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大地を踏みならせ!伊福部昭の原初への眼差し... [before 2005]

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「日本」とは... と、自らについて考えたがるのが、日本人の特性。というのを、どこかで読んだ気がするのだけれど、どこだったか... いや、考えてしまう。というより、今、「日本」に、興味津々だったりする。それは、ナショナリズムとは違う、ある種のジャポニスムだろうか?明治維新による西洋化によって失われた「日本」を求めて... あるいは、失われてもなお、基底に息衝く「日本」を再発見して、ワクワクするような... 裏を返せば、それだけ「日本」を知らないということになるのだろう。「日本」が魅力的であるかどうかはさて置き、まず知りたいという欲求が、じわじわ高まっている今日この頃。そうした中、改めて日本の作品を聴いてみたのだけれど、西洋音楽というフォーマット越しに見つめる「日本」の姿は、なかなかおもしろい。西洋音楽のシステマティックなフィルターを通すことで、かえって本質が明らかになるようにも聴こえた、三輪作品であり、矢代作品だった気もする。
さて、より「日本」に迫ろうとした作曲家に注目する。ドミトリ・ヤブロンスキー率いる、ロシア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、伊福部昭のシンフォニア・タプカーラ、リトミカ・オスティナータ、1番のSF交響ファンタジー(NAXOS/8.557587)を聴く。

伊福部昭(1914-2006)と言ったら、やっぱりゴジラ!戦後日本のアイコンとも言えるキャラクターに、これ以上ないほど見事なテーマを創り出した伊福部もまた、日本における音楽のアイコンとなり得るのかもしれない... という伊福部芸術のルーツはどこにあるのだろうか?ゴジラのイメージが強過ぎると、どうもそうしたあたりに興味が回らなかったりするのだけれど... いや、改めて、その作曲家としての軌跡、背景を見つめると、まったく以って興味深いことを知る。1914年、釧路で生まれた伊福部は、9歳の時、父が音更(帯広の北隣り... )の村長となったことで、十勝地方へと移る。そこで、アイヌ文化に直に触れた経験が、伊福部芸術に土着的な力強さをもたらす。ズバリ、ゴジラのテーマで聴こえて来る重量感が、日本列島の大地に根差したサウンドであり、リズムであったと考えると、核によって生まれたというゴジラの存在そのものが、もうひとつ深みを以って立ち現れるような気がする。で、1曲目は、伊福部のアイヌ文化への共感が形となった、シンフォニア・タプカーラ。
映画『ゴジラ』が公開された年、1954年に作曲されたシンフォニア・タプカーラ(track.1-3)は、アイヌの男性による立ち踊り、タプカーラに由来し、アイヌの民族音楽の素朴さを、大胆にシンフォニーへと昇華させた、伊福部芸術を代表する作品。ミステリアスな霧に覆われた北海道の大地を思わせる短い序奏の後に、シンプルにして力強いリズムが浮かび上がる1楽章。タプカーラは大地を踏みならす踊りとのことだが、まさに踏みならす感じ... 踏みならすことで、大地の壮大さが広がるよう。2楽章(track.2)は、一転、ロマンティックなトーンに包まれ、ロシアの音楽を思わせる憂いを湛え、印象的。そうした中にも、時折、太鼓のリズムが浮かび、アイヌを意識させる要素も... そして、終楽章(track.3)、アイヌの酒宴の熱狂を描き出す。キャッチーなメロディーが、勇壮なリズムに彩られて、パワフルに繰り出される音楽は、理屈抜きに魅了されてしまう。バルトークを思わせる、フォークロワに寄り添うことで、モダニズムが引き出される伊福部芸術のおもしろさ... 複雑なハンガリーとはまた違う、アイヌのフォークロワの実直さがダイレクトな音楽を形作り、日本の土着モダニズムも負けてない!
続く、1961年の作品、ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ(track.4)は、シンフォニア・タプカーラの終楽章で聴こえたキャッチーなメロディーがそのままピアノに乗り、おおっ?!となる。シンフォニア・タプカーラの基になった、1941年に作曲されるも戦災で失われた協奏風交響曲(後にパート譜が発見されている... )を引用しているリトミカ・オスティナータは、シンフォニア・タプカーラとは兄弟関係にある。が、弟は、より洗練された響きが印象的で... シンフォニア・タプカーラと同じ旋律であっても、ピアノが捉えるその旋律はシャープに響き、思いの外、クール!で、そのクールがオスティナート(フレーズを何度も繰り返す... )されると、何だかミニマルっぽい。ジョン・アダムスすら思わせる。いや、カッコいい... シンフォニア・タプカーラの大地に根差したサウンドとは違う、どこかインダストリアルな雰囲気が、戦後、高度成長期の日本と重なるようで、おもしろい。一方で、オスティナートそのものは、秘儀的で、陶酔的で、この体感する感覚に、魅了されてしまう。
で、この伊福部芸術に絶妙に作用する、ロシアの感性!その音楽のスラヴ性に言及される伊福部作品だけに、ドミトリ・ヤブロンスキー+ロシア・フィルによる演奏が、ロシア的な深みやスケール感を引き出すところもあり、なかなか興味深い。特に、ゴジラなどのお馴染みのテーマで構成される1番のSF交響ファンタジー(track.5)などは、ショスタコーヴィチを聴くような感覚もあり、刺激的。日本列島の土着的な文化へ下りて行くことで、「日本」を探ろうとした伊福部の世界観を、日本から離れて見つめることで生まれるケミストリーか?ヨーロッパにして、アジア的な土着性を窺わすロシア文化と、不思議な距離感が浮かび上がり、興味深い。しかし、ズンズン、リズムが繰り出されるポジティヴ感、たまらない!

IFUKUBE: Sinfonia Tapkaara ・ Symphonic Fantasia No.1

伊福部 昭 : シンフォニア・タプカーラ 〔1979年、改訂版〕
伊福部 昭 : リトミカ・オスティナータ 〔ピアノとオーケストラのための〕 *
伊福部 昭 : SF交響ファンタジー 第1番

エカテリーナ・サランツェヴァ(ピアノ) *
ドミトリ・ヤブロンスキー/ロシア・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS/8.557587




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