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19世紀、ロシア音楽の結実、カリンニコフ... センチメンタル... [before 2005]

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今から150年前、1866年とは、どんな年だったのだろうか?
幕末、日本では、薩長同盟が成立し、14代将軍、徳川家茂が急死、流れは一気に明治維新へ... ヨーロッパでは普墺戦争が勃発し、オーストリアがプロイセンに敗北。これにより、ヨーロッパにおける国際政治は、新旧の交代が促され、新たな時代が開けて行く... そんな、時代が大きく動こうとした年に生まれた作曲家たち、サティ、ブゾーニ、そして、カリンニコフ... 今年、生誕150年のメモリアルを迎える3人の作曲家を並べてみると、ちょっと同じ時代を生きた作曲家には思えない。メインストリームから外れ、飄々と未来を予見したサティ... 過去を振り返り、学究的に新しい時代を摸索したブゾーニ... 伝統を引き継ぎ、屈託無くロシアを響かせたカリンニコフ... それぞれの音楽に対するスタンスはまちまちで、また際立っている。いや、これほどの幅を生み出した彼らの時代というものに、改めて興味深いものを感じる。まさにそれは転換期であって、新旧の様々なスタイル、センスが押し合い圧し合いし、音楽もまた新たな時代を迎えようとしていたわけだ。
ということで、カリンニコフ!密やかに、熱狂的に支持される、不思議な存在を改めて見つめて... ネーメ・ヤルヴィが率いたロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の演奏で、カリンニコフの1番と2番の交響曲(CHANDOS/CHAN 9546)を聴く。

ヴァシリー・セルゲーヴィチ・カリンニコフ(1866-1901)。
1866年、ロシア西部、オリョール県、ヴォイナで生まれたカリンニコフ。けして裕福な家ではなかったものの、音楽を愛好した父(貧しい警吏だったとのこと... )の影響で、早くから音楽に触れることに... 13歳の時に、一家は、県都、オリョールに引っ越し、カリンニコフは神学校に入学(カリンニコフ家は、聖職者を多く出した家だったとのこと... )。翌年には、学校の合唱団の指揮者を務めるまでになり、才能を発揮し始める。が、家が貧しかったことがカリンニコフを苦しめる。18歳で入学したモスクワ音楽院は、学費を払うことができず、間もなく退学。ファゴット奏者としての奨学金を得て、モスクワ楽友協会付属学校で学び始めるものの、その生活は厳しく、オーケストラのエキストラや、写譜の仕事を掛け持ちしつつ、恩師や友人たちの助けもあり、音楽を学ぶことができた。そうして、その才能は、次第に注目されるようになり、チャイコフスキーによりモスクワのマールイ劇場の指揮者に推薦(1892)されるほどだった。1893年には、イタリア劇場の副指揮者に就任し、そのキャリアは順調に滑り出すかと思った矢先、それまでの過労から結核に... 温暖なクリミアでの療養を余儀なくされる。
その療養先で生まれたのが、ここで聴く2つの交響曲。まず、1番(track.1-4)... クリミアに移って間もなく作曲し始めた作品(1894-95)なのだが、何とも言えず朗らか!病よりも、黒海の温暖さが、カリンニコフに思い掛けないインスピレーションを与えたか?もちろん、ロシアならではの魅力も... というより、まさにロシア!を展開するカリンニコフ... フォークロワが程好く練り込まれたロシア流のロマンティックさで以って流麗な音楽を紡ぎ出す1楽章には、大きな冒険を試みるようなところはまったくないけれど、本当に丁寧にロシア音楽の伝統を捉えていて、その上に、実に魅力的な音楽を構築する上質さ!その上質さには、療養という穏やかな時間の流れが感じられ、忙しくしていては生み出されないだろう、やわらかな輝きを見出す。続く2楽章(track.2)、まるで時計の針の音のようにハープが刻むリズムが美しく... クリミアでのカリンニコフの静かな生活が垣間見えるよう。一転、3楽章(track.3)は、楽しげなスケルツォ!終楽章(track.4)では、各楽章の魅惑的なテーマが引き込まれて、ひとつにまとめ上げられ、交響曲としての充実度も高まりつつ、ワクワクするような盛り上がりを見せる。それは、元気いっぱいなのに、どこかセンチメンタルで... これがロシアのトーンなのだろう... ワクワクしながらもジーンと心に響く不思議な感触。この1番は、1895年にキエフで初演された後、ロシアのみならず、ウィーン、ベルリン、パリでも取り上げられ、国際的にも成功。いや、まったく以って納得の内容。魅了されずにいられない。
続く、2番(track.5-8)は、1番の初演から2年を経た1897年に完成(翌年、キエフで初演... )。ロシアらしいキャッチーなテーマを用いての循環形式による交響曲... ということで、グっと密度が上がり、より雄弁な音楽が繰り広げられる。いや、1番から、一段、階段を昇った音楽が繰り出され、なかなか感慨深いものがある。循環形式というもの自体は、そう珍しいものではないけれど、ひとつのテーマを丁寧に、しっかりと各楽章へ循環させ、巧みに展開して行くカリンニコフの筆致には、さらにその先への発展を期待させるものがある。が、それは叶わなかった... カリンニコフは、2番の交響曲の初演から3年後、35歳で、この世を去る。ボロディン、チャイコフスキー、リムスキー・コルサコフら、ロシア音楽の豊かな蓄積から、さらにバランスの良い交響曲を聴かせてくれるカリンニコフ。あとわずかでも長生きしていたならば、誰もが知る傑作が生まれたのかも...
という、カリンニコフを聴かせてくれた、ネーメ・ヤルヴィ、ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管。ネーメらしい、手堅さ... きちっと音楽を構築し、すっきりと視界を保つ指揮ぶりが、カリンニコフの魅力を素直に引き出し、それでいて、このマエストロの持つ豊かな色彩感が、夭折の作曲家の若き魅力を、思いの外、増幅し、カリンニコフのみならず、ロシア音楽の実りを堪能するところも。ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管も、ネーメにしっかり応え、瑞々しさと若々しさを見事に響かせる。そこからは、交響曲を聴く醍醐味はもちろん、若いがゆえの初々しさが何とも言えず映え、また、どこかで死を予感させるような、センチメンタルが滲み、フィナーレなどはとても華やかなのに、どこか切なくなってしまう。

KALINNIKOV: SYMPHONIES 1 & 2 - ROYAL SCOTTISH NATIONAL ORCHESTRA/JÄRVI

カリンニコフ : 交響曲 第1番 ト短調
カリンニコフ : 交響曲 第2番 イ長調

ネーメ・ヤルヴィ/ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

CHANDOS/CHAN 9546




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