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古楽、伝統、近代、いともニュートラルなマリピエロ。 [2007]

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そう言えば、今年、2016年は、日伊修好150年なんだそうです。
1866年、イタリアは統一目前で、日本は幕末という、互いになかなか興味深い状況下で結ばれた日伊修好通商条約。おもしろいのは、その後の150年の歩みが、日本もイタリアも似ているところ。第1次大戦への微妙な参戦、それによる一応の戦勝。やがてナショナリズムが台頭し、軍部の専断、日独伊三国同盟で戦った第2次大戦、そして、敗戦。戦後は、アメリカの影響下、西側、自由主義陣営の一員として歩み... あれれ、何この不思議なパラレル感!あの歴史ある華麗な"イタリア"というイメージから離れ、"国"として見つめると、おもしろいくらいに近しく感じられてしまう?ということで、近代イタリアの音楽を聴いております、今月... なんて、実は後付けなのだけれど、この際、近代イタリアの音楽をしっかり聴こうではないかと...
レスピーギの擬古典主義、マルトゥッチに始まる近代イタリアにおける音楽の諸相、そして、戦後「前衛」の時代、我が道を行ったベリオと来て、近代イタリア、最も重要な作曲家と目されるマリピエロを取り上げる。オルフェウス弦楽四重奏団のASVからリリースされていた名盤の復刻、マリピエロの弦楽四重奏曲全集(BRILLIANT CLASSICS/BRL 8550)を聴く。

ジャン・フランチェスコ・マリピエロ(1882-1973)。
ヴェネツィアで、貴族の家系に生まれたマリピエロ... 祖父、フランチェスコは、オペラで人気を博した作曲家で、父、ルイージも、ピアニストにして指揮者だったとのこと... となると、音楽への道はごく自然だったのだろう。が、幼くして両親が離婚したことで、父に付いてヨーロッパ各地を巡り、不安定なこども時代を過ごす。17歳の時、ヴェネツィアに暮らしていた母の下に移り、ヴェネツィアの音楽院に入学。マリピエロは、17世紀、サン・マルコ大聖堂を率いたモンテヴェルディの古いスコアと出会い、それを写譜することで、イタリアがかつて誇った音楽的英知を吸収して行く。この経験がマリピエロの興味深い音楽性を育み、やがて古楽の先駆者として大きな足跡を残す第一歩となった。その後、ヴェネツィアからボローニャへ移り、ワーグナーの弟子、失明していた作曲家、スマレーリャの筆記者を務め、さらなる研鑽を積み、1913年には、パリを訪れる。ここでは、同世代のカゼッラ(1883-1947)と出会い、『春の祭典』のセンセーショナルな初演にも遭遇し、大いに刺激を受ける。
バロックの大家たちに、スタンダードとなっていたドイツ語圏の音楽、真新しいフランスでのモダニズムと、バランスよく吸収したマリピエロの音楽は、独特なニュートラルさを感じさせる。で、それを際立たせる、弦楽四重奏という極めてベーシックな編成... ここで聴く、弦楽四重奏曲全集、全8曲、2枚組は、第1次大戦後、マリピエロの音楽性が確立された後、1920年の1番に始まり、晩年まで、コンスタントに作曲されたもので、マリピエロの音楽像を知るには絶好の2枚組。ということで、まずは1番、「リスペットとストランボット」(disc.1, track.1)。古い詩の形を意味するタイトルが古雅で、その音楽もどこかアルカイックな表情を湛え、擬古典主義が興隆する頃を意識させる。けれど、明確に擬古典主義を展開することはけしてなく、ドビュッシーの弦楽四重奏曲を思わせるような魅惑的なサウンドに彩られつつ、表情豊かな音楽を繰り出す。続く2番、「ストルネッロとバッラータ」(disc.1, track.2)もまた、古い音楽の形を意味するタイトルが付けられ、擬古典主義を思わせるのだけれど、安易なイズムに捉われない瑞々しいサウンドを響かせ、バルトークを思わせる民俗調のアグレッシヴさが現れるところもあり、モダンな魅力も... 少し時間が開いて、1931年の作品、3番、「マドリガル風の歌」(disc.1, track.3)では、ストラヴィンスキーの擬古典主義を思わせる、よりモダニスティックでドライな雰囲気も現れ、お洒落でクール。
さて、後半、2枚目で取り上げる4曲は、第2次大戦後の作品... で、晩年に差し掛かったその音楽は、戦後「前衛」の時代の破壊的な音楽のうねりなどまったく無かったように、それまでのニュートラルさを飄々と揺ぎ無く展開。が、そうした中で、最後、1964年に完成した8番、「エリザベッタのために」(disc.2, track.4)は、ちょっと趣き異にする。それは、マリピエロ、82歳の作品で... 驚くべきことに、82歳にして、新たに12音技法を用いる。それは、戦前のベルクを思わせる抽象性を漂わせて、どこか艶やかでもあり印象的。とはいえ、音列音楽事態が行き詰った頃に、ベルクとは... ツワモノ、マリピエロ御大... いや、この随分とズレた感覚こそ、ある種のニュートラルさを示すものだったか?行き詰ったからこその12音技法だったら、唸ってしまう。
という、実に興味深いマリピエロの弦楽四重奏曲、全8曲を奏でたのがオルフェウス弦楽四重奏団。まず、その鮮やかなサウンドに目が覚める!それでいて、端正... 弦楽四重奏という、西洋音楽の核心とも言える編成の、古典美とでも言おうか、4つの弦楽器が織り成す響きの明晰さと瑞々しさに惹き込まれる。また、そういう古典美が際立つマリピエロ作品であって... マリピエロの独特なニュートラルさを的確に繰り出し、ピュアな音楽像を紡ぎ出すオルフェウス弦楽四重奏団の演奏は、見事。全8曲、2枚組も、まったく飽きさせることなく、マリピエロという希有な存在を的確に、しっかりと響かせる。

MALIPIERO COMPLETE STRING QUARTETS
ORPHEUS STRING QUARTET

マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第1番 「リスペットとストランボット」
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第2番 「ストルネッロとバッラータ」
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第3番 「マドリガル風の歌」
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第4番
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マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第5番 「カプリッチョ風」
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第6番 「ノアの方舟」
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第7番
マリピエロ : 弦楽四重奏曲 第8番 「エリザベッタのために」

オルフェウス弦楽四重奏団
シャルル・アンドレ・リナール(ヴァイオリン)
エミリアン・ピエディクタ(ヴァイオリン)
エミール・カンター(ヴィオラ)
ラウレンティウ・シュバルツェア(チェロ)

BRILLIANT CLASSICS/BRL 8550




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