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"PERSPECTIVES FROM VIENNA"、織り成されるウィーン... [before 2005]

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えーっと、今月は、クラシックの"東"。そんな感じで、ハプスブルク帝国の首都、ウィーンに注目しております。音楽の都、「ウィーン」ではなくて、エスターライヒ=東の王国の首都としてのウィーン... てか、東の王国?日本では、ほとんど知られてない、オーストリアの正式名、エスターライヒ=東の王国... なのですよ... でもって、この東の王国の首都が、普段はクラシックの中心として認識されているわけです。つまり、ウィーンを都とするクラシックは、東にズレている?!そんな視点を持つと、また違った風景が見えて来るのかも... いや、変な話し、"音楽の都"というレッテルが、ウィーン本来の独特な魅力を殺しているのかも... つまり"東"の魅力...
そんな"東"の魅力をサルヴェージする、魔法のアレンジ?クリストフ・フォン・ドホナーニの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、マーラーの編曲による、弦楽オーケストラ版、ベートーヴェンの11番の弦楽四重奏曲、「セリオーソ」と、シェーンベルクの編曲による、オーケストラ版、ブラームスの1番のピアノ四重奏曲(DECCA/452 050-2)を聴く。

マーラーが、ウィーンの宮廷歌劇場(現国立歌劇場)の芸術監督に就任して2年が経った1899年、ウィーン・フィルの演奏会のために、弦楽オーケストラ用に編曲したベートーヴェンの11番の弦楽四重奏曲、「セリオーソ」(track.1-4)。シェーンベルクがアメリカに亡命して4年後、1937年に、作品への愛着から編曲された、フル・オーケストラによる、ブラームスの1番のピアノ四重奏曲(track.5-8)。という、2つのアレンジ... 何と言っても、室内楽をオーケストラで聴くというケミストリー!一気に色彩が増えたそのサウンドにワクワクさせられる。のだけれど、よくよく見つめれば、単にワクワクするばかりでない、巧妙な仕掛けがこのアルバムにはある。例えば、マーラーとシェーンベルクの師弟関係... マーラーが至らしめたロマン主義の飽和状態と、その先で破壊(12音技法の発明!)に及んだシェーンベルク... その破壊者も、若い頃には、最も構築的だったブラームスに心酔し、1番のピアノ四重奏曲のオーケストレーションは、そうした記憶から生まれたものであり... そのブラームスは、ベートーヴェンの継承者という自負があり、ロマン主義の最盛期に、古典主義への回帰で独自の地位を築いたが、一方で、ハンガリー舞曲に代表される、"東"に彩られた作品も残し、ブラームスという作曲家を特徴付けている。そういうエスニックさでは、マーラーのユダヤ性は見逃せない。そして、シェーンベルクもまたユダヤ人... つまり、ユダヤ性を以ってして、ドイツ生まれの偉大なる"B"の音楽がアレンジされるのだから、大胆というか、毒づいているようで... それがまた、よりウィーンに聴こえるから、おもしろい。"東"のウィーンの濃密さ、煌びやかさに酔わされる。
ということで、マーラー版、「セリオーソ」(track.1-4)から... 弦楽四重奏を弦楽オーケストラに拡大する作業は、それほど大きな改変ではないはず。マーラーは、コントラバスを足して、低音の補強をしているくらい。が、聴こえて来るサウンドは、明らかに違うからおもしろい!例えば、1楽章の劇的な始まり以降、ドラマティックなあたりにはシューベルトを感じ、しっかりとロマンティック。終楽章(track.4)のセンチメンタルさには、ブラームスを見出し、ブラームスが継承したものに納得させられる。それでいて、2楽章(track.2)の裏寂しいような不安げな表情にはショスタコーヴィチの姿が浮かび、そこはかとなしに20世紀の臭いが漂うのか... マーラーという触媒を用いることで、ベートーヴェンが如何に後の音楽の軌範となっていたかが強調されるよう。一方で、マーラーならではの豊潤なサウンドがそこかしこから溢れ出し... このアレンジの初演では、楽聖を汚したと批判されたらしいが、わからなくもない。けれど、それくらい踏み込んでこそ得られるケミストリーは間違いなくある。で、それを大胆にやり切ったのが、シェーンベルク版、ピアノ四重奏曲(track.5-8)。渋くも魅惑的であったピアノ四重奏曲が、様々なパーカッションで飾られて、ここぞという盛り上がりではブラスが華やかに吹かれ、何だか凄いことになっている!ブラームスらしさをベースにしながらも、装飾的で、東方的とでも言おうか... まるで、東欧製の似非ブラームス。なんて言ったら、叱られるかもしれないけれど... しかし、これが、どうしようもなく魅力的。例えば、終楽章(track.8)!場末のサーカス小屋に迷い込んでしまったような、キッチュとグロテスク。12音技法とは異なる形で、破壊を試みるシェーンベルク... いや、オリジナルとは違う次元で、まったく新しい音楽を響かせてしまう。
そんな2つのアレンジを並べたドホナーニ。まず、そのセンスが光る!そして、このマエストロらしい整理されたハーモニーが印象的。でありながら、ウィーン・フィルならではの豊潤さも広がり、名門オーケストラの伝統の重みが絶妙に活きる!特に、マーラーのアレンジでの弦楽オーケストラの響きの瑞々しさと深みは、真骨頂。一方、シェーンベルクのアレンジでは、ドホナーニのドライヴがしっかりと効いて、ヤリ過ぎ感を巧みにかわし、珍奇さをセンスよく繰り出す。すると、アレンジャーの感性が、思いの外、引き立ち、アレンジによるケミストリーはより際立ったものになるのか... そうしてウィーンは煮詰められて、立ち上るウィーンの薫りに酔わされる。いや、こんな風に酔わせてくれる都市、他にあるだろうか?なんて考えると、やっぱりウィーンは特別なのかも... そんなウィーンの魔法が籠められた1枚には、単に2つのアレンジが並ぶ以上の、音楽史的、文化的広がりが見えて来る。つまり、広がりを持った都市、ウィーンなのだなと...

PERSPECTIVES FROM VIENNA
Christoph von Dohnányi/Wiener Philharmoniker


ベートーヴェン/マーラー : 弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 Op.95 「セリオーソ」 〔弦楽オーケストラ版〕
ブラームス/シェーンベルク : ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25 〔オーケストラ版〕

クリストフ・フォン・ドホナーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

DECCA/452 050-2




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