夜想曲 「星空の方へ」 Op.129 〔カミーユ・フラマリオンの思い出に捧ぐ〕
ケクラン : シャルル・ドルフュスの小説に基づく交響詩 「ファブリチウス博士」 Op.202 *

ハインツ・ホリガー/シュトゥットガルト放送交響楽団
クリスティーヌ・シモナン(オンド・マルトノ) *

hänssler/93.106




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