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"All' Improvviso"、初期バロック、その自由を呼び覚ます。 [before 2005]

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いやー、連休、真っ只中です。はい、家におります。これもまた、連休です。しかし、連休なればこそ、街は静けさに包まれて、いつもとは違う空気感で充たされる。いや、いつもと同じ空気なのだけれど、これまでノイズに掻き消されていたものが、ふと存在を際立たせるようで、より春を味わうことができるのか... 連休の静けさの中に、贅沢な気分を見出す。そんな、美しき5月、明朗にして、快いアルバムを聴いてみようかなと... 前回、初期バロックの自由な気風に溢れた"Viaggio Musicale"を楽しんだのだけれど、その自由なあたりに、現代のセンスを、また自由に乗せてみたら、どんな表情を見せるだろうか?という、おもしろい実験...
ジャンルを横断するAlphaの白のジャケット、"Les chants de la terre"のラインからの1枚。で、クリスティーナ・プルハルが率いる、ラルペッジャータが、イタリアの初期バロックのナンバーを中心に取り上げる。が、その即興の部分... 時代にこだわらず、より自由なセンスで響かせたら?というアルバム、"All' Improvviso"(Alpha/Alpha 512)を聴く。

古楽とワールド・ミュージックとの対話(そればかりではないのだけれど... )を試みる、"Les chants de la terre"ならではのテイスト... イタリアのカンタトゥリーチェ(カンツォーネ歌い... )、ルチッラ・ガレアッツィの作詞作曲によるナンバー、「わたしは家が欲しい」で始まる"All' Improvviso"。ガレアッツィによる愛らしいメロディーに、初期バロックの流儀でオスティナートが添えられて、ちょっとフロットラ(ルネサンス期のイタリアで流行した、対位法を用いないシンプルな歌曲... )を思わせる軽いタッチが、そよ風のよう... いやー、心浮き立つ音楽!もちろんガレアッツィのカンタトゥリーチェとしての魅力も輝いていて、そこに、ジャズのフィールドで活躍するトロヴェジのクラリネットが陽気なサウンドでメロディーを引き継ぎ、音楽は一気に砕けた表情を見せ始める。トラッドとジャズと古楽... それぞれに作法、語法がありながらも、自由であることを失わない音楽が、それぞれの"自由"な部分を窓口につながって行くおもしろさ!扉となる1曲目から、その魅力に強く惹き込まれてしまう。
2曲目は、フォリア(track.2)。まさに古楽の定番なのだけれど、この定型のリズムとメロディーに、トラッド、ジャズ、古楽が、それぞれに即興で乗っかって、ケミストリーを起こす。イベリア半島に端を発する舞曲だけに、ギターが掻き鳴らされ、フラメンコっぽさが強調されるその出だし... まず、そこがカッコいい!すると、トロヴェジのクラリネットが颯爽と登場して、荒野に立つヒーローでも見つけたような、ちょっと見栄を切るラテンっぽさがツボ。続く、カッツァーティのチャッコーナ(track.3)は、イタリアの初期バロックならではの朗らかさが広がり、コルネット(角笛)の伸びやかな音色、クラリネットにはない素直な歌いに、惹き込まれ。その後で、グリーンスリーヴスで知られるロマネスカ(track.4)が、ハープ、リュート、プサルテリオンという撥弦楽器のコンソートを思わせる編成(プサルテリオンは爪弾かないので、ちょっと違うけれど... )で奏でられ、イギリスのしっとりとした表情を瑞々しく響かせて、ラテン・カラーの強い他のナンバーとは一味違う魅力で以ってアクセントを効かせる。
"All' Improvviso"が取り上げるナンバーは、基本的にイタリアの初期バロックなのだけれど、そこには広くヨーロッパ各地の舞曲が取り込まれていて... フォリアはイベリア半島発で、南米で生まれたと考えられるチャッコーナはイベリア半島経由でイタリアに伝えられたもので、グリーンスリーヴスはヨーロッパ各地で歌われたイングランド発のヒット・ナンバー!このあたりにも、初期バロックの時代の自由な気風、当時のイタリアの好奇心旺盛さを見出せるのかも... またそうしたあたりを丁寧に展開するプルハル... ジャンルを越境する刺激的なコラヴォレーションに耳が奪われがちなのだけれど、その裏で、かつて国境を越えて広がりを見せた音楽の縦横無尽さを、しっかりと提示して来る巧者っぷり。いや、聴けば聴くほど興味を掻き立てられる"All' Improvviso"... そのタイトルは、突然、を意味するイタリア語、即興=インプロヴィゼーションを喚起するものだけれど、けして思い付きで織り成されている音楽じゃないなと... プルハルの確かなヴィジョンに、ウーン、唸ってしまう。
しかし、そんなこと、微塵にも感じさせず、最高に楽しい音楽を活き活きと繰り出すプルハル+ラルペッジャータ!そして、ガレアッツィ、トロヴェジら、異なるジャンルからのアーティスト!そこに、もうひとり、地声テノール、ビーズリーの存在も欠かせない。"All' Improvviso"の飾らない佇まい、ナチュラルさを象徴するようなその歌声は、クラシック以前の初期バロックの屈託の無さを、そのまま物語るよう... この肩から力の抜けた雰囲気... これから音楽が様々に展開されて行くだろう、初期バロックのプレーンな姿の瑞々しさ... ビーズリーのみならず、ラルペッジャータの演奏も、そういう素直さ、あるいはニュートラルさを感じさせ、だからこそ活きて来るコラヴォレーション!カンツォーネ、ジャズ、様々なテイストに鮮やかに呼応しつつ、またそれらを巧みに撚って、より魅惑的な音楽へと昇華してしまう。それは、音楽そのものの可能性を体現するかのよう。そうして綴られる"All' Improvviso"は、理屈抜きの楽しさを聴かせてくれる。

All' Improvviso
L'Arpeggiata – Christina Pluhar


ガレアッツィ : わたしは家が欲しい **
ラ・フォリアによる即興 *
カッツァーティ : チャッコーナ
ロマネスカ 〔サンティアゴ・デ・ムルシアとマルティン・イ・コルに基づく〕
ベルガマスカ 「トゥルルル」 **
ニ調のフォリア・パッサカーリャによる即興
チャッコーナによる即興 *
ラ・ロマネスカに基づく ニンナ・ナンナ **
ベルターリ : チャッコーナ
フレスコバルディ : そよ風がため息をつけば 〔アリエ・ムジカーリ・ペル・カンタジル 第1巻 より〕 **
ランバルディ : トッカータ
カプスベルジェルによる即興 *
ファルコニエーロ : フォリアス 〔カンツォーネ、シンフォニア、ファンタジー集 第1巻 から〕
ルイス・デ・リバヤス : エスパニョレータ *
ルイジ・ポッツィ : 全音階的パッサカーリョによるカンタータ **

ルッチラ・ガレアッツィ(ヴォーカル) *
マルコ・ビーズリー(ヴォーカル) *
ジャン・ルイジ・トロヴェジ(クラリネット) *
クリスティーナ・プルハル/ラルペッジャータ

Alpha/Alpha 512




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