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神秘家、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、天上からの音楽。 [before 2005]

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ここのところ、世界中で、酷いことがあり過ぎる。単なる過激派テロで済まされない、アメリカン・マチズモという病がもたらす悲劇、フロリダ、オーランドでの凶行。イスラム圏で多発する切な過ぎる名誉殺人。EU離脱論争、過熱の果ての議員殺害。都知事の辞任など、まったく以ってかわいいくらい... だけれど、ターゲットをロックしたなら決して逃さない日本にも、何とも言えない緊張感が漂っている。それらの裏には何があるのか?ストレスな気がする。今、地球上は、あまりにストレスフルな気がしてならない。そして、世界各地で多発する凶事も、ストレスの爆発なんじゃないかと... いや、最近、自分自身がストレスを感じているのかも...
ということで、癒されたい!そんな音楽を求めて、一気に中世へと遡る。古楽アンサンブル、ラ・レヴェルディの歌と演奏に、聖ボルトロ小聖歌隊のコーラスで、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの聖歌を集めたアルバム、"SPONSA REGIS"(ARCANA/A 314)を聴く。

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)。
ドイツ西部の地方領主、ヒルデベルト・フォン・ベルマースハイムの末っ子として生まれたヒルデガルト。幼い頃は、とても病弱で、両親が一晩中、看病するような、危険な状態もあったらしい。そうした中で、ヒルデガルトはヴィジョン=幻視を見始める(今風に言うならば、霊視?沖縄のユタを思わせる、大病を経て霊能を授かるというパターンがとても興味深い... )。が、その能力は長らく封印されることになる。さて、特別な力を授かり、また洞察力に富み、利発なこどもであったヒルデガルトは、名家の出の修道女、ユッタ・フォン・シュポンハイムに預けられ(1106)、やがて、フォルマール修道士がその教育に携わるようになり、中世における知の集積地、修道院で、祈りとともに、その才能は静かに育まれて行く。1136年、ユッタが亡くなると、ユッタが創設した女子修道院を引き継ぎ、院長となり、しばらくして、封印して来た能力を公にする時が来る。1141年、フォルマール修道士の助けを得て、ヴィジョンから得た啓示を綴り始め、そうして書かれた『道を知れ』は、やがて、教皇にも知られるまでに... 40代にして、神秘家(ヴィジョンを見て、それ人々に伝える... ある種の宗教思想家... )として活動し始めたヒルデガルトは、修道院で歌う聖歌の作曲も始める。そうして生まれた様々な祈りの歌を聴くのだけれど...
はぁ~ 癒される。その一言に尽きる。女声によるピュアな歌声が際立つ、澄んだサウンドは、多声音楽の黎明期、ほぼ単声で歌われるからこそのもの。この真っ直ぐなシンプルさに触れていると、現代、我々を取り巻く音楽が、如何にグロテスクかを思い知らされる。何より、その真っ直ぐなシンプルさに、浄化される思い... 神秘家が生み出す音楽というのは、やはり、どこかで天上とつながっているのかもしれない。ヒルデガルトが活躍を始めた12世紀後半、パリではノートルダム楽派が活動を始めようとしていたわけだけれど、ドローンの低音を効かせた、プリミティヴさすら漂う、男声によるゴシック・サウンドを思い起こすと、ヒルデガルトが紡ぎ出した音楽は、思いの外、メロディアスで、旋律のより自由な飛翔を見出し、印象的。例えば、ソロとコーラスが交替で歌う「めでたしマリア、おお、命の泉よ」(track.5)の、低音から高音へ、幅広く音を捉え、生まれる、得も言えぬ、たおやかさ!ノートルダム楽派では味わえない、音楽が天から降りて来るような浮遊感がたまらない。その浮遊感の中に身を委ねていると、こちらまでヴィジョンが見えて来そう。いつの間にやら神秘家のパワーを感知している?
作曲に関して、ヒルデガルトは、学ぶことなく、まるで預言を授かるように、祈りの歌を紡ぎ出したと語っている。その音楽に、そういう雰囲気は、間違いなくある。が、中世、修道院における音楽の重要性を考えると、ヒルデガルトが音楽をまったく学んでいなかったとは思えない。事実、ユッタからプサルテリウム(中世ヨーロッパ版琴?みたいな... 後にチェンバロへと発展する... )を習ってもいた。そこには、神秘家として、作為的にミラクルが強調された背景もあったのだろう。一方で、ゴシック期の音楽を見渡した時、ヒルデガルトの音楽には、他には無い特異なものを感じなくもない。いや、モードでは計れない秀でたものすら感じる。もちろん、ヒルデガルト自身の才能もあったろうが、神秘家として、降りて来たものもあったと考えると、ちょっと刺激的。
そんな、ヒルデガルトを聴かせてくれるのが、ラ・レヴェルディ。5人のメンバーによる澄み切った美しい歌声に、それぞれが奏でる古楽器の瑞々しい音色、その全てに惹き込まれてしまう。しかし、歌い、奏でもするという器用さ!超絶技巧を繰り出すような音楽ではないにしても、美しく歌い、美しい音色を奏でることに、驚かされる。ヒルデガルトもまた、こういう器用さを有していたのだろうと思うと、"SPONSA REGIS"から聴こえて来るサウンドが、凄くリアルに感じられ、おもしろい。そこに優秀録音も相俟って、中世が透けて見えるよう。で、聖ボルトロ小聖歌隊の清廉なコーラスがまた素敵。楚々とした中に、広がりを感じさせるスペイシーさ... こんな風だったのかも、ヒルデガルトが営んだ女子修道院の佇まい...

HILDEGARD OF BINGEN - SPONSA REGIS
LA REVERDIE

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : シンフォニア・ヴィルジヌム "O dulcissime amator"
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "Hodie aperuit" 〔アンティフォナ〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : デ・サンクタ・マリア "O splendidissima gemma" 〔アンティフォナ〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "Affluens deliciis David Regis filia" 〔セクエンツィア〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : デ・サンクタ・マリア "Ave Maria auctrix vitæ" 〔レスポンソリウム〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "Nunc gaudeant materna viscera ecclesia" 〔アンティフォナ〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "O frondens virga" 〔アンティフォナ〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "Cum erubuerint infelices" 〔アンティフォナ〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "Audi chorum organicum" 〔セクエンツィア〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : Lectio I 〔黙示録 XXII, 1-6, 13-17〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "O tu suavissima virga" 〔レスポンソリウム〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : "O virga ac diadema" 〔セクエンツィア〕
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン : Lectio II 〔『スキヴィアス』 III, 8〕

ラ・レヴェルディ
聖ボルトロ小聖歌隊(女声)

ARCANA/A 314




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