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スカルコッタスの帰郷... ありのままのギリシャ... [before 2005]

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チェコに始まり、ハンガリー、そしてルーマニアと、中東欧を巡って来た今月... いやー、改めて見つめる中東欧って、ただならない!どうも、西欧に対して遅れを取ったイメージもある中東欧だけれど、この地域の持つ奥深さは、西欧には無いもののように思う。ある意味、奥深過ぎて、遅れを取ってしまうのか?何と言うか、西欧は「西欧」として割り切れる世界。に対しての中東欧は、「中東欧」だけでは説明のつかない複雑さ、交雑さを持っていて、そういうところから放たれる魅力というものを、我々は、今一度、見つめ直さなくてはいけない気がする。ダイレクトにアジアと接触したヨーロッパ、中東欧... そうして、度々、生み出される混沌が、ある種の解放区を作り出すこともあり、ユダヤ文化やロマ文化が大きく成長し、また新たなテイストを中東欧にもたらす。その歴史は、けして明るいばかりでは無かったけれど、多文化が生み出す可能性は、やっぱり大きいなと...
さて、中東欧を巡る、その最後に、バルカン半島を南下して、その南端、やはり多文化が織り成した、近代ギリシャへと向かう。ニコス・クリストドゥルの指揮、BBC交響楽団の演奏で、20世紀、ギリシャを代表する作曲家のひとり、シェーンベルク門下、スカルコッタスの、モダニストではなく、国民楽派としての作品、36のギリシャ舞曲、2枚組(BIS/BIS CD 1333)を聴く。

ニコス・スカルコッタス(1904-49)。
ギリシャ、エウボイア島の、貧しい音楽家の家に生まれたスカルコッタス。5歳の時に父親からヴァイオリンを習い始め、その才能は程なく開花。一家はアテネに移り、10歳にしてアテネ音楽院に入学。ヴァイオリニストとして本格的に学び始め、1920年には首席で卒業。翌年、奨学金を得てベルリンに留学。ベルリンでは作曲も学び始め、シェーンベルクに師事、12音技法を身につけ、近代音楽が最も輝かしかった頃、その最先端を行く。が、やがてナチズムが幅を利かせ、ベルリンの自由な空気が失われる中、スカルコッタスは経済的に困窮するようになり、精神的にも追い詰められ、1933年、ギリシャへと帰国。しかし、保守的なアテネの楽壇に、ベルリン仕込みの先端的な音楽は受け入られることは無く、スカルコッタスは、アテネのオーケストラのヴァイオリン奏者などをして生計を立てることに... そうした中、民俗音楽に触れる機会を持ったスカルコッタスは、ギリシャのフォークロワを基に、ここで聴く36のギリシャ舞曲(12曲をひとつのシリーズとし、3シリーズから成り、帰国してから、その死の年まで取り組んだ、晩年の代表作... )を作曲。12音技法を離れ、国民楽派としての一面も残した。
それにしても、36曲とは!ブラームスのハンガリー舞曲、21曲、ドヴォルザークのスラヴ舞曲、16曲と比べると、その数の多さに驚かされる。で、ギリシャには36曲もあるのか?なんて思ってしまうのだけれど、いやいやいや、これまた驚くべき多彩さを聴かせる36曲で、ギリシャは侮れない... バルカン半島の南端もまた、民族、文化が行き交った地。さらにギリシャの場合、その先に海が開けている!陸路と海路が結ばれる文明の十字路、ギリシャの音楽は、ハンガリーやルーマニア以上に、より広い世界のセンスが取り込まれているよう。第1シリーズ、3番、エピロティコス(disc.1, track.3)の力強くオリエンタルなトーンは、ユダヤ風のようにも感じられるし、ブラームスのハンガリー舞曲を思い起こさせるところも、第1シリーズ、10番、マケドニコス(disc.1, track.10)は、バルトークの民謡収集から生まれたようなトーンがあって、バルカンの北との地続きの音楽を意識させられる。一方で、第2シリーズ、1番、シルトス(disc.1, track.13)は、アラベスク!そのエキゾティックさに、すっかり魅了されてしまうのだけれど、シルトスは古代ギリシアに端を発する、ギリシャにおけるベーシックな民俗舞曲らしい... ということから考えるに、アラベスクは、実はヘレニスティックなのかも?多層的なオリエント世界の一端を担ったかつての古代ギリシア、中世、ビザンチン文化の名残りを感じるところだろうか、まったく以って興味深い。
もちろん、ギリシャらしさを感じる音楽も... とはいえ、ギリシャを良く知らずして、何を以ってギリシャらしさと言うべきか判断しかねるのだけれど、例えば、テオドラキスの映画音楽のような人懐っこいテイスト... 第2シリーズ、3番、クリティコス(disc.1, track.15)のキャッチーさ、4番、ニシオティコス(disc.1, track.16)のメローなあたり、第3シリーズ、3番、クレフティコス(disc.2, track.3)のチャキチャキとしたテンポの良さ、などなど、それらは、ちょっと懐かしい場末感を漂わせ、サーカスの音楽をイメージさせるような屈託の無さと、何とも言えないくたびれた感じが魅惑的。それは、12音技法を駆使して、20世紀の最先端を走っていた頃からは考えられない姿だったかもしれないが、夢破れての帰郷... からの、ギリシャの素の表情を捉える音楽の、少し情けなくも、温もりを感じるサウンドには、今に至るギリシャのダメっぷりも反映されているようで、それがまたとても人間臭く感じられ、どうしようもなく愛おしい!スカルコッタスの人生も含め、これがギリシャなのだなと...
また、そんな風に思わせてくれる、ギリシャ出身のクリストドゥルの指揮。スカルコッタスのスペシャリストであるクリストドゥル... 12音技法を駆使する作品では、冴えた演奏を展開した一方で、36のギリシャ舞曲では、ありのままを響かせて、ギリシャそのものの姿を浮かび上がらせるようでおもしろい。それを際立たせるのが、かつてのスタイルを取り戻すかのような、序曲「オデュッセウスの帰郷」(disc.2, track.13)。モダニスティックな音楽を丁寧に鋭く捉えて、36のギリシャ舞曲と絶妙なコントラストを描き出す。BBC響も、どっぷりギリシャに浸かれば、鮮やかにモダンにも切り返し、器用さを発揮。巨視的なギリシャ像と、スカルコッタスの鋭敏な感性を巧みに捉えて、絶妙な仕事ぶりを聴かせてくれる。

Nikos Skalkottas: 36 Greek Dances; The Return of Ulysses
BBC Symphony Orchestra / Nikos Christodoulou


スカルコッタス : 36のギリシャ舞曲
スカルコッタス : 序曲 「オデュッセウスの帰郷」
スカルコッタス : 差し替え用 第2シリーズ 第8番 キオティコス
スカルコッタス : 差し替え用 第2シリーズ 第9番 ツァミコス
スカルコッタス : 差し替え用 第3シリーズ 第6番 マケドニコス

ニコス・クリストドゥル/BBC交響楽団

BIS/BIS-CD-1333




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