SSブログ

アーノンクール、アイーダ、オリジナル主義的に、 [before 2005]

8573854022.jpg
前回、久々にブルックナーの3番の交響曲を聴いて、中てられた。いや、何と粗暴な交響楽なんだろう... けど、これがまた唯美主義的な性格も孕んでいて、一筋縄では行かない。しかし、粗暴で美しいって、それはもはや倒錯的なのではないか?が、当のブルックナーは、意図したわけでなく、あくまで純朴の果てに至っているのだから、興味深い。いや、改めてブルックナーという作曲家について考えさせられ、それでいて、その希有な音楽性に慄き、突き抜けた音楽に圧倒され、疲れた。また、そういうのを炊き付けるようなアーノンクールがいて... なので、キャッチーな音楽を聴くよ!ヴェルディのオペラ!もちろん、アーノンクールの指揮で...
ニコラウス・アーノンクールの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、アルノルト・シェーンベルク合唱団に、ヴィンチェンツォ・ラ・スコーラ(テノール)のラダメス将軍、オリガ・ボロディナ(メッゾ・ソプラノ)のアムネリス、そして、クリスティーナ・ガラルド・ドマス(ソプラノ)のタイトル・ロールで、ヴェルディのオペラ『アイーダ』(TELDEC/8573-85402-2)を聴く。

「ワーグナー」と銘打たれたブルックナーの3番の交響曲が作曲された2年前、1871年に初演されたヴェルディのオペラ『アイーダ』。という風に並べてみると、なかなか興味深い。時代は同い年の巨匠、ワーグナー(1813-83)とヴェルディ(1813-1901)であって... そういう時代に在って、ブルックナーが如何に突飛な音楽へと至っていたかを思い知らされた前回... だからだろうか、ヴェルディの音楽がこれまでになく、まともに感じられて、おもしろい。で、そういう感覚から、改めて『アイーダ』と向き合ってみると、グっと惹き込まれる。数あるヴェルディ作品の中でも、特に人気を集める『アイーダ』、そりゃもうエキゾティックで、スペクタクルで、みんなが大好きになってしまうのはよくわかる。アレーナ・ディ・ヴェローナや、カラカラ浴場、さらにはハトシェプスト葬祭殿でも上演されて、もはやクラシックという枠組みを越えたイヴェントとなり、サッカーでお馴染みの凱旋行進曲を知らない人はいない。が、そういう派手なイメージは、ステレオ・タイプに過ぎないのかもしれない。本当の魅力は、その派手さに隠された部分?そういう原点に還るようなイメージを掘り起こしたアーノンクール。また驚かせてくれる。
1幕(disc.1)、思いの外、丁寧にドラマが紡がれていて、派手さよりも、そのドラマの密度に惹き込まれてしまう。あれ?こんなにも実直なイメージだった?なんて思いながら、如何にステレオ・タイプに囚われていたかを思い知らされる。のだけれど、それだけではなく、ヴェルディの集大成的な位置付けの名作だけに、そこには確かなドラマの深化があり、それまでの典型的なヴェルディのイメージを見事に凌駕する。多少、軽くも、解り易いドラマティシズムに貫かれ、華麗な19世紀のイタリア・オペラのイメージを確立したヴェルディだけれど、『アイーダ』の1幕から聴こえて来るサウンドは、どこか仄暗く、何より無駄がない... ラダメスのアリア、「清きアイーダ」(disc.1, track.4)といった、このオペラを代表するアリアがありながらも、それが突出することなく、ドラマの流れこそ浮き立ち、悲恋や嫉妬が育まれゆく情景に、惹き込まれてしまう。一転、2幕(disc.2)は、まさに『アイーダ』のイメージを裏切らない華麗さとエキゾティシズムが繰り広げられ、バレエも踊られ、グランド・オペラの風格を纏いつつ、エンターテイメントとしての魅力をたっぷりと味わう。そうして、物語が悲劇へと疾走を始める3幕(disc.3, track.1-12)、ラダメスが破滅する4幕、1場(disc.3, track.13-20)では、ヴェルディならではのドラマティックさが盛り上がるも、そこから、静かにフィナーレを迎える4幕、2場(disc.3, track.20-22)の穏やかな表情は、チャレンジング... カタストロフの無い悲劇というのは、イタリア・オペラとしては革命的かもしれない。そればかりでなく、ワーグナーよりも先へと踏み込んだ観すらある。またフィナーレの穏やかな死が、前奏曲にしっかりと予兆されていたことに気が付くと、死(前奏曲)に始まり、恋(「清きアイーダ」)が訪れ、長い葛藤の果てに、再び純粋な愛と向き合い死を迎えるという循環が浮かび上がり、完全にステレオ・タイプは消え去り、その巧みさに脱帽するばかり...
そんな『アイーダ』へと導いてくれるアーノンクール... いや、この『アイーダ』を聴いて、この人がわからなくなる。モーツァルトの初期交響曲にしろ、ブルックナーの3番にしろ、作品を炊き付けるような姿勢を見せて、それがこのマエストロの音楽性だと納得したところでの『アイーダ』は、徹底して抑制的とでも言うのか... いや、鋭くヴェルディの音楽に迫り、華麗なるイタリア・オペラのイメージを容赦無く鍛え、ドラマとしての真の力強さを引き出す。晩年のヴェルディの"脱ヴェルディ"の方向性をしっかりと捉えて、ストイックにスコアと向き合って生まれる、エンターテイメントではない『アイーダ』の秀逸さ!またそれを担う豪華歌手たちが見事で... 物語の軸となるガラルド・ドマス=アイーダと、ボロディナ=アムネリスの恋敵対決、美しくも迫力のある歌声に、ただただ魅了される。もちろん、ウィーン・フィルも、アルノルト・シェーンベルク合唱団もすばらしく、まったく以ってクウォリティの高いパフォーマンスに、唸るしかない。いや、今さらながらに『アイーダ』って凄い!と思わせてくれる録音。派手じゃない、だからこそ、そのすばらしさが明確になる。

Verdi Aida | Wiener Philharmoniker  Harnoncourt

ヴェルディ : オペラ 『アイーダ』

王 : ラスロー・ポルガール(バス)
アムネリス : オリガ・ボロディナ(メッゾ・ソプラノ)
アイーダ : クリスティーナ・ガラルド・ドマス(ソプラノ)
ラダメス : ヴィンチェンツォ・ラ・スコーラ(テノール)
ランフィス : マッティ・サルミネン(バス)
アモナズロ : トーマス・ハンプソン(バリトン)
使者 : カート・ストレイト(テノール)
巫女の長 : ドロテア・レシュマン(ソプラノ)
アルノルト・シェーンベルク合唱団

ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

TELDEC/8573-85402-2




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。