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『セヴィーリャの理髪師』が、ロッシーニでなかった200年前... [before 2005]

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さて、四旬節ということで、"受難"についての作品を聴いて来たのだけれど、ここで、一休み... 明日、2月20日は、ロッシーニの代表作、『セヴィーリャの理髪師』が初演されて200周年のメモリアル。ならば、聴かないわけには行かない!しかし、四旬節に、こんな楽しいオペラを上演していたのか?バチが当たるんじゃ?てか、許されたの?初演されたのは、聖都、ローマだぞ?と、200年を経た、今、ロッシーニが心配になる。いやいやいや、ロッシーニは間違っていなかった!四旬節は、その年によって大きく動くのです。これが、非キリスト教徒には解り難いのだけれど、春分の日を経た最初の満月の次の日曜日が復活祭となり、それを基準に、その何日前、何日後と、祭日やら何やらが決められる教会歴のシステム... つまり、その年によって四旬節は大きく前後する。で、今から200年前、1816年の復活祭が4月14日。四旬節は、その46日前に始まるので、2月28日から。となると、その前、一週間が謝肉祭。で、2月20は、その謝肉祭の始まりの日!『セヴィーリャの理髪師』は、この楽しいお祭りの幕開けに初演されたわけだ。が、どうも、ロッシーニは、そう楽しくはなかったようでして...
クラウディオ・アバドの指揮、ロンドン交響楽団の演奏、ヘルマン・プライ(バリトン)のフィガロ、ルイジ・アルヴァ(テノール)のアルマヴィーヴァ伯爵、テレサ・ベルガンサ(メッゾ・ソプラノ)のロジーナ、エンツォ・ダーラ(バス)のバルトロという、往年の名歌手たちによる1971年の録音で、ロッシーニのオペラ『セヴィーリャの理髪師』(Deutsche Grammophon/415 695-2)を聴く。

ロッシーニがブレイクした頃、1810年代、『セヴィーリャの理髪師』というと、パイジェッロだった... 1782年、サンクト・ペテルブルクで初演された、ナポリ楽派の巨匠、パイジェッロの『セヴィーリャの理髪師』は、瞬く間にヨーロッパ中で大ヒット!フランス革命、ナポレオン戦争の荒波を乗り越えてなお、その人気は衰えていなかった。そういう状況下で、『セヴィーリャの理髪師』に挑むことになってしまった24歳のロッシーニ。当初は、違う台本が用意されていたらしいのだけれど、出来が悪かったとか、検閲に引っ掛かったとかで、別のものが用意されることに... そうして選ばれたのが、『セヴィーリャの理髪師』。その時すでに1816年は開けていて、カーニヴァルまでそう時間は無かった。差し迫った中でのハードルの高いミッションとなったロッシーニは、伝説的なスピードで作曲(13日で書き上げたとか、9日で書き上げたとか... けど、序曲は『パルミラのアウレリアーノ』の使い回し... )をこなす一方、パイジェッロに丁重なことわりの手紙を書き、これまでの『セヴィーリャの理髪師』に馴染んで来たオペラ・ファンに向けては謙遜するようなメッセージを発信(実は、初演時のタイトルは今と異なり、『アルマヴィーヴァ、あるいは無用の用心』で、パイジェッロの人気作とは違う、というようなアピールも... )したりと、慎重に初演の準備を進める。前年、年末に初演した『トルヴァルドとドルリスカ』が失敗したばかりだったこともあったのだろう、様々なプレッシャーの中、短期集中で代表作が生まれたことは、なかなか興味深い。そうして迎えた2月20日、ローマ、アルジェンティーナ劇場での初演。予想通りなのか、パイジェッロ・シンパたちの拒否反応に遭い、大失敗。今となっては、『セヴィーリャの理髪師』は、ロッシーニ!だけれども、当時はまったく異なった状況があったわけだ。
そんな、ロッシーニの『セヴィーリャの理髪師』を、アバドによる1971年の録音(自分が生まれる前の録音を取り上げることに、ちょっと抵抗を覚える... って、本当は、もっと新しい録音を取り上げたい!)で聴くのだけれど... まだ40代だったアバド、若かった頃の、その個性を如何なく発揮し、水際立った演奏を繰り広げての鮮烈!ベルリン・フィルを率いて、世界を代表するマエストロになってからのアバドしか知らない身からすると、それはとても新鮮なことに思えて... アバドらしい明晰さに貫かれ、よりスッキリとしたロッシーニ像を響かせる。ちょっとブーレーズっぽいような、スコアにあるのみを音にする感覚?ドライで、スタイリッシュで、現代的。楽しいブッファが、思いの外、音楽そのものとして捉えられる。アバドは、1972年にスカラ座の音楽監督に就任するのだけれど、ここではロンドン響を指揮しての演奏... オペラハウスのオーケストラではなく、シンフォニー・オーケストラなればこその感覚が、アバドの指向にぴたりとはまり。また、ロンドン響ならではのクウォリティ、そこから生まれるマシーン感のようなものが、ロッシーニの音楽をイタリア・オペラの世界から引き離し、ニュートラルに描き直すようなところがあって、おもしろい。ひとつひとつのナンバーが、どことなくシンフォニック?ロッシーニの音楽の手堅さのようなものが、きちっと引き出され、ブッファならではの「楽しい」を構成する成分の充実に驚かされ、魅了される。
そこに、見事な歌声が乗って... いやー、往年の名歌手たち!久々に聴くと、その確かな歌唱力に聴き入るばかり... まず、印象に残るのが、タイトルロール、フィガロを歌うプライ!ドイツ語圏の人が歌うロッシーニというのは、無駄が無いというか、シャキっと役柄を捉えて、涼やかな顔でおもしろいことをしてくれるあたりが、何と気持ちの良いこと!「私は街の何でも屋」(disc.1, track.4)の、切れ味の鋭さたるや!このキャスティングに、アバドのロッシーニ像が象徴されている気がする。そして、ベルガンサのロジーナの品良くすっきりとした歌声、アルヴァのアルマヴィーヴァ伯爵の甘やかさも聴き惚れるばかり... 一方で、バルトロを歌うダーラの筋金入りのブッフォに、飄々と奇怪な音楽教師、バジリオを歌うモンタルソロの重低音と、このオペラの楽しさをしっかりと盛り立てて、隙が無い。そうした歌手たちが束になって繰り広げる幕切れのアンサンブルは、息を呑む。確かな歌唱力が編み出すアンサンブルは、それ自体がシンフォニックで、純粋な音楽としての悦びと、ブッファが佳境に入っての喜びが共鳴して、惹き込まれる。いや、そういう音楽を前にしていると、日々の嫌なことが、どこかへ消えて行ってしまうような気がして... 「楽しい」って、パワフル!

Gioacchino Rossini
IL BARBIERE DI SIVIGLIA
Claudio abbado


ロッシーニ : オペラ 『セヴィーリャの理髪師』

アルマヴィーヴァ伯爵 : ルイジ・アルヴァ(テノール)
バルトロ : エンツォ・ダーラ(バリトン)
ロジーナ : テレサ・ベルガンサ(メッゾ・ソプラノ)
フィガロ : ヘルマン・プライ(バリトン)
バジリオ : パオロ・モンタルソロ(バス)
フィオレッロ : レナート・チェザーリ(バリトン)
ベルタ : ステファニア・マラグー(ソプラノ)
士官 : ルイジ・ローニ(バス)
アンブロジアン・オペラ・コーラス

クラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団

Deutsche Grammophon/415 695-2




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