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ハイブリットは自動車のみならず、 [before 2005]

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先日は、木枯らし1号が吹きました。冬は間近ですね... と思ったら、妙に温かい日が続いて、何だか調子が狂う。しかし、10月も終わりです。2015年も残すところ2ヶ月ばかり。もう、あっという間でクリスマスとかやって来てしまうんだろうなァ。かぼちゃ、片さないと... さて、この秋、西洋音楽=クラシックの"東"を見つめて来ました。スメタナの『我が祖国』に始まり、中東欧の国民楽派を巡り、フォークロワから近代音楽を紡ぎ出したバルトークら、ハンガリーの作曲家たちの希有なセンスに触れ、バルカンを南下し、ギリシャへと辿り着き、そこから、東方教会の諸相を見つめ、バロック期のウィーンへ... 東の王国=エスターライヒ、オーストリア、かつてのハプスブルク帝国の懐の大きさに、今さらながら、感服。では、このあたりで、"東"に向いた視線を戻しまして...
の、つもりだったのだけれど、さらに、さらに東へと突き進んでしまう。いざ、アジアへ!西洋音楽が東洋へと浸透して生まれるケミストリー、アジアからのクラシック、クラシックが見つめたアジアを探ってみようかなと... で、その始まりに、近現代音楽のスペシャリスト、高橋アキのピアノで、現代音楽界の異色の存在、三輪眞弘の「東の唄」(fontec/FOCD 3425)を聴く。

ロックから現代音楽にやって来た人... というような紹介のされ方をする三輪眞弘(b.1958)。音楽を本格的に学ぶ前、高校時代、バンドを組み活動し、プログレッシヴ・ロックの洗礼を受け... というのは、その世代にとって、そう珍しいことではないと思うのだけれど、そういう人物を迎えた現代音楽からすると、十分にセンセーショナルなのかもしれない(てか、もっともっと、いろんなバックグラウンドを持つ逸材が参入できる間口の広さ、懐の大きさを見せられたなら、現代音楽は、俄然、刺激的になって来ると思うのだけれど... )。そもそも、現代音楽というのは、「現代」を謳いながらも、現代のリアルとは距離を取り、特殊な世界に閉じ籠っている印象がある。よって、解らなくて上等!ですらあるのだが、三輪作品には、我々と近い場所から出発していることを感じさせる気安さが漂い、ロックな... というより、ポップな、かもしれないが、どこか飄々とした風合を響かせて、現代音楽にして、いつもよりカッコよく、何気に素敵なのである。とはいえ、そのカッコよさと素敵さが、実際、どういう風に紡ぎ出されているかを把握するのは、難しい。それを特徴付けるコンピューター、プログラミングの介在...
ここで聴く、「東の唄」は、ピアニストが弾くピアノと、コンピューター制御のピアノによる、2台のピアノのための作品。そこに、サンプリングされた民謡が重ねられて、和の雰囲気を醸し出し、まさに"東"の唄となる。けど、日本風の旋律が前面に出て来るでもなく、コンピューターが介在するせいか、不思議とスタイリッシュ。ミニマル・ミュージックを聴くような感覚すらある。いや、ズバリ、カッコいいのである。カッコいいのだけれど、「そいっ!」とか、飄々と掛け声が入って、おもしろくもある。いや、こんなにも素敵に「日本」が現代音楽に落し込まれたサウンドを他に聴いたことがない。一方で、その素敵が生み出される過程は複雑。「そいっ!」は、単なる掛け声ではなく、ピアニストにサンプリングの開始を伝える合図であって... つまり、ピアニストによる演奏が、コンピューターを介して、コンピューター制御のピアノに映し取られてゆく。それは、まるで、ピアニストが複製されるかのようでもあり、どこかSFっぽい。さらに凄いのは、サンプリングするばかりでなく、それを受けて作曲もこなし(作曲家自身によるプログラム... )、ピアニストと対峙するというから、凄い!筋金入りのライヴ・エレクトロニクスにして、これぞ制御された偶然性か... いや、そのシステム、まだ完全には呑み込めてはいないのだけれど、とてつもなく「現代」を感じる。とはいえ、この作品、1992年の作品というから、驚かされる。今でこそ、パソコンがあれば何でもできる時代だが、四半世紀ほども前に、縦横無尽にコンピューターを繰って、こういう音楽を生み出していたとは... また、それを実現するプログラミングの知識、技術を持ち得ていた作曲家に、感心させられるばかり。
続く、「私の好きなコルトレーンのもの」(track.2)は、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロによる作品で、「東の唄」からは一気に西へと舵を切り、また古楽器のアルカイックな響きが、清廉でキラキラとしていて、美しい。しかし、そこは三輪作品、単に古楽風であるわけがなく... 『サウンド・オブ・ミュージック』の「私の好きなもの」と、コルトレーンの演奏によるジャズ・アレンジの「私の好きなもの」にインスパイアされての音楽で、アルス・アンティカあたりの朴訥とした表情を見せた音楽が、次第にスウィングして来て、おもしろい。最後は、ピアノとアンサンブル、コンピューターによる「東のクリステ」(track.3)。7人の音楽家による演奏が、演奏中に録音され、再生され、それがまた録音され、さらに、日本の民謡や、電話越しに歌われたというグレゴリオ聖歌などのサンプリングが重ねられ、思い掛けない広がりを聴かせる。それは、「記憶の構造」がイメージされている... とのことだが、演奏と録音が錯綜し、狐に抓まれたような不思議さもあり、ファンタジック。それでいて、感傷的... って、まったく魔法のよう。いや、改めて聴く三輪作品は、おもしろい。聴こえて来るサウンドと、それを構築するマニアックなシステム。この兼ね合いが、独特な三輪ワールドを創出し、聴く者を惹き込む。

三輪眞弘 東 の 唄

三輪眞弘 : 2台のピアノとひとりのピアニストのための 「東の唄」 *
三輪眞弘 : ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのための 「私の好きなコルトレーンのもの」 **
三輪眞弘 : ピアノ、アンサンブルとコンピューターのための 「東のクリステ」 **

高橋アキ(ピアノ) *
西谷尚己(ヴィオラ・ダ・ガンバ) *
盤若美和子(チェンバロ) *
ジェームス・エヴリー/アンサンブル・スールプラス *
スヴェン・トーマス・キーブラー(ピアノ) *

fontec/FOCD 3425




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