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メシアン、万華鏡。鳥と、黙示録と、降霊の秘儀? [before 2005]

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現代音楽の旗手、ピエール・ブーレーズ(1925-2016)、ピリオド・アプローチの旗手、ニコラウス・アーノンクール(1929-2016)。今年に入って、立て続けに逝ってしまった2人の巨頭。一方は、現代を鋭く見つめ、一方は、過去を大胆に見つめ、対極を成すようで、実は似通ってもいる、2人の歩み... 20世紀、第2次大戦後、クラシックというジャンルが確定して行く中で、反動的なクラシックに、対極的な位置から挑戦し続けたのが、この2人のマエストロだったと思う。それは、あまりにラディカルであるがゆえに、主流にはなり得ない存在だったはずが、いつの間にやら主流に食い込み、やがて誰もが認める大家としてクラシックの中心に... その道程たるや!2人のマエストロの柔軟さもさることながら、こういうラディカルだったはずの存在をも回収してしまったクラシックの変容っぷりにも感慨を覚える。そんなマエストロが、今はいない... ひとつの時代が終わったか...
ということで、アーノンクールに続き、ブーレーズをしのぶ。ピエール・ブーレーズの指揮、クリーヴランド管弦楽団の演奏で、メシアンのクロノクロミー、天より来りし都、われ死者の復活を待ち望む(Deutsche Grammophon/445 827-2)を聴く。

作曲家で、指揮者で、数学者でもあったブーレーズ。作曲家としての作品を聴くと、数学者であったことに納得させられる。シェーンベルクに始まる12音技法、それを推し進めたウェーベルンをリスペクトし、その先に総音列音楽を完成させたわけだが... その徹底してシステマティックな作曲法は、数学そのものと言えるのかもしれない。が、ケージによってシステムの閉塞性を乗り越える偶然性が提示されると、"制御された偶然性"へと至り、その変わり身の早さに、驚かされる。あるいは、指揮者としてのブーレーズ... 「オペラハウスを爆破せよ」という過激な発言をしていたはずが、バイロイト音楽祭で活躍してしまうフレキシブルさ!確立された芸術性(それこそ数学的な... )がありながら、巧みに妥協点を探り、新しい波にも目敏く(IRCAMを設立し、エレクトリックな可能性を模索... )、見事に20世紀後半を歩んで来たその姿は、20世紀後半の世のうつろいをそのまま映すようにも思える。そんなブーレーズが、コンセルヴァトワールで師事していた、メシアンの作品を取り上げる...
メシアン(1908-92)というと、鳥(もろ『鳥のカタログ』とか... )、独特なエキゾティシズム(トゥランガリーラ交響曲に代表される... )、そして、熱心なカトリック信仰(大作、オペラ『アッシジの聖フランチェスコ』を筆頭に... )を柱とする、20世紀の音楽に欠かせない作曲家ではあるけれど、20世紀音楽史という観点からすると、極めてアウトローだったかなと... 振り返ってみると、その音楽はアンチ・モダニズムであった。そういうメシアンをよく取り上げた、最も先鋭的なモダニストのはずのブーレーズ。という、おもしろさ!ブーレーズは、メシアンの音楽に脱伝統を見出して(例えば、鳥のさえずりを採譜した旋律の音の散らばりに、音列音楽が生む感覚を重ねていたり... )、そこに自身の音楽性との共鳴関係を探り... ある意味、それは、都合よく解釈していたと言えるのかもしれない。いや、その都合のよさこそ、ブーレーズらしさを感じるのかも。で、ブーレーズが解釈するメシアン・サウンドは、思いの外、鮮やかで、1曲目、クロノクロミー(track.1-7)では、さらにブーレーズの明晰さが光る!
クロノス=時間、クローマ=色彩、ギリシャ語の2つの単語を結び、創られたタイトル、時間と色彩への注目というのが、とてもフランス的かなと... そして、メシアンである、この人にとっての時間と色彩は、鳥たちが織り成す!日本も含めた世界各地の鳥のさえずりの採譜を用い、全編から鳥たちが紡ぎ出した音の散らばりが軽快に響いて、抽象の美しい織物を展開する。が、ブーレーズにとっては、それは単に音... その淡々とした姿勢が、メシアンが織り成した時間と色彩を際立たせて、鳥を越えたヴィジョンを見せてくれる。一転、「天より来りし都」(track.8)は、ヨハネの黙示録から題材を取った、極めて宗教的な作品。1989年、ブーレーズによって初演されたこの作品は、晩年のメシアンを特徴付ける壮大さが印象的なのだけれど、何となく、映画『未知との遭遇』(スピルバーグ監督のUFOとのコンタクトを描いた... )を思い起こしてしまう... 何でだろう?未知なる壮大さと対話を繰り広げるかのようなパーカッションとピアノ... 暗号めいた音の羅列によってUFO(天より来りし都?)と交信を試みるような雰囲気があり... そこに、ブーレーズの音楽性が作用し、メシアン、晩年の、誇大なカトリシズムが、ちょっと作り物っぽく響き、それがハリウッド的な壮大さにも見えて来るようで、おもしろい仕上がりに...
続く、「われ死者の復活を待ち望む」(track.9-13)は、第1次、第2次、両世界大戦の犠牲者を悼むための音楽として、当時、フランスの文化大臣だったマルローにより委嘱され、1964年に初演された作品。で、まず、そのタイトルからして、かなりインパクトがあるのだけれど、その音楽もまた、かなり、ただならない。何というか、突き抜けて秘儀的... さすがのブーレーズもその世界に呑み込まれてしまうようで、いや、ここにブーレーズのフレキシブルさが発揮されるのか。黙示録のラッパのようなブラスが鳴り響く中、ゴングが打ち鳴らされ、その雰囲気はヤリ過ぎなくらい。もはや音楽というより、死者の復活のための降霊の儀式。これほど怪しい音楽、他に無いんじゃない?というくらい... それを喜々として取り組むブーレーズ!そこに迷いが無いからこそ、より鮮やかにおどろおどろしく展開される妙。何だか、改めてブーレーズの凄さを感じさせられる。
強烈な個性!というイメージのメシアンも、このアルバムが取り上げる3作品で聴くと、それぞれに密度や温度が異なり、個性にも幅が感じられる。それにしっかりと対応して、それぞれにおもしろい音楽を聴かせるブーレーズ... 数学者の冷徹と、意外とノリのいい(?)側面が、このアルバムに広がりを生む。そして、それを支えるクリーヴランド管の実直さ!これがあってこその広がりでもあって、「天より来りし都」、「われ死者の復活を待ち望む」で主役となるブラスの深い音色は、見事... ブーレーズが信頼を置いたオーケストラの、そこはかとなしに聴かせる存在感に、改めて魅了されてしまう。

MESSIAEN: CHRONOCHROMIE ・ LA VILLE ・ ET EXSPECTO
THE CLEVELAND ORCHESTRA/BOULEZ


メシアン : クロノクロミー
メシアン : 天より来りし都
メシアン : われ死者の復活を待ち望む

ピエール・ブーレーズ/クリーヴランド管弦楽団

Deutsche Grammophon/445 827-2




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