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東方のマジカル... ビザンティンの歌... [before 2005]

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10月になりました。すっかり天高くなった、穏やかな空を見上げていると、穏やかならざる世の中、世界を、ほんのひと時、忘れられるような... さて、中東欧の国民楽派を巡って来た、先月、巡ってみて、音楽から中東欧のただならなさを思い知らされる。何と言うか、それはちょっとやそっとじゃ読み解けない世界... 読み解けないものだから、ドラキュラとか狼男とか、より不可思議なものが出現してしまう、ある意味、想像に長けた世界でもあって... 西欧のように、明解に処理できない複雑さ、交雑さを持つからこその、ただならぬ奥深さは、見つめれば見つめるほど、魅入られるようで、惹き込まれる。で、ふと思う。純粋であるところからは、クリエイティヴィティは生み出されないのではないか?例えば、ハンガリーを代表する作曲家たちが、現在ではハンガリー領ではない、かつてのハンガリーの辺境、より多文化的な環境の中で生まれ育ったことが、とても興味深く思える。
ということで、スカルコッタスの36のギリシャ舞曲に続いてのギリシャ。国民楽派から時代を遡って、より多文化的な奥深さ... いや、底知れなさを感じさせるビザンツ聖歌... 東方教会の聖歌のスペシャリスト、シスター・マリー・キーロウズによる、"CHANT BYZANTIN ・ PASSION ET RESURRECTION"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901315)を聴く。

シスター・マリー・キーロウズ。改めてこの人のことを見つめると、普段のクラシックからはちょっと読み解けないものがある。ペレス率いるアンサンブル・オルガヌムに参加していたこともあって、古楽畑の人。ではあるのだけれど、その東方的... ズバリ、アラベスクな歌声は、ワールド・ミュージックの範疇か。一方で、宗教人としての立場があり、古楽の歌手としても、ワールド・ミュージックの歌手としても、当然、制約が出て来る。けれど、聖歌に関しては、誰よりも自由に東方教会の様々な聖歌を歌いこなしてしまう。レバノン出身、マロン派(カトリックの傘下にありながら、典礼にアラビア語を用いるなど、よりコアな東方教会に通じる部分も... )のシスターという、まさに西と東が混在する教会の一員であることが、シスター・マリー・キーロウズの歌う世界に広がりをもたらしているように思う。そんな、シスター・マリー・キーロウズが歌う、ビザンティンは、濃密に東方的。
サン・ジュリアン・ル・パーヴル教会聖歌隊が歌う、東方教会ならではのドローンの低音が響き始めた瞬間、目の前の日常は消え去り、そこに、シスター・マリー・キーロウズのメリスマを効かせたアラベスクな歌声が乗っかると、遠い遠いオリエントに連れ去られてしまうような、ただならないトリップ感を味わう。で、アラベスクも何も、始まりのアレルヤはアラビア語で歌われており、西欧の教会音楽とは、まったく異なる世界が繰り広げられる。いや、始まりばかりでなく、ギリシャ語で歌われるよりもアラビア語で歌われるナンバーが多く、"ビザンツ聖歌"というよりは、汎東方教会のアンソロジーと捉えるべきか?アラビア語とギリシャ語による聖歌を並列させながら、キリストの受難から復活までを歌い綴る"CHANT BYZANTIN ・ PASSION ET RESURRECTION(ビザンティンの歌、受難と復活)"。アラビア語とギリシャ語が違和感なく寄り添う姿が、何ともミステリアス...
ギリシャというと、ヨーロッパ文明の原点というイメージが強く、東方的なギリシャは、意外というか、受け入れ難いものすらあるのかもしれない。しかし、歴史は違う。アレクサンドロス大王の東方遠征により、広くオリエントに広まったヘレニズム(文化におけるギリシア風のスタイル... )。ある意味、古代ギリシアの伝統をより色濃く受け継いだのは、西欧ではなくオリエント、後のイスラム世界かもしれない(そもそも古代ギリシアの文化は、古代オリエントから大きな影響を受けているわけで... )。ならば、アラベスク(オリエント)と、ビザンティン(ギリシャ)の親和性は、意外でも何でもなく、至極、真っ当なことなのかも。そして、シスター・マリー・キーロウズのアラベスクな歌声と、サン・ジュリアン・ル・パーヴル教会聖歌隊のビザンティンなドローンが織り成すナチュラルな佇まいは、ヘレニズムの再構築か?安易な東西の線引きでは得られない、混交の歴史がここに生々しく聴こえて来るのだろう。そして、これこそが、キリスト教を生み育んだ東方世界のリアルに思えて来る。
しかし、シスター・マリー・キーロウズの艶やかな歌声が、ただならない... アラビア語の少し悩ましげな響きも相俟って、仄暗くミステリアスなドローンを背景に、ゾクっとするほど魅惑的な聖歌を紡ぎ出す。で、魅惑的なのだけれど、穏やかでもあって、何よりやさしく、温もりを感じ... そんな歌声に包まれると、癒される。それも、単に癒されるのではなく、実際に病気が治ってしまいそうなマジカルさがあって... サン・ジュリアン・ル・パーヴル教会聖歌隊によるドローンも渋く、深く、シスターのマジカルさを増幅するかのよう。何だろう、この不思議さ。パワー・ヴォイスとか言いたくなってしまう。西欧の壮麗な教会を飾る華麗なる教会音楽とは違う、祈りそのものが濃縮されたような音楽の在り様に圧倒される。

CHANT BYZANTIN/SŒUR MARIE KEYROUZ

アレルヤ
見よ、夜中の花婿が
主よ、あなたの花嫁の寝室を
主よ、多くの罪を犯した女が
畏怖すべきあなたの晩餐の交わり
主は私のところに
今日、海に大地を支えるキリストは
生命であるキリストよ
恩寵溢れる女よ
キリストは蘇られた
キリストにおいて洗礼を受けたものは
天使はマリアに呼びかけます

マリー・キーロウズ修道女(ヴォーカル)
サン・ジュリアン・ル・パーヴル教会聖歌隊

harmonia mundi FRANCE/HMC 901315




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