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ある若者の旅の始まり... イタリアより、リヒャルト・シュトラウス。 [before 2005]

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クラシックにおける"イタリア"に、改めて注目してみた、この2ヶ月。イタリア・オペラ切っての人気作、『アイーダ』から、近代イタリアの音楽のアイコン、ローマ三部作まで、いろいろ聴いてみたのだけれど、ウーン、イタリアは深い!一見、陽気で、場合によっては軽くすら見られることもあるけれど、古代から続く歴史の重みは半端無い。もちろん、音楽史におけるイタリアは、バロックの開花とともに始まるわけだけれど、音楽に留まらない、古代以来の文化的蓄積の重みは、時を経れば経るほど、深みを生み出すように感じた。そんな"イタリア"を旅して来て、その最後に、実際にイタリアを旅した作曲家、その旅から生まれた音楽をまた聴いてみようと思う。
ということで、ベルリオーズメンデルスゾーンに続いての、リヒャルト・シュトラウス... デイヴィッド・ジンマンの指揮、彼が率いていたチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏で、交響的幻想曲「イタリアより」(ARTE NOVA/74321 77067 2)を聴く。

まずですね、ずーっとイタリアを聴いて来ての、ドイツが放つインパクトに唸ってしまう。何たる安定感!オーケストラのサウンドに、ずっしり重みがある。ヘヴィーであることは、何て魅惑的なんだ!ウーン、さすがはドイツ... いや、イタリアよりもドイツが優れているとか、そういう話しではなくて、久々に触れて際立つドイツのヘヴィーさに、イタリアとドイツの音楽的指向の違いが明確になった気がする。イタリアは全体のバランス(ルネサンスの残照?)を重視し、ドイツは分厚いベースを作った上に音楽を繰り広げる。大地にしっかりと根の張ったドイツの深い森を思わせるそのサウンド... ドイツ・ロマン主義が、アルプス以北の環境に根差したものであることを、しっかり感じ取ることができた。が、リヒャルトはイタリアを旅したはず... そうして生まれた「イタリアより」(track.1-4)のはず... なのだけれど、そんなことを忘れてしまうようなヘヴィーさが、この作品のおもしろさかも...
1886年、22歳となる少し前、リヒャルトは、マイニンゲンの楽長から、故郷、ミュンヒェンの宮廷歌劇場、第3楽長へと転出するにあたり、そのシーズン・オフの間、イタリア旅行に出る。いわゆる、グランド・ツアー... 歴史あるイタリアの遺産に触れ、古典の教養を高め、地中海の風光明媚な景色を味わう。で、リヒャルトは、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、さらに、ソレント、ポンペイと、教科書通りの旅程をつつがなくこなす。そこからインスピレーションを得た、交響的幻想曲「イタリアより」(track.1-4)。4楽章構成で、まるで交響曲のよう。しかし、メンデルスゾーンのイタリア交響曲のような、形式感は抑えられ、幻想曲という通り、もっと自由な、それでいてロマンティックな音楽が流れ出す。何より、この音楽を聴いて、イタリアを想起する聴き手がどれだけいるのだろうか?いや、終楽章(track.4)では、いやでも想起させられることになるのだけれど、そのあたりはさて置き... リヒャルトは、メンデルスゾーン同様、イタリアの音楽にまったく興味を示さなかった。それどころか屑とすら言っている。そうした態度を反映してか、「イタリアより」に、イタリアはあまり感じられない。メンデルスゾーンが自らの語法でイタリアの明朗さ、情感を描き出したことを思い起こすと、リヒャルトの浅はかさを感じずにはいられない。いや、若いからこその自己満が、何とも痛い!で、そのあたりが炸裂してしまうのが、終楽章、ナポリ市民の生活(track.4)!
聴こえて来るのはフニクリ・フニクラ!屑とすら言ったイタリアの音楽の、その最もイタリアンなメロディーを引用してしまうリヒャルト。最後の最後で、これ以上ないほどわかり易い形で「イタリアより」を表明してしまう付け焼刃。いやー、本当に若い!上質な、それでいてヘヴィーな、ドイツ・ロマン主義による幻想曲が展開された後で、ギャグか?!と思わせるようなイタリアが繰り広げられてしまうのだから。けど、この若いからこそのノリみたいなものが、絶妙にチープで、この音楽を思い掛けなくおもしろくしているから、若さって凄い... で、フニクリ・フニクラのメロディーも、リヒャルトの手に掛かると、どこかドイツの行進曲みたいで、ウケる!何だ、このマイペースっぷり... けれど、ここに、『ばらの騎士』(実際の18世紀ではなく、自らのイメージの中で再創造された18世紀... )へとつながる、リヒャルト独特のフェイク感が芽を出しているようにも感じられ、とても興味深い。てか、リヒャルトの音楽の本質というのは、フェイク?マイペースを越えて、自己満?そういう視点を持つと、いろいろ納得(「英雄の生涯」とか... )できるのかも... そういうものが浮かび上がる、「イタリアより」かなと...
そして、そういうリヒャルト像を、さらりと響かせてしまうジンマン、チューリヒ・トーンハレ。ジンマンならではの明晰なアプローチは、リヒャルトの若さを包み隠さず、ありのままに響かせて、この作品の粗というか癖こそを、おもしろさとして昇華し、ポジティヴ。だからこそ、作曲家の本質が炙り出されるようでもあり興味深く、また感慨深くすらある。そんなジンマンに、卒なく対応するチューリヒ・トーンハレ管のクリアかつ瑞々しいサウンドが、若きリヒャルトの音楽を鮮やかに鳴らし、惹き込まれる。「イタリアより」の後で取り上げられる交響詩「マクベス」(track.5)では、ドラマティックな音楽を丁寧に展開し、旅行気分の「イタリアより」から絶妙に切り返して、ドイツ・ロマン主義の本領をしっかり聴かせ、また印象的。

Richard Strauss: Aus Italien ・ Macbeth

リヒャルト・シュトラウス : 交響的幻想曲 「イタリアより」 ト長調 Op.16
リヒャルト・シュトラウス : 交響詩 「マクベス」 Op.23

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA/74321 77067 2




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