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喧騒も、映画も、何でも!サティが見つめた先... [before 2005]

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穏やかに晴れた今年のお正月、最寄りの氏神様にも初詣できたし、帰り道では遠くに富士山も!特別なことは無くとも、ふわーっとめでたい気分に包まれる喜び。いや、お正月って、こういう、ふわーっとした空気感こそ醍醐味な気がする。特に何もしない... 寝坊する... ほろ酔いである... 緩んだ所にこそ福来る。というのは、正月ボケの言い訳か?さて、今年の聴き初めは、サティ。もちろん、生誕150年のメモリアルということもあるけれど、サティの音楽は、どこか正月の気分に合っているように感じられ... あの、曖昧模糊とした表情は、どこか雅楽っぽい?フランスらしい明朗なトーンが、絶妙に新春を思わせる?クラシックの世界で正月というと、ウィンナー・ワルツだけれど、サティもまたありのような気がする。というより、脱力系なサティこそ!
ということで、ピアノ作品ばかりで語られがちなサティのもうひとつの一面を丁寧に紹介する1枚... ジェローム・カルタンバックが率いたオルケストル・サンフォニック・エ・リリク・ドゥ・ナンシーの演奏で、サティの伝説のバレエ『パラード』(NAXOS/8.554279)を聴く。

サティは無数のピアノ作品を残し、時にクラシックというジャンルを越えて多くの人々を魅了するわけだが、ピアノ作品以外となると、すっかり片隅に置かれ、取り上げられることは少ない。が、当然ながら、ピアノ作品ばかりがサティではなく、シャンソンに、宗教音楽(教会音楽に留まらず、秘密結社のためのものまで... )、室内楽から、劇場作品まで、改めてサティの仕事を俯瞰してみると、実にヴァラエティに富んでいる(それぞれの作品数はけして多くは無いけれど... )。そうした作品の中で際立っているのが、1917年、バレエ・リュスにより初演された、バレエ『パラード』(track.1-3)。ストラヴィンスキーの『春の祭典』(1913)から4年を経て、再びパリにセンセーションを巻き起こした伝説の作品。コクトーの台本に、ピカソの美術というから、それだけでもはや伝説なのだけれど、サティの音楽がまた大胆!街にやって来たサーカスのテントの前で、ちょっとしたデモンストレーションが繰り広げられて、観客を呼び込む風景を綴る他愛も無いバレエ... で、「他愛も無い」という、劇的の対極にあるリアリティを生み出すために、サティは街の喧騒を音楽に引き込むという、実験をこのバレエで試みる。
サイレン、タイプライター、ピストルなどなど、楽器ではないものが発するサウンドをオーケストラに持ち込んで、サーカスのテント前の人通りのリアリティを巧みに音楽として表現する。これは、戦後に起こる、録音技術を駆使して、様々なノイズを編集し作品とするミュージック・コンクレート、具体音楽の概念を先取るもので、改めてサティの先進性に驚かされる。が、初演時は、この大胆さが賛否を呼び、やがて裁判を引き起こす大騒動に... 結果的には見事な炎上商法となって、サティの名声は確立(その裏に、フィクサーとしてのコクトーの存在があって... )。となると、『パラード』の音楽は、トンデモないものだったように思われそうだけれど、音楽における一通りの驚きを経験してしまった我々の耳には、ユルいものに感じられてしまう。が、そもそも、ユルさこそサティであって... サティならではの飄々としたトーンの中に、街の喧騒がポップに取り込まれて生まれる情景は、遊園地で遊ぶような感覚があって、何とも言えない楽しさがある。それは、どこかヴァーチャル?音楽を聴くというより、楽しげなサウンド・スケープの中を彷徨うような不思議さ... この不思議さは、ちょっと他には探せないかも。イカニモな近代音楽を繰り出すのではなく、何だか懐かしいような情景を次々に見せられて、ふとアイヴスの音楽を思い起こす。『春の祭典』のような、時代を超越する衝撃こそ無いものの、時代を煙に巻くファンタジーが、ふわぁーっと漂う。
そこから、3つのグノシエンヌ(track.4-6)を挿んで、1924年に作曲された2つのバレエ、『メルキュール』(track.7-19)と、『本日休演』(track.20-41)が取り上げられる。そこでは、『パラード』の騒動から7年を経ての、サティなりの洗練を見出せるのか、フランスらしい流麗さと、ライトさが印象的。とは言うものの、『本日休演』の幕間に上映されたシネマ(track.30)で、再び騒動は起きてしまう。ルネ・クレールによるドタバタな映像(暴走する霊柩車がジェット・コースターを突っ走る!で、サティも出演... )が物議を醸すことに... ま、これもまた炎上商法のようなのだけれど、サティによるその音楽を、今、改めて聴いてみると、ミニマル・ミュージックを思わせる繰り返しが絶妙に効いていて、断然、刺激的!どこか機械的に繰り出されるフレーズは、一昔前のゲーム・ミュージックのようで、愛嬌すらあって、おもしろい。いや、これは、サティの隠れた名作なのかも...
そんな、サティのバレエ音楽を取り上げたカルタンバック、オルケストル・サンフォニック・エ・リリク・ドゥ・ナンシー。久々に聴いてみると、その演奏のすばらしさに驚かされる。一音一音をしっかりと響かせて、ふわぁーっとしているサティのイメージをどこかでキリリと引き締めもし、他愛ない場面に程好い緊張感をもたらしている。だからこそ、サティならではのウィットが効いて来るところもあり、絶妙。そうして再発見する、ピアノではないオーケストラによるサティの魅力。フランスらしい明朗さ、色彩感に彩られながら、サティならではのユルさを小気味良さに昇華して、颯爽と、かつてセンセーションを巻き起こした情景を描き出すカルタンバック、オルケストル・サンフォニック・エ・リリク・ドゥ・ナンシー、なかなか魅力的。

SATIE: Parade ・ Trois Gymnopédies ・ Relâche

サティ : バレエ 『パラード』
サティ : 3つのグノシエンヌ 〔オーケストレーション : ドビュッシー〕
サティ : バレエ 『メルキュール』
サティ : バレエ 『本日休演』

ジェローム・カルタンバック/オルケストル・サンフォニック・エ・リリク・ドゥ・ナンシー

NAXOS/8.554279




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