SSブログ

我が道を行くタルティーニ、超越のコンチェルト、孤高のソナタ、 [before 2005]

オペラを生み出したイタリアは、ピアノを発明している。が、イタリアは、オペラの国として広く認識されているのに、ピアノの国にはならなかったのはなぜだろう?発明しても、弾く人がいなかった?ショパンがイタリアに生まれなかったからか?ふと考えると、音楽史において、イタリア人のピアノのヴィルトゥオーゾが思い浮かばない(ミケランジェリや、ポリーニは、ひとまず置いといて... )。例えば、モーツァルトやベートーヴェン、シューマンやリストのような存在が、イタリアに生まれていないことが不思議に思えて来た。が、ちょっと視線をずらしてみると、パガニーニがいる!ヴィオッティもいる!それに、コレッリ!ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾだったら事欠かない。ピアノはいなくて、ヴァイオリンはいる... って、何なのだろう?改めて考えてみると、おもしろいなと...
ということで、クラシックにおける"イタリア"に注目してみる... クレメンティサンマルティーニ兄弟に続いて、バロック期のヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、タルティーニに迫る!キアラ・バンキーニのヴァイオリンと、彼女が率いるアンサンブル415の演奏で、タルティーニの協奏曲集(harmonia mundi FRANCE/HMC 901548)、アンドルー・マンゼのヴァイオリンで、タルティーニのソナタ集、"The Devil's Sonata"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907213)を聴く。


我が道を行くタルティーニ、超越するコンチェルト。

HMC901548.jpg
バロックの二大巨頭、大バッハ(1685-1750)、ヘンデル(1685-1759)の7つ年下に生まれたのが、タルティーニ(1692-1770)。で、その3つ下には、前回、聴いたジュゼッペ・サンマルティーニ(1695-1750)がいて、それから、ロカテッリ(1695-1764)がいる。イタリアに生まれ、やがてイタリアを出て、ポスト・バロックの音楽を摸索した2人... さらに、5つ下には、ロココの気分を纏ったフランスのヴィルトゥオーゾ、ルクレール(1697-1764)が、7つ下には、ドイツ生まれのナポリ楽派、ハッセ(1699-1783)がおり、そうした作曲家たちの音楽には、新しい時代の匂いが多分に漂っている。が、タルティーニは?盛期バロックと、ポスト・バロックに挟まれた、微妙なポジションで、どんな音楽を響かせただろうか?このヴィルトゥオーゾがヴァイオリンへと至る道は、なかなかドラマティック。ある意味、世を捨ててヴァイオリンに精進した人生でもある。だからか、モードに流されず、我が道をゆく... その我が道には、遠い昔への憧憬が籠められ、音楽そのものを探る求道的な姿勢を見出す。
そんなタルティーニのコンチェルト... 2曲目、イ短調のヴァイオリン協奏曲(track.4-6)の寂しげな表情は、本当に寂しい... いや、孤高のヴィルトゥオーゾ、タルティーニを象徴するように、ストイック。技巧に走るばかりでない、切々と歌い上げるヴァイオリンの旋律は、古(イニシエ)の歌のように響き、同時代のナポリ楽派の華麗なアリアなんて、微塵にも感じさせない。続く、チェロ協奏曲(track.7-10)では、チェロの落ち着いた響きが、古雅な気分を増すようで... また、オーケストラにホルンが加わると、どこかルネサンスの記憶を呼び起こすようなところがあって、おもしろい。一方で、2楽章(track.8)、終楽章(track.10)では、華麗なるバロックと距離を置く古典的な佇まいが、すでに古典主義になり得ていて、またおもしろい。そうしたあたりをより推し進めつつ、当世風もそれなりに引き込むような印象を受けるのがト長調のヴァイオリン協奏曲(track.11-13)。とはいえ、タルティーニ美意識に適った範囲で繰り広げられるその当世風は、当世(ナポリ楽派全盛期)、人々を魅了している「美」そのものをすくい上げるようで、なかなか興味深い。が、2楽章(track.12)では、タルティーニならではの歌いが繰り出され、一気に中世へと連れ去られるような感覚にさせられる。全方向を把握しつつ、モードに流されず、時代を超越する可能性をもたらすタルティーニの音楽道。こういう真摯な姿が、今、とてもクールに映る。
で、そのクールをやさしく見つめるバンキーニ+アンサンブル415の演奏が、また美しく... バロック・ロックな路線とは一線を画し、ピュアな演奏を心掛けるものの、けして冷たくなることはなく、孤高の鬼才の音楽性を慈しみながら丁寧に響かせ、そこには、タルティーニへの母性を感じてしまう。けして器用ではない息子への愛と、その息子の真に優れた部分を世に知らしめようという強い意志が感じられ、今、改めて聴くと、何か心打たれるものがある。また、ヴァイオリンの鮮烈さを見事に響かせるガッティ(track.4-6)、チェロの深いサウンドから古雅を引き立てるディールティエンス(track.7-10)、ヴァイオリンの温もりを感じさせるバンキーニ(track.11-13)と、それぞれのソロがすばらしく、聴き入るばかり。

TARTINI / CONCERTOS / ENSEMBLE 415

タルティーニ : 合奏協奏曲 第3番 ハ長調 〔メネギーニ編曲〕
タルティーニ : ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲 イ短調 「ルナルド・ヴェニエル」 *
タルティーニ : チェロとオーケストラのための協奏曲 ニ長調 *
タルティーニ : ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲 ト長調 *
タルティーニ : 合奏協奏曲 第5番 ホ短調 〔メネギーニ編曲〕

エンリコ・ガッティ(ヴァイオリン) *
キアラ・バンキーニ(ヴァイオリン) *
ロエル・ディールティエンス(チェロ) *
キアラ・バンキーニ/アンサンブル 415

harmonia mundi FRANCE/HMC 901548




ヴァイオリンで歌うタルティーニ、孤高のソナタ...

HMU907213
コンチェルトを聴いた後でのソナタ... 無伴奏ヴァイオリンによる音楽は、まさにタルティーニの素の姿に迫る。で、最初に聴くのが、「悪魔のトリル」で有名なト短調のヴァイオリン・ソナタ、「悪魔のソナタ」(track.1-3)。タルティーニといったらこの作品であるわけだけれど、そのタイトルのインパクト、そういうタイトルが付けられるに至ったエピソード(タルティーニが夢の中で聴いた悪魔が弾くトリルを素に3楽章が書かれた... )が先行して、その音楽がどんな音楽かは、どこか置いてかれてしまっているような印象も受ける。こういうキャッチーな看板というのは、時としてその音楽の邪魔になりかねないなとつくづく思う。で、ト短調のヴァイオリン・ソナタが聴こえて来る音楽というのは、悪魔云々ではなく、孤高のヴィルトゥオーゾの孤独そのもののように感じる。タルティーニならではの、遠い昔を思わせるメロディーが、切々と歌い紡がれて... 誰が聴くとも知れぬ歌を、ヴァイオリンが自らのために歌うような孤独... ちょっと他には探せないその歌いに、何だか身震いする。人を寄せ付けないような孤独でありながら、その姿を見つめると、ただならず惹き込まれ、心が揺さぶられるよう。振り返ると、魅入られてしまったような... そうしたあたりが悪魔的と言えるのか... ウーン、素のヴァイオリンのオーラに圧倒される。
という「悪魔のソナタ」の後で取り上げられるのが、コレッリのヴァイオリン・ソナタ、Op.5のガヴォットによる50の変奏曲、『ラルテ・デラルコ』から、主題と14の変奏(track.4-13)。コレッリの主題を用いることで、タルティーニの音楽にふわーっと光が差す!この明るさに、何だか心が緩む... コレッリ(1653-1713)は、イタリアのみならず、ヨーロッパにおけるヴァイオリンのための音楽を切り拓いたパイオニア的ヴィルトゥオーゾ。タルティーニがコンチェルトを書き、ソナタを書けるのも、偉大なる先人が、そういうフォーマットをしっかり形作ったからこそであって... 『ラルテ・デラルコ』には、コレッリへの素直なリスペクトが広がるよう。だからこそ、主題はもちろん、全ての変奏がキラキラと輝き、その美しさにただただ魅了される。コレッリの威を借りることで、タルティーニという個性の鎧を脱いだ、一ヴァイオリニストとしての無邪気な姿を見せてくれるタルティーニの音楽が、何だかとても愛おしく感じられてしまう。いや、そんな思いにさせるマンゼのヴァイオリンが、すばらしい...
超絶技巧を物ともせず、一点の曇りなくクリアな音色で鮮やかに弾き切るマンゼ。それは、真摯に、タルティーニの真摯に寄り添い、タルティーニの深い孤独を実体化するような、独特な共鳴を見せて、印象深い。タルティーニが歌った歌を、今、マンゼも歌うような... 歌うことでタルティーニを招霊するような... 何だかとてもスピリチュアルなものに思えて... またそうすることで音楽の原点に還るような、いや、歌うことで深淵へと降りて行く感覚が、聴く者に集中と解放を促し、癒しすら見出す。そして、この"歌"に、歌の国、イタリアの真髄を見た思いがして... そうか、ヴァイオリンは歌うことができる楽器なんだと、何か腑に落ち、孤高のタルティーニにこそ"イタリア"の根源的な音楽性を見出せた気がした。

TARTINI ・ The Devil's Sonata ・ MANZE

タルティーニ : ヴァイオリン・ソナタ ト短調 「悪魔のソナタ」
タルティーニ : 『ラルテ・デラルコ』 より 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 からの ガヴォット による50の変奏曲〕
タルティーニ : ヴァイオリン・ソナタ イ短調
タルティーニ : パストラーレ 〔スコルダトゥーラ・ヴァイオリンのための〕

アンドルー・マンゼ(ヴァイオリン)

harmonia mundi FRANCE/HMU 907213




nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。