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コメディア・デラルテ復活!ブゾーニ流、擬古典主義... [before 2005]

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さて、今年、生誕150年のメモリアルを迎えた、サティ(1866-1925)を聴いて来たのだけれど、ブゾーニ(1866-1924)も忘れるわけには行かない。が、ブゾーニ... サティに比べると、やっぱり、地味... イタリア人として生まれながら、ドイツを拠点に活躍した不思議な存在は、ドイツ的な音楽を志向し、教育者、音楽学者としての一面も持ち合わせたことで、その音楽はどこか晦渋なイメージ(対位法的幻想曲とか、名前からして、凄い... )もあるのか... 地味というより、取っ付き難い?何となく、「ブゾーニ」という名前の響きからして、無愛想に思えたり... って、それはないか... しかし、改めてブゾーニという存在を見つめると、サティのようなキャッチーさは無いものの、なかなか興味深く、サティの対極にあって、引けを取らないおもしろさを見出す。
そんなブゾーニの、また一味違う一面を知る、1917年、チューリヒにて、二本立てで初演された2つのオペラ... コメディア・デラルテの伝統を、ブゾーニ流の擬古典主義で描いたオペラ『アルレッキーノ』と、プッチーニ以前に作曲された、"ブゾーニの"オペラ『トゥーランドット』(Virgin CLASSICS/7 59313 2)を、ケント・ナガノが率いたリヨン歌劇場の歌と演奏で聴く。

まずは、『アルレッキーノ』(disc.1)から... ところで、ブゾーニは、当時、一世を風靡していたヴェリズモ・オペラを嫌っていて、その対抗として、コメディア・デラルテ(ルネサンス期に遡る、イタリアの風刺喜劇... )の過去の快活さに帰ろうと試みたのが、ここで聴く『アルレッキーノ』。そのアルレッキーノは、コメディア・デラルテに欠かせないお調子者の道化師キャラ、このオペラでは、『セヴィーリャの理髪師』の伯爵のような役回りで、仕立て屋(バルトロのようなキャラ... )の女房と恋仲になり、フィガロのように機転を利かせて、まんまと仕立て屋から女房を奪う。という他愛の無い物語を、オペラ・ブッファ全盛の頃に遡るような軽快な音楽で描き出す。それは、ブゾーニ流の擬古典主義... ブゾーニはロマン主義の煮詰まりを前にし、バッハに学び、モーツァルトに憧れ、そうした大家たちの作品のピアノのためのアレンジ(ブゾーニはピアノのヴィルトゥオーゾでもある!)を多く残しているのだけれど、『アルレッキーノ』は、そうした延長線上にあるのかもしれない。ヴェリズモ・オペラの重苦しさに覆われる前、あるいはヴェルディのドラマティックさに覆われる前の、軽やかで明るかったイタリアをフィーチャーするようなサウンドが小気味良い。で、それをドイツ語で歌うから、またおもしろい。見事に、ワグネリズムへのカウンターにも成り得て、ブゾーニ流の擬古典主義は、とてもニュートラルなオペラ像を生み出すに至っている。
そして、『アルレッキーノ』とともに、2本立てで初演された『トゥーランドット』(disc.2)が続く... それは、プッチーニの『トゥーランドット』が初演(プッチーニの死から1年半を経た1926年... )される9年前のことで、さらに遡ると、1905年にベルリンで上演された『トゥーランドット』の芝居のために作曲された劇音楽に基づいている。今でこそプッチーニの方が有名になってしまったが、ブゾーニはプッチーニよりもずっと先んじていたわけだ。でもって、注目すべきは、プッチーニのロマンティックさとは真逆を行く、ライトに楽しく描き出すブゾーニの音楽!そもそも『トゥーランドット』の芝居(18世紀、ヴェネツィアで活躍した劇作家、ゴッツィによる... )は、コメディア・デラルテの演目だったとのこと(だから『アルレッキーノ』とセットなのか、合点!)... となれば、擬古典主義こそ、的を射た音楽と言えるのかもしれない。さらにブゾーニは、このエキゾティックな物語を、下手に中華風にこだわらず、様々なテイストで彩る。魅惑的なアラベスクで飾られるかと思えば、中東欧の舞曲を思わせるリズミカルな音楽でスパークさせて、さらにはイングランド民謡、グリーンスリーヴス(disc.2, track.14)でしっとりと... で、いいのか?!となるのだけれど、そういうごった煮的なチープさ、そこか生まれるキャッチーさが、コメディア・デラルテの伝統なのだろう... 原作の喜劇的な性格、楽しさを活かし切り、軽快に物語が展開して、山場では大いに盛り上がり、オペラとしての醍醐味もしっかり聴かせるブゾーニ。改めてこのオペラを聴いてみると、ブゾーニのオペラ作家としての器用さに感服させられる。この人には、明らかにオペラの国の血が流れているのだなと...
という、ブゾーニの2つのオペラを取り上げたケント・ナガノ... パリでプッチーニの『トゥーランドット』を取り上げるならば、リヨンはブゾーニの『トゥーランドット』で... ケント・ナガノのリヨン時代(1988-98)は、そんな刺激的な試みが様々に繰り出され、一躍、注目を集めることになったのだが、ここで聴く録音は、まさにその時代の産物... で、単に物珍しい演目を物珍しさから取り上げるのではなく、至極当たり前のレパートリーとして、さらりとやってのけるのがケント流。ケントならではの明晰さを以って、気負うことなくナチュラルにドラマを繰り出して生まれる、何とも言えないニュートラルさ!この癖の無さが、作品をより雄弁に歌わせて、聴き入るばかり。もちろん、リヨン・オペラのオーケストラ、コーラスの端正なパフォーマンスもすばらしく... 一方、歌手陣は、コメディア・デラルテの気分を見事に捉え、表情豊か!軽やかにキャラクタリスティックなロールを歌い、ドラマを巧みに弾ませる。そうして見えて来るのは、オペラ作家、ブゾーニの力量!いやー、メモリアルなればこそ、聴き直して感じ入るその存在。ブゾーニは、間違いなく、おもしろい!

Busoni
ARLECCHINO | TURANDOT
ORCHESTRE DE L’OPERA DE LYON
KENT NAGANO

ブゾーニ : オペラ 『アルレッキーノ』

アルレッキーノ : エルンスト・テオ・リヒター(バリトン)
マッテーオ : トーマス・メーア(バリトン)
コスピクス修道院長 : ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン)
ボンバスト先生 : フィリップ・フッテンロッヒャー(バリトン)
レアンドロ : シュテファン・ダールベリ(テノール)
コロンビーネ : スザンヌ・メンツァー(メッゾ・ソプラノ)

ブゾーニ : オペラ 『トゥーランドット』

トゥーランドット : メッヒシルト・ゲッセンドルフ(ソプラノ)
アルトゥム : フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(バス)
カラフ : シュテファン・ダールベリ(テノール)
トゥルファッルディーノ : マルクス・シェーファー(テノール)
パンタローネ : ミヒャエル・クラウス(テノール)
タルタリア : ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン)
バラク : ファルク・シュトルックマン(バリトン)
アデルマ : ガブリエーレ・シマ(ソプラノ)
サマルカンダの王太后 : アンヌ・マリ・ロッド(ソプラノ)
リヨン歌劇場合唱団

ケント・ナガノ/リヨン歌劇場管弦楽団

Virgin CLASSICS/7 59313 2




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