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過渡期が生むやわらかさ、サンマルティーニのラヴリー! [before 2005]

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クラシックにおける"イタリア"に注目してみる... ということで、前回、クレメンティを取り上げたのだけれど、イタリアにしては、ちょっとピントがズレてたか?一方で、クレメンティの時代は、ピントを合わせにくい時代でもあって、古典主義というインターナショナル・スタイルが、ナショナリティを薄める傾向もあった。こういう空気感の中から、その反動のようにナショナリスティックなドイツ・ロマン主義が生まれたのは興味深い。そして、古典主義からロマン主義へ、という流れをいち早く感じ取っていたクレメンティの音楽は、また興味深い。というクレメンティから遡って、バロックから古典主義へと踏み出そうとしていた作曲家... クレメンティと同じイタリアに生まれ、イギリスへと活躍の場を求めたサンマルティーニ兄弟の兄、ジュゼッペを聴いてみようと思う。
ファビオ・ボニッツォーニのオルガンと、彼が率いるピリオド・アンサンブル、ラ・リゾナンツァの演奏で、ジュゼッペ・サンマルティーニのオルガン協奏曲(GLOSSA/GCD 921505)を聴く。いやー、オルガンの音色が何とも朗らかで、もう、春めいている!

ジュゼッペ・サンマルティーニ(1695-1750)。
「サンマルティーニ」というと、交響曲の黎明期、大きな役割を果たした前古典派の作曲家、弟、ジョヴァンニ・バティスタ(ca.1700-75)の方が、取り上げられることが多いような気もするのだけれど、兄、ジュゼッペもまた、バロックから古典主義へとうつろう頃、活躍した作曲家であり、オーボエ奏者だった。で、サンマルティーニ兄弟を見つめる時、このオーボエが、まず鍵となる。フランス出身のオーボエ奏者、アレクシス・サン・マルタンを父に、ミラノで生まれたジュゼッペ。おそらく父からオーボエを習い、16歳の時には父とともにオーケストラのメンバーとして演奏。その後、現在のスカラ座の前身、レージォ・ドゥカーレ劇場のオーボエ奏者を務めながら、オーボエ協奏曲の楽譜がアムステルダムで出版(ca.1717)されたりと、ミラノを代表する若きオーボエのヴィルトゥオーゾとして存在感を示すようになる。そして、1728年、国際音楽都市、ロンドンへ!その華麗なる演奏はすぐに人気を集め、当時、ロンドンのオペラ・シーンでしのぎを削っていた、ポルポラ、ヘンデル、両方のオペラにも参加。オブリガード(アリアの助奏)を担って、スター・カストラートたちと渡り合い、欠かせない存在に... 1736年には、イギリス王室の音楽教師に就任。オーボエの大家、器楽曲の作曲家として、その名声はヨーロッパに広まった。
さて、ここで聴くのはオルガン協奏曲... オーボエ奏者、ジュゼッペによるオルガン協奏曲というのが、何だかしっくり来ないのだけれど... 何でも、ボニッツォーニがパリの図書館などで再発見したもので、長い間、忘れ去られていたのだとか... そりゃーオーボエの巨匠によるオルガン協奏曲なんて忘れられちゃうよなァ。いやいやいや、何で忘れられた?!というほど、ラヴリーなコンチェルトで、すっかり魅了されてしまう。というオルガン協奏曲なのだけれど、ジュゼッペの死後、4年を経た1754年にロンドンで出版された、4曲からなるハープシコードあるいはオルガのための協奏曲集、Op.9(track.1-3, 4-7, 9-12, 13-15)。で、いつ作曲されたかはよくわからないようだけれど、バロックを脱しつつある何とも朗らかなトーンが印象的。また、ヘンデルの下で仕事をしたジュゼッペだけに、ヘンデルのオルガン協奏曲を思わせるところもあって、ヘンデル的な華麗さと、ナポリ楽派のメロディーを思わせるキャッチーさ、明朗さに彩られ、イタリア・オペラが席巻したロンドンの音楽シーンが浮かび上がるよう。さらには、多感主義を滲ませるセンチメンタルさ、ロココのギャラントさもあり、思いの外、インターナショナルで、様々なテイストが聴こえて来る。つまり過渡的な音楽か... いや、過渡的なればこそ、ひとつのスタイルに定まらないあたりがいい具合に音楽をユルめ、ふんわりとした響きを生み出すよう。このやわらかさは、ちょっと他に探せないかも... そこに、弟、ジョヴァンニ・バティスタを思わせる前古典派的な軽やかさも表れていて、素敵!
で、ボニッツォーニは、ジュゼッペの4つのコンチェルトの他に、ジョヴァンニ・バティスタのソナタ(track.8, 16)も取り上げて、ロンドンの兄、ミラノの弟を並べ、その違いを興味深く響かせる!国際音楽都市、ロンドンのインターナショナルさ、ヨーロッパ最大の音楽マーケットという性格から生まれるコンサート・ピースとしての洗練を感じさせるジュゼッペに対して、ジョヴァンニ・バティスタのソナタには教会のオルガンを見出すのか... オルガンらしさがより際立っているようで、このソナタに関しては兄よりもオールド・ファッション... しかし、だからこそのほのぼのとした味わい、愛らしさが感じられ、もー、何て微笑ましいのだろう!そういう微笑ましさに触れると、ジュゼッペのコンチェルトのラヴリーさが、とても大人にも感じられて、絶妙に引き立て合う。
そんな、サンマルティーニ兄弟をオルガンで聴かせてくれたボニッツォーニ!いやー、そのオルガンの牧歌的な表情にまず惹き込まれる。何とも言えず、のどやかな音色を聴かせる、イタリア、イゼーラの聖ヴィンチェンツォ教会のオルガン。壮麗な大聖堂ではない田舎風とでも言おうか、慇懃なところが無い人懐っこいサウンドにまず癒される。そういう素朴な音色を、明瞭に響かせるボニッツォーニのタッチもすばらしく、クリアかつ、一音一音からたっぷりと味わいを引き出して、サンマルティーニ兄弟の音楽を魅惑的に繰り広げる。というボニッツォーニのトーンに呼応するラ・リゾナンツァの演奏も、活き活きとした表情を創り出しながら、あくまでもふんわりと、やわらかなアンサンブルを紡ぎ出し、心地良し!

Sammartini Concertos Bonizzoni

ジュゼッペ・サンマルティーニ : オルガン協奏曲 第2番 ヘ長調 *
ジュゼッペ・サンマルティーニ : オルガン協奏曲 第1番 イ長調 *
ジョヴァンニ・バティスタ・サンマルティーニ : オルガン・ソナタ ハ長調
ジュゼッペ・サンマルティーニ : オルガン協奏曲 第4番 変ロ長調 *
ジュゼッペ・サンマルティーニ : オルガン協奏曲 第3番 ト長調 *
ジョヴァンニ・バティスタ・サンマルティーニ : オルガン・ソナタ ト長調

ファビオ・ボニッツォーニ(オルガン)
ラ・リゾナンツァ *

GLOSSA/GCD 921505




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