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ヴァイオリンが舞台の中心に躍り出た頃、コレッリの洗練。 [before 2005]

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18世紀、ヴァイオリンの鬼才、タルティーニ(1692-1770)に続いて、17世紀、ヨーロッパ中を虜にしたヴァイオリンの巨匠、コレッリ(1653-1713)を聴いてみようかなと... さて、コレッリの時代とは、どんな時代だったか?普段、あまり意識されないように思うのだけれど、ちょうどバッハ(1685-1750)らが活動する、盛期バロック、前夜にあたる。で、かのストラディヴァリ(1644-1737)が名器を製作していた頃でもあって... 遅れてやって来た楽器、ヴァイオリンが、器楽曲の花形として、舞台の中心に躍り出た頃... その中心にいて、象徴的な存在が、国際的に活躍し、ヨーロッパ中にその名声を轟かせたコレッリ!コレッリ人気が、ヴァイオリンのための音楽をヨーロッパ中に広めたと言えなくもない。ロンドンでは、コレッリの死後も、そのブームが続き、弟子、ジェミニアーニによるアレンジで、新たなコレッリの音楽(ソナタをコンチェルトに!)が供給されたというから、驚かされる。
ということで、ヴァイオリンがヨーロッパで大ブレイクを果たしたコレッリの時代へ... バロック・ヴァイオリンの雄、エンリコ・ガッティと、彼が率いるアンサンブル・アウロラによる、1689年に出版された、コレッリの教会ソナタ、Op.3(ARCANA/A 402)を聴く。

クラシックにおける器楽曲の歴史は、意外と新しい。実は、オペラよりも新しい。グレゴリオ聖歌に端を発する西洋音楽の長い歴史を振り返ると、オペラの誕生(厳密に言うならば、その準備段階にあたるモノディの発明... )が音楽史にもたらしたインパクトは凄まじく、そのインパクトの副産物として生まれたのが器楽曲だったと言えなくもない。そもそも器楽曲は楽器が歌うことを真似たところから始まり、オペラ的なフォーマット(歌手がいて、伴奏者がいる... )を器楽に落とし込むことで進化を加速させた。そして、ズバリ、「器楽曲」という意味を持つ言葉が「ソナタ」!音を発する、演奏する、を指すイタリア語、"sonare"から派生した言葉で、演奏されたもの、つまり器楽曲という意味を持つ"sonata"が、今、我々が知る「ソナタ」の起源... 今では、ソナタ形式を持つもの、という限定的な解釈になってしまったが、形式が言葉より後に形作られたと知ると、ちょっと驚いてしまう。さて、器楽曲の進化を大きく促したのが、ボローニャ楽派。で、コレッリもまた、ボローニャで学んだ(1666-70)作曲家であり、その集大成的な存在と言えるのかも... 活躍した場所こそ、パリに始まり、ミュンヒェン、ローマと、インターナショナルなのだけれど、コレッリの音楽には、ボローニャでの革新と、その積み重ねと、その先に洗練が響く。
という、コレッリによるトリオ・ソナタ(2つの旋律を担う楽器と通奏低音による3声による器楽曲... ボローニャ楽派が得意とした形... )を聴くのだけれど、ここで聴くのは、12曲でからなる教会ソナタ、Op.3(disc.1, track.1-24/disc.2, track.1-25)。で、教会ソナタというのが耳慣れない?教会での典礼の合間に演奏されたのが、教会ソナタ。緩急緩急の4楽章構成を基本とし、教会の雰囲気に合わせ、より荘重で、伝統的な対位法が用いられたとのこと... ちなみに、それ以外のソナタは、富裕な人々の邸宅で演奏された、より世俗的で舞曲集的な性格を持つ室内ソナタとなる。となると、教会ソナタは説教染みたものになる?いや、まったくそうならない。というより、その朗らかで澄んだ響きは、ヘヴンリー!1枚目、最初に置かれた2番(disc.1, track.1-4)の冒頭、ふわーっと光の差す穏やかな教会の様子が浮かぶかのようなその音楽に、のっけから惹き込まれてしまう。2つのヴァイオリンが綾なす旋律を、通奏低音が楚々と支え、けして派手ではないけれど、十分な音色をまとめ、中身の詰まった音楽を紡ぎ出す。今さらながらに、コレッリの確かな音楽性に感服。技巧に走るでもなく、奇抜さで関心を引くでもなく、ヴァイオリンの明朗な表情を最大限に引き出しながら、全12曲を充実したサウンドで充たして行く。その洗練された雰囲気は、盛期バロックでは味わえない色合いを見せて、何だか新鮮で、印象的。
さて、教会ソナタ、Op.3の他に、曲集にまとめられなかった7つのソナタ(disc.1, track.25-36/disc.2, track.26-36)が取り上げられるのだけれど... 膨大な数の作品を作曲しながら、その中の際立った作品のみを曲集にまとめ、わずか6つの曲集しか出版しなかったコレッリの潔癖から外れた作品を垣間見る、貴重な作品の数々... 外れた分、個性を感じさせ、どれも味わい深く、よりキャッチーなところもあって、また魅力的!で、それが際立ったのが、最後に置かれたトランペットと2つのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ、ニ短調(disc.2, track.37-41)。うーん、やっぱりトランペットは花やぐ!それまでが、けして地味だとは言わないのだけれど、トランペットの輝かしさが、最後、何とも言えない解放感をもたらし、爽快な風を呼び込む。で、これが絶妙!2つのヴァイオリンを軸に紡がれて来たところに、ポンと違う音色を乗せて来る。単に教会ソナタを粛々と奏でるのではない、ガッティによるアクセントが効いて、コレッリの幅を見せてくれるよう。
そんなコレッリを聴かせてくれた、ガッティ+アンサンブル・アウロラ。まず、ガッティが奏でるヴァイオリンの明朗な音色がひたすらに心地良い!そのガッティにしっかり寄り添うエドゥアルドのヴァイオリンもまた素敵で、2つのヴァイオリンが綾なす伸びやかな響きには聴き入るばかり... そこに、控え目ながらもいい味を加えるモリーニのオルガン、シュレーダーのキタローネ。また渋くも艶やかなトーンでアンサンブルに奥行きを持たせるゲルヴィーヌスのチェロも印象的で... そうして編まれる極めてバランスの良いアンサンブルが、コレッリの洗練をやわらかく引き立てて、見事。古色蒼然となることなく、隅々まで光が届き、そうして生まれる暖かな雰囲気は、まさに今の季節にぴったり。で、最後に登場するカッソーネのトランペット!爽やかに抜けたそのサウンドの気持ち良さと来たら、もう... 間もなく訪れる、5月の気分。

CORELLI ・ SONATE DA CHIESA op.3 & SONATE POSTUME
ENRICO GATTI/ENSEMBLE AURORA


コレッリ : 教会ソナタ Op.3
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ イ短調 WoO.5
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ ト短調 WoO.9
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ ニ長調 WoO.8
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ ニ長調 WoO.7
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ ニ長調 WoO.6
コレッリ : 2つのヴァイオリンとオルガンのためのソナタ ト短調 WoO.10
コレッリ : トランペット、2つのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ニ長調 WoO.4

アンサンブル・アウロラ
エンリコ・ガッティ(ヴァイオリン)
オディル・エドゥアルト(ヴァイオリン)
グイド・モリーニ(゛ティフ・オルガン/チェンバロ)
アラン・ゲルヴィーヌス(チェロ)
カール・エルンスト・シュレーダー(キタローネ)
ガブリエレ・カッソーネ(ナチュラル・トランペット)

ARCANA/A 402




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