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out of peking opera... 譚盾の軌跡。 [before 2005]

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さて、明清時代から現代中国へと戻りまして、今や現代音楽界に欠かせないスター、タン・ドゥン!1997年、香港返還の式典のための交響曲を作曲し、2000年のバッハ没後250年のメモリアルには、シュトゥットガルト国際バッハ・アカデミーの委嘱で"新"マタイ受難曲を作曲。映画『グリーン・デスティニー』(2000)では、アカデミー作曲賞を受賞。2008年、北京オリンピックでは、メダル授与式のための音楽も手掛け、さらに、2011年のプロジェクト、YouTubeシンフォニー・オーケストラのために、インターネット交響曲なる新しいジャンル(?)まで開拓したりと、華やかな話題をコンスタントに届けてくれるタン・ドゥン。閉鎖的な現代音楽の世界からすると、その華やかさは、まったく以って、驚くべきもの。なのだが、華開くまでが大変だった...
というあたりを見つめつつ、タン・ドゥンが大きく飛躍する頃に注目。ムーハイ・タンの指揮、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、タン・ドゥンのアウト・オブ・ペキン・オペラ、死と炎、オーケストラル・シアター II 「レ」(ONDINE/ODE 864-2)を聴く。

1957年、湖南省で生まれた譚盾(タン・ドゥン)。古い伝統(シャーマニズム)が息衝く農村で育ったとのことだが、文化大革命で一家は離散。タン・ドゥン自身も下放され、厳しい環境に置かれる。が、そこで二胡と出会い、音楽に関心を持つ。また、ひょんなことから京劇の劇団に加わり、二胡奏者として音楽人生をスタート。19歳の時に、フィラデルフィア管による「運命」を聴き、西洋音楽に衝撃を受け、その世界を目指す。文化大革命が終了すると、1978年、北京の中央音楽学院に入学(チェン・イジョウ・ロンとは同窓!)、正式な音楽教育を受け始めての、その翌年には、交響曲「離騒」を作曲したというから、凄い。で、この作品により、一躍、注目の作曲家となるのだが、西側の「前衛」に関心を示したタン・ドゥンは攻撃の対象ともなり、作品の演奏が禁止されるという厳しい局面もあった。しかし、このことが、幼い頃、タン・ドゥンが接していた古い伝統への回帰を促し、今に至る方向性が決定付けられる。1986年には、周文中に招かれ、アメリカ留学を果たし、最新の音楽も吸収。中国の伝統と斬新なアイデアを結び、瞬く間にインターナショナルに活躍する、現代音楽界の寵児となった。
さて、ムーハイ・タン、ヘルシンキ・フィルによるアルバムは、コロンビア大学での終了作品、1987年に作曲されたアウト・オブ・ペキン・オペラ(track.1)に、ニューヨーク、MoMAでのクレーの展覧会にインスパイアされた1992年の作品、「死と炎 パウル・クレーとの対話」(track.2-11)、コンサートの在り方の新たな地平を切り拓く、オーケストラル・シアターのシリーズから、1993年の作品、II 「レ」(track.12)の3曲が取り上げられる。ちょうど、タン・ドゥンが大きく飛躍する頃の作品だけに、より力強く、密度のある音楽が印象的。特に、チョーリャン・リンのヴァイオリンで奏でられる協奏的作品、アウト・オブ・ペキン・オペラ(track.1)は、タン・ドゥンの音楽家としてのルーツとも言える京劇がフィーチャーされ、ヴァイオリンに二胡のトーンを重ねて、幻想的な情景が描き出される。続く、「死と炎 パウル・クレーとの対話」(track.2-11)では、クレーの絵画が持つ脱ヨーロッパ的な感性を巧みにすくい上げ、クレーという存在にも新鮮さをもたらすような効果を生むのか、なかなか興味深い。
そして、よりタン・ドゥンらしい作品、オーケストラル・シアター II 「レ」(track.12)は、その名の通り、低い「レ」の音を奏でる弦楽器を背景に、声明のようなヴォイス・パフォーマンスで幕を開けるのだけれど、何と言うミステリアスさ!でもって、観客もその音楽に参加して、みんなで怪しげな呪文(ホンミラガイゴ... )を唱えるというから、もう、どうしましょ。コンサートというよりは、もはや秘儀。そして、終盤には、タン・ドゥンならではのウォーター・パーカッション(水盤の水を手でパシャパシャするやつ... )も聴こえて来て、トゥーマッチ?いや、突き抜けている!同窓のチェン・イや、ジョウ・ロンの音楽にはない、既存の音楽を度外視した屈託の無さこそが、タン・ドゥンを寵児たらしめているのだなと、今、改めて、再確認する思い。いや、そのギミックさが苦手だったのだけれど、現代音楽であろうと構わずギミックであることが、凄いことなのかも... で、それがまた極めて中国的なことなのかも... このあたり、"Vêpres à la vierge en chine"でのトゥーマッチに通じるよう。
という、タン・ドゥンの作品を取り上げた、ムーハイ・タン、ヘルシンキ・フィル。実に器用にタン・ドゥンの個性に対応し、思い掛けなく魅力的な演奏を繰り広げる。特に、ヘルシンキ・フィルの鮮やかなサウンドは、タン・ドゥンの音楽世界を丁寧に照らし出し、「中国」を越えて、現代音楽としての魅力をきっちりと引き出して来る。オーケストラル・シアター II 「レ」(track.12)では、特にそのあたりが活き、ギミックではあっても、そこに発生する呪術性をしっかりと響かせ、思わず惹き込まれる。

TAN DUN: OUT OF PEKING OPERA, ETC.
CHO-LIANG LIN ・ HELSINKI PO ・ MUHAI TANG


タン・ドゥン : アウト・オブ・ペキン・オペラ 〔独奏ヴァイオリンとオーケストラのための〕 *
タン・ドゥン : 死と炎 パウル・クレーとの対話
タン・ドゥン : オーケストラル・シアター II 「レ」 〔分割されたオーケストラとバスの声、観客、2人の指揮者のための〕 **

チョーリャン・リン(ヴァイオリン) *
カレヴィ・オリ(バス) *
ムーハイ・タン/ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
カリ・クロプス(第2指揮者) *

ONDINE/ODE 864-2

ところで、オーケストラル・シアター II 「レ」は、サントリーホールの国際作曲家委嘱シリーズで生み出されたというから、日本も大したもの...




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