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ピアノを知り尽くして、クレメンティが放つ、雄弁! [before 2005]

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『アイーダ』『ノルマ』と聴いて、ふと思う。これまで、"イタリア"という括りで、クラシックをあまり見つめて来なかったかもしれない... クラシックというと、やっぱりドイツ―オーストリアであって、そこにイタリア・オペラを加えて、二本柱を成してメインストリームとなるのか、あえてイタリアをクローズアップするまでもなく、それはクラシックそのものだという認識が漠然とあったのだろう。ならば、クラシックにおける"イタリア"、今、改めて注目してみてもいいのかなと... いや、考えてみると、"イタリア"の音楽について、あまりよくわかっていない気もするし。ということで、イタリア・オペラから、さらに"イタリア"へと焦点を合わせ、イタリアを巡ってみようかなと...
そして、モーツァルトの時代に活躍したイタリア生まれのピアノのヴィルトゥオーゾに注目。アンドレアス・シュタイアーが1802年頃に製作されたブーロドウッド & サンズのフォルテピアノで弾く、クレメンティのピアノ・ソナタ(TELDEC/3984-26731-2)を聴く。

ムツィオ・クレメンティ(1752-1832)。
モーツァルトが生まれる4年前、1752年、ローマの銀細工職人の家に生まれたクレメンティ。地元で音楽を学び始めると、その才能はいち早く開花、13歳にしてローマのサン・ロレンツォ・イン・ダマゾ教会のオルガニストに就任したというから驚かされる。やがてその才能は、グランド・ツアーでやって来たイギリスのおぼっちゃまの目に留まり、7年契約の丁稚奉公なような形でイギリスに渡ることに... これを切っ掛けに、イギリスを拠点に活躍したクレメンティ、間違いなくイタリア人ではあるのだけれど、イタリアの作曲家なのだろうか?"イタリア"へ焦点を合わせる、としながら、いきなり躓いてしまうのだけれど、クレメンティが名声を確立した頃の音楽は、イタリア=ヨーロッパ、各地の音楽の担い手はイタリア人。チェコ出身のレスレル(1750-92)が、「ロゼッティ」とイタリア風の名前を使ったあたり、そのことを象徴している。そういう点で、イタリアにいなかったクレメンティは、まさしくイタリアの作曲家と言えるのかも... さて、1774年、年季が明けてロンドンへと出たクレメンティは、イタリア人のハープシコード奏者として地道な活動を続ける。そして、1779年に出版した6つのソナタ、Op.2が人気を集め、ブレイク!勢いヨーロッパ・ツアーへと出ると、1782年、ウィーンにて、ヨーゼフ2世の御前におけるモーツァルトとの競演を果たす。モーツァルトはクレメンティの技術を評価しながらも「機会屋さん」などと芸術家として表現力に欠けることを指摘しているのだが、そうなのだろうか?というあたりを確かめるピアノ・ソナタをここで聴くわけだ。
で、シュタイアーが取り上げるのは3つのソナタ。そのひとつ目が、ロンドンに凱旋した1785年に出版された6つのソナタ、Op.13からの6番(track.2-4)。短調で書かれたこのソナタは、ウィーンでの経験を反映しているのだろう、ハイドンのようなテイストを感じさせながら、ベートーヴェンのような力強さをすでに漂わせ、モーツァルトよりもドラマティックに、雄弁にピアノが鳴り響く。近代ピアノ奏法の確立者として知られるクレメンティだけに、古典派の作曲家とは一線を画すような音楽を展開する。もちろん、クレメンティも古典派のひとりではあるのだけれど、ピアノという楽器の製造、販売まで手掛けた人物だけに、よりピアノを熟知し得る立場にあったのだろう。熟知して響かせる音楽というのは、他の作曲家たちよりも間違いなく一歩先を行っている。それをより強く感じさせてくれるのが、1795年に出版された2つのソナタと2つのカプリッチョ、Op.34からの2番のソナタ(track.6-8)。すでにベートーヴェンがソナタを書き始めていた頃だけれど、1楽章(track.6)の冒頭、沈鬱で大胆でもある印象的な出だしには、シューマンを思わせるロマンティックさが感じられ、驚かされ... さらに終楽章(track.8)のキャッチーなテーマには、シューベルトを窺わるところも... まるで、ドイツ―オーストリアの音楽が、その後、何処へ向かうかが示されるような興味深さ!一方で、1794年、ウィーン滞在時に出版された3つのソナタ、Op.33からの2番(track.10-12)は、モーツァルトのよう輝きに充ちた古典主義による音楽が繰り出されて、また魅力的!
という3つのソナタの合間に置かれた小品がまたおもしろい。特に、同時代の著名な作曲家たちのパロディーを繰り広げる『音楽的性格描写』からのハイドン風前奏曲(track.1)と、モーツァルト風前奏曲(track.9)。ハイドンの真面目さ、モーツァルトの軽やかさを絶妙に捉えて、第三者の目に映ったそれぞれの姿に、当時の様子が浮かぶよう。一方、カプリッチョ(track.5)では、クレメンティ自身の姿が浮かび上がるのか... よく回る右手が上品に装飾を施して、その技巧的なあたり、「機会屋さん」。で、何だか微笑ましい。
そんなクレメンティを聴かせてくれたシュタイアー... この人ならではの明晰にして大胆なタッチが、スコアにある全ての音を主張させ、より息衝く音楽を紡ぎ出す。すると、クレメンティの音楽の先進性は際立ち、ベートーヴェンを聴くような聴き応えもたらし、聴き入るばかり。希代のヴィルトゥオーゾだったクレメンティをしっかりと掘り起こすシュタイアーの演奏は、モーツァルトと渡り合い、ロマン主義を予告したクレメンティの音楽を鮮やかに響かせて、聴き手をその魅力に惹き込む。

MUZIO CLEMENTI: SONATAS
ANDREAS STAIER


クレメンティ : ハイドン風前奏曲 〔『音楽的性格描写』 Op.19 より〕
クレメンティ : ソナタ ヘ短調 Op.13-6
クレメンティ : カプリッチョ 変ロ長調 Op.17
クレメンティ : ソナタ ト短調 Op.34-2
クレメンティ : モーツァルト風前奏曲 〔『音楽的性格描写』 Op.19 より〕
クレメンティ : ソナタ ヘ長調 Op.33-2
クレメンティ : 「月明かりに」 による 変奏曲 Op.48

アンドレアス・シュタイアー(ピアノ : 1802年頃製、ジョン・ブロードウッド & サンズ)

TELDEC/3984-26731-2




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