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来るなら来い、美しい島、アーサー王、フォーエヴァー! [before 2005]

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はい、イギリス、離脱、決定しましたね!すばらしい決定だったと思います。EUの前身、ECに加盟することで、英国病を脱したイギリスが、EUを卒業しようと言うのだから、ある種のモラトリアムの終わりなのでしょう。いや、ひとつの時代の終焉を感じます。世界を見渡しても、これまで考えられなかったような状況が次々に生まれている。これが、21世紀のリアルなのですね。一方で、好むと好まざると、グローバリゼーションが深化する21世紀、離脱という選択をしたイギリスの人々の向こう見ずな勇気、ただただ凄いなと... 実際の離脱までの困難な道程と、その後を考えると、経済はもちろん、様々な場面で危機的状況に陥って行くでしょうが、腹を括って乗り越える!こういう気概は、これまでの狡猾なイギリスの在り方には無かったもの。どん底から這い上がる... そういう泥臭いストーリーの先に、新しい世の花が咲いたなら、それこそ歴史となるはず... がんばれ!
ということで、イギリスが、昔々、がんばった話し... 大陸からの勢力を追い出し、勝利した物語を描く... ウィリアム・クリスティ率いる、レザール・フロリサンの演奏とコーラス、ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)、サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)、マーク・パドモア(テノール)ら、ピリオド系の実力者が歌う、パーセルのオペラ『アーサー王』(ERATO/4509-98535-2)を聴く。

かつて、イギリスが、王党派、議会派に二分され、内戦(1642-49)となり、国王が処刑(1649)され、原理主義の恐怖政治(1649-60)が支配し、長い歴史を誇ったイギリスの音楽の伝統が破壊された不毛の時代を終えて間もない頃、イギリスの音楽が再生されようという時に、パーセル(1659-95)という輝かしい才能は現れた。そして、大きく揺れたイギリスを元気付けるようなオペラが誕生する。1691年、ロンドンで初演された『アーサー王』。キリスト教の守護者にしてブリトン人の王、お馴染み、アーサーが、大陸から進出して来た異教徒、サクソン人に勝利!浚われていた恋人、エメリーンを取り返して、サクソン人に大陸へ帰れと宣告、幕となる(おおっ?!どこかで見たぞ、この風景... )。そこには、王政復古期における、プロパガンダとしての性格もあったようで、アーサー王はイギリスに帰還したチャールズ2世(在位 : 1660-85)を表し、サクソン人に浚われていた、王の恋人、エメリーンが、イングランドのアレゴリー... 王がイングランドを取り返し、ハッピー・エンドとなるわけだ(台本は、1688年の名誉革命を経て改訂され、パーセルは改訂版に作曲している... )。さて、このオペラの魅力は、ハッピー・エンドに至るまで、古い神々や精霊たちが、あの手この手で大奮闘する様!で、歌は、魔法?
ドラマティック・オペラと題されている『アーサー王』だが、いわゆるイタリア・オペラ(ロンドンでのイタリア・オペラのブームはあともう少し先... )とは違い、英語を用い、歌と台詞が交替して繰り広げられる、ジングシュピール的なスタイルを採っている(イギリスでは、台詞が歌われることがまだ奇異に感じられていた... )。のだが、イメージとしては、より劇伴に近い印象すらある。ちなみに、アーサー王をはじめ、主要キャストはみな俳優が演じ、歌うのは、主要キャストをサポートする古い神々や精霊たちが中心... 人間界と精霊界を歌で分けるという、なかなかおもしろい構図が見えて来る。何より、台詞を歌うことでファンタジーを表現する合理とでも言おうか... パーセルは台詞を歌うことを逆手に取って、思いの外、表情豊かな音楽を繰り出す。そうした中、特に印象に残るのが、凍える島の神が、本当に凍えながら目覚める場面(disc.1, track.18)。あまりに寒そうなのがウケる!ま、これは、極端な例ではあるのだけれど、他のナンバーは、どれもメロディアスで、歌うことそのものが活きている。そうしたあたりが、ヘンデルの到来を予感させるものがあって、興味深い。特に、コーラスが充実しており、1幕、幕切れのブリトン軍の兵が歌う「来るなら来い!」(disc.1, track.8)の、唸りからの、力強く、キャッチーな歌いっぷりは、最高!オペラとしての密度は低いものの、ひとつひとつのナンバーの味わいは、同時代のイタリア・オペラにまったく引けを取らない。場合によっては、凌駕するのでは?とすら思える... パーセルは、『アーサー王』の初演の4年後、1695年に36歳で世を去る。が、あと10年、生きていたら... もしイタリア・オペラを手掛けるようなことがあったなら... そんなことを想像すると、イギリスのオペラは、また違った展開があったかもしれない。
そんな『アーサー王』を聴かせてくれた、クリスティ+レザール・フロリサン。フランスものを得意とするピリオド・アンサンブルがイギリスを捉えると?より表情が引き立つようなところがあって、魅惑的!フランスの色彩感、明朗さが、パーセルの音楽を活き活きと響かせ、魔法使いが活躍するファンタジー、アーサー王の世界を、よりオペラティックに描き出す。また、あちこちに散りばめられたダンス・シーンでは、軽やかにリズムが爆ぜて、楽しげな気分を次々に繰り出す。そんな楽しさに触れていると、パーセルのオペラに、フランスのバロック・オペラとの近さも感じてしまう。そして歌手たち!いやー、みな瑞々しく美しい歌声を聴かせてくれて、どのナンバーも聴き入るばかりなのだけれど、特に、このオペラを代表するナンバーと言えるだろう、「美しい島」(track.10)を歌うジャンスの、何とも言えずやさしげな歌声が忘れ難い。ブリテン島の、のどやかな風景がふわーっと浮かび上がり、国を二分した少し前の時代を癒すかのよう。今、聴くからこそなのか、心に響くものがある。一方、レザール・フロリサンの合唱部隊の表情豊かなコーラスにも魅了される!勇壮かつ、ユーモラスに、器用に歌い上げ、場面をしっかりと描き出す。何だろう?そんな歌声に元気付けられる。

PURCELL King Arthur
Les Arts Florissants WILLIAM CHRISTIE

パーセル : オペラ 『アーサー王』 Z.628

ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)
クラロン・マクファーデン(ソプラノ)
サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
スザンナ・ウォーターズ(ソプラノ)
マーク・パドモア(テノール)
イアン・ペイトン(テノール)
ジョナサン・ベスト(バス)
ペッテーリ・サロマー(バス)
フランソワ・バゾラ(バス)

ウィリアム・クリスティ/レザール・フロリサン

ERATO/4509-98535-2

ところで、アーサー王がサクソン人に勝利した後、美しい島、ブリテン島はどうなったか?結局、サクソン人、アングル人、ジュート人に制圧され、複数の王国が割拠。そこから、サクソン人の国、ウェセックス王国が周囲に影響力を及ぼすようになり、イングランドが形成されて行く。が、デーン人の侵攻が始まり、やがてデンマーク王の支配下に... その後、ウェセックスの王家が復権するも、間もなくノルマン人に征服され、ノルマン朝が成立。これが、今に至る王国の始まり。となると、もうね、移民万歳です。さて、ノルマン朝は、ノルマンディー公という、フランス切っての有力諸侯だったから話しは複雑に... ノルマン朝が断絶すると、その血を引く、やはりフランス切っての大貴族、アンジュー伯を王に迎える。中世のイングランドは、フランス王国に広大な領地を持つことで、繁栄(婚姻によりフランスの2/3を領有!これが原因で、やがて百年戦争... )。って、大陸との縁、深過ぎ...
歴史を紐解くと見えて来るものがあります。今の姿は本来の姿ではない!なんて、イギリスに限らず、あちらこちらで言われがち、だけれど、いやいや、意外と変わらないものなのですよ、国の姿なんて... これ、日本にも言えることだと思う。そんな自らを、冷静に見つめることができる。そうして、己を知る。21世紀、グローバリゼーションの大波をサーフィンするのに、欠かせないこと。で、イギリスは、サーフィンなんてしたくないと、小さなボードから大波に飛び込んだわけだ。泳ぎ切れて?




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