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夜うぐいすは予見する?20世紀、近代戦争の果て... [before 2005]

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パリのコンサート・ホールでテロ!と聞いて、もしや、新しいフィルハーモニー?と、戦慄。いや、フィルハーモニー・ド・パリではなかったのだけれど、120人以上が亡くなったと知って、居た堪れない思いに(亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、負傷された方が一日も早く、回復されることを願います。)... しかし、なぜ、こうなるのか?世界を見渡せば、同じことが繰り返されている現実に、虚しさも覚える。何か、根本的なところから真摯に向き合い、立て直さないといけないような気がするのだけれど、世界には独善ばかりが目立ち、権力者はモグラ叩きに終始し、真の解決は求められていないようですらある。はぁ~ ため息をつくばかりの雨の日曜... 何だか気分も落ち込み気味... なので、ファンタジックなオペラで、ひと時、21世紀の厳しい現実を忘れる。
文化大革命後の現代中国の作曲家たち明清時代のイエズス会の教会音楽と、中国を様々に聴いて来た今月。その最後に、リアルな中国から離れ、西洋における魅惑的なシノワズリーに包まれて... ジェイムズ・コンロンの指揮、パリ国立オペラによる、ナタリー・デセイ(ソプラノ)のタイトルロールで、ストラヴィンスキーのオペラ『夜うぐいす』(EMI/5 56874 2)を聴く。

ストラヴィンスキー(1882-1971)がまだ駆け出しだった頃、ちょうどバレエ・リュスの主催者、ディアギレフの目に留まった年、1908年に書き始められたオペラ『夜うぐいす』(track.1-15)。夜うぐいすの美しい歌声が、中国の皇帝を癒すという、アンデルセンの童話を基に、リムスキー・コルサコフの『金鶏』に影響を受けながら作曲された、ストラヴィンスキーの最初のオペラ。なのだが、1幕を作曲したところで、ディアギレフからバレエ『火の鳥』の委嘱を受け、以後、三大バレエ(『火の鳥』が1910年、『ペトルーシュカ』が1911年、『春の祭典』が1913年に初演される... )に専念、作曲が中断されてしまう。このことにより、1幕と、1幕以後の音楽に、隔たりができてしまった『夜うぐいす』。19世紀的な、リムスキー・コルサコフを思わせる、美しくファンタジックなシノワズリーに彩られた1幕(track.1-5)。バレエ『春の祭典』でセンセーショナルを巻き起こし、20世紀、近代音楽の先駆者としてブレイクを果たしてからの、モダニスティックでドライなシノワズリーを響かせる2幕(track.6-10)、3幕(track.11-15)。しかし、このコントラストが、『夜うぐいす』にスパイスを効かせるから、おもしろい。夜うぐいすが棲む森を描く1幕のロマンティックさと、皇帝の宮廷の格式張ったあたりを絶妙に表現する2幕以後のモダニスティックさ... ストラヴィンスキーの進化が、こうもドンピシャにはまるとは!で、最高なのが、2幕に登場する、夜うぐいすのライヴァル、機械仕掛けの夜うぐいす... その歌(track.10)の、メカニカルなシノワズリーは、モダニズムの面目躍如。こういった器用さ、柔軟さが、ストラヴィンスキーを希代の作曲家に押し上げたのだろう。
そんな『夜うぐいす』が完成するのは、1914年、第1次世界大戦の開戦の年。でもって、夜うぐいすの美しい歌声が、死神を追い払うというストーリー(正確には、死神をも魅了し、夜うぐいすが機転を利かせ、皇帝の命を救う... )には、近代戦争が招く夥しい"死"が予感されているようで... あるいは、近代戦争による暴力と破壊による"死"を追い払おうという願いが籠められてもいるようで、何だか感慨深い。もちろん、その後の顛末を知るからこそ、そういう見方ができるわけだけれど、芸術家の鋭敏な感性が、大いなる悲劇を察知していたようにも思える。そういうストラヴィンスキーの鋭さをよりはっきりと感じられるのが、中国の描き方。さらには、その中国に贈り物を届ける日本の描き方。皇帝の独善的な態度、格式張った宮廷の様子は、今の中国そのもの?一方の日本は、機械仕掛けの夜うぐいすを製作... ものづくり日本のイメージは、第1次大戦前にもあったのか?すでにギミックな国というイメージ?いや、他愛ないファンタジーの中に、東アジアのリアルに迫って、鋭く突いて来るあたり、ストラヴィンスキーの物事を捉える力というのは、まったく以って鋭いなと、妙に感心させられる。
さて、そんな『夜うぐいす』を聴かせてくれるのが、コンロンの指揮、パリ国立オペラ。コンロンらしい整理された響きが、フランスのオーケストラならではの色彩感をしっかりと活かし、ストラヴィンスキーによるシノワズリーを鮮やかに繰り広げる。そうして生まれる、お伽話的カラフルさは、センス良くドラマを息衝かせ、ファンタジーをより魅惑的なものにとている。そして、タイトルロール、夜うぐいすを歌うデセイ!このオペラの肝とも言える、夜うぐいすの歌(track.8)は、コロラトゥーラによる超絶技巧が冴え渡り、皇帝ならずとも、聴き入ってしまう!さらに、死神をも虜にする、「ああ、わたしはここにおります」(track.12)の、ミステリアスで東洋風な表情... どことなく京劇を思わせる雰囲気も?いや、何と言っても、絶好調だったデセイのやわらかな歌声が宙を舞うようで、夜うぐいすが軽やかに羽ばたくかのよう。見事!

STRAVINSKY Le Rossignol - Renard

ストラヴィンスキー : オペラ 『夜うぐいす』

夜うぐいす : ナタリー・デセイ(ソプラノ)
料理番の娘 : マリー・マクラクリン(ソプラノ)
死神 : ヴィオレッタ・ウルマーナ(メッゾ・ソプラノ)
漁夫 : フセヴォロート・グリヴノーフ(テノール)
中国の皇帝 : アルベルト・シャギドゥリン(バリトン)
内大臣 : ロラン・ナウリ(バリトン)
僧侶 : マクシム・ミハイロフ(バス)
日本の使者 : オリヴィエ・ベール(テノール)
日本の使者 : ヴァシール・スリパック(テノール)
日本の使者 : グジェゴシュ・スタスキェヴィチ(バス)

ストラヴィンスキー : 歌とダンスのバーレスク劇 『きつね』

イアン・ケイリー(テノール)
フセヴォロート・グリヴノーフ(テノール)
ロラン・ナウリ(バリトン)
マクシム・ミハイロフ(バス)

ジェイムズ・コンロン/パリ国立オペラ

EMI/5 56874 2




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