SSブログ

"ORIENTAL LANDSCAPES"、オリエンタリズムを越えて... [before 2005]

BISCD1222.jpg
なぜ、こうも熱心に、遠いヨーロッパの昔の音楽を聴いているのだろう?そんなことをふと思う瞬間がある。西洋文明の彼岸とも言える極東の、その際の、細長い列島で聴くクラシックは、どこか滑稽な気もしなくもない。いや、西洋とはまったく異なるルーツを持つ日本人が、時にはピリオドだ、古楽だと、音楽史まで遡り始めるわけで... それを西洋から見つめたなら、奇妙奇天烈に映るかもしれない。とはいえ、我々にとっての音楽は、西洋音楽であることもまた事実。明治政府による西洋近代化は、音楽もまたしかりであって... 12の音階、ハーモニー、記譜、様々な楽器、などなど、日本の伝統音楽に取って替えられた史実がある。その先に今があるならば、西洋音楽史は、いつの間にか、我々のルーツにもなってしまった。そして、これは、近代化を推し進めた国、全てに当てはまることなのだろう... となると、最もグローバリゼーションが進んでいるのは、音楽かもしれない。
というあたりを、アジアから切り取る1枚... 今や、東南アジアを代表するオーケストラとなった、ラン・シュイ率いる、シンガポール交響楽団のサポートを得て、スター・パーカッショニスト、エヴェリン・グレニーが、東西の現代の作曲家による、アジアを題材としたコンチェルトを取り上げる、希有なアルバム、"ORIENTAL LANDSCAPES"(BIS/BIS-CD-1222)を聴く。

"ORIENTAL LANDSCAPES"というタイトルを裏切らない、東洋の風景が浮かび上がる、4人の作曲家による4つのコンチェルト... スコットランド、エディンバラに生まれ、パリでナディア・ブーランジェに、アメリカでコープランドに師事し、ニューヨークを拠点に活動したテア・マスグレイヴ(b.1928)。アジアを旅し、独特の音楽世界を生み出したアメリカ現代音楽の異才、アラン・ホヴァネス(1911-2000)。広州に生まれ、ニューヨークのコロンビア大学へ留学し、以後、アメリカで活動する女流作曲家、チェン・イ(b.1953)。北京の生まれで、やはりコロンビア大学に留学し、チェン・イとは同級生で、後に結婚、2011年にはピューリッツァー賞を受賞し、アメリカの作曲家として活躍する、ジョウ・ロン(b.1953)。4人の作曲家の経歴を見つめると、まさにグローバル。そのグローバルなスケールから、アジアがズームアップされるというおもしろさ!同じエキゾティシズムでも、19世紀ヨーロッパにおけるそれとは明らかに違う感覚がある。さらに、西洋からの視点、故郷を離れて故郷を見つめる視点、男性の視点、女性の視点(マスグレイヴ、チェン・イ)、日本(マスグレイヴ、ホヴァネスによる... )と中国の対比、と、"ORIENTAL LANDSCAPES"から響き出すアジアも、視点が交差し、より豊かな風景が広がる。
その始まり、チェン・イのパーカッション協奏曲(track.1-3)... 京劇の世界をオーケストラに落とし込んだような、軽やかなリズムに彩られるキャッチーな音楽!パーカッションが軽やかに表情豊かにリズムを刻めば、思いの外、クール!京劇のアクロバットが目に浮かぶ。一方で、2楽章(track.2)の中国語による朗唱のミステリアスさ... 言葉の抑揚がオーケストラに読み込まれ、パーカッションがそれにまた反応する。パーカッション協奏曲に台詞?みたいな驚きもあるのだけれど、西洋のオーケストラの上に中国の芝居小屋が立ち上がるような、不可思議さが魅惑的。そして、このアルバムで聴く、もうひとりの中国出身の作曲家、ジョウ・ロンの"Out of Tang Court"(track.8)は、唐王朝の宮廷を彩ったアンサンブル(古箏、二胡、琵琶)を再現し、中国の古楽器による合奏協奏曲のような形を採る。よって、グレニーはお休み... なのだけれど、この古の唐の響きが、まったく以って興味深い!まるで日本の雅楽... そうか、雅楽のルーツは唐なのか... と、興味深く感じられ、何より、その詩情豊かな響きに惹き込まれる。そして、中国の古楽器をしなやかに受け止めてしまう西洋のオーケストラの柔軟さ!こうしたあたりに、音楽のグローバリズムを征した西洋音楽のポテンシャルの高さを、再認識せられる。
さて、西洋からの視点... マスグレイヴによる、マリンバと管楽オーケストラのための「日本の風景を巡る旅」(track.4-7)は、4つの楽章が、春に始まる日本の四季を繊細に描き出し、印象的。それは、日本調の旋律に彩られるものではなく、日本ならではのうつろいゆく自然の表情を捉えるようで、武満の音楽に通じるような感覚もあり、そう言う点で、巧みに日本らしさを拾い上げているのかも。風や雨、木々のざわめき、棚引く雲... 具象ではなく、抽象にこそ表れる日本の姿に迫れたマスグレイヴの感性に興味深さを覚える。一転、ホヴァネスの日本の版画による幻想曲(track.9)は、浮世絵をサウンドにしているのだろう、わかり易いキャラクタリスティックな旋律に彩られ、キャッチー!この、あっけらかんとした気分がホヴァネスらしい。アジアに深く心酔しても、アメリカンなポップさが効いてしまい、残念!いや、ポップさこそ、浮世絵だったわ... と、ポップ・カルチャーが成熟していた江戸の雰囲気と共鳴してしまうから、おもしろい。そうして繰り出される粋な風情がクール!
そんなアジアを聴かせてくれた、グレニー... アジアだろうが何だろうが、耳で追うのではなく、身体に音楽を取り込んで刻まれるリズムの、際立った存在感に、圧倒される。そうして放たれる、アジアの瑞々しさ!パリっと明快に叩きながらも、それらがリズムを形成すると、詩情が生まれるから不思議... なおかつ、中華風も、和風も、器用に表現し分けるから凄い。そんなグレニーを、絶妙にサポートするラン・シュイ+シンガポール響。アジアのオーケストラだからこその共感もあるかもしれないが、普段のレパートリーはベートーヴェンやブラームスのはず... そこから、あえてアジアに目を向けるのは難しいことのように感じる。が、4つのコンチェルト、それぞれをきちっと消化し、ナチュラルに東洋の風景を描き上げていることに、このオーケストラの力量を感じる。グレニーばかりでない、ラン・シュイ+シンガポール響があってこその"ORIENTAL LANDSCAPES"... オリエンタリズムを越えて、多彩なアジア像を結び、思いの外、魅惑的。

Oriental Landscapes - Evelyn Glennie / Singapore S.O. / Lan Shui

チェン・イ : パーカッション協奏曲 *
テア・マスグレイヴ : マリンバと管楽オーケストラのための協奏曲 「日本の風景を巡る旅」 *
ジョウ・ロン : Out of Tang Court 〔唐代のアンサンブルとオーケストラのための〕 ***
アラン・ホヴァネス : 日本の版画による幻想曲 Op.211 〔シロフォンとオーケストラのための〕 *

エヴェリン・グレニー(パーカッション) *
ドゥオン・ハイチオン(古箏) *
ワン・グイイン(二胡) *
ジャン・レイ(琵琶) *
ラン・シュイ/シンガポール交響楽団

BIS/BIS-CD-1222




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。