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民謡を拾い集めて、新たな次元へジャンプ!バルトーク。 [before 2005]

えーっ、突然ですが、あまり馴染みの無い、ハンガリーの歴史をざっくり辿ります。
元々、ハンガリーの地に住んでいたのはパンノニ族という人々だったらしい。彼らは古代ローマの支配下に置かれるも(紀元前1世紀末)、その属州、パンノニアは、農業が盛んとなり、豊かに... が、ローマ帝国が東西に分裂(395)し、その支配が揺らぐと、フン族がやって来て(4世紀末)、ゲルマン民族が続々と通過し、定住する部族(5世紀)も... それらを駆逐したアヴァール人が遊牧国家を築き(568-796)、スラヴ人も進出して、モラヴィア王国(9世紀)が取って代わり、アジア系、ヨーロッパ系、様々な民族が目まぐるしく興亡した後で、マジャール人が登場(10世紀)。ハンガリーは、このマジャール人によって建国される。そうして生まれたハンガリー、中世期にはアンジュー朝(1308-95)の下、ポーランドと連合(1370-82)し、さらにルネサンス期、マーチャーシュ王(1458-90)の時代には、バルカンの盟主として権勢を誇った。が、間もなくオスマン・トルコの侵攻に抗し切れず、モハーチの戦い(1526)に敗れ、広大な王国は3分割(オーストリア領、オスマン・トルコ領、オスマン・トルコの影響下に置かれたトランシルヴァニア... )され、王位はハプスブルク家へと渡り、独立を失ってしまう。
というハンガリーの歴史を見つめると、様々な民族が行き交い、それに伴い積み重なった文化の地層の厚さに、クラクラしてしまう。が、その地層に対して、まるで発掘でもするかのように、自らの足で、民謡の収集に歩いたバルトーク。素朴な民謡から真新しい音楽を切り出して... それはもう「国民楽派」という漠然とした枠組みを越え、さらなる次元にジャンプした音楽であって... そんなバルトークを、イヴァン・フィッシャー率いる、ブダペスト祝祭管弦楽団の演奏で、管弦楽のための協奏曲(PHILIPS/456 575-2)と、バレエ『中国の不思議な役人』(PHILIPS/454 430-2)の2タイトルを聴く。


田舎を歩く、"ワクワク"の思い出、管弦楽のための協奏曲。

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まずは、管弦楽のための協奏曲(track.4-8)のアルバムから... で、その始まりは、バルトークの民謡収集の成果が、わかり易く形になった3つの村の風景(track.1-3)。女声コーラスが表情豊かに民謡を歌い、オーケストラが村の風景を描き出す。忙しなかったり、寂しげだったり、野趣に富んだメロディー、リズムに彩られて、ちょっとオペラのワン・シーンのようでもあるのが、おもしろい。バルトークの歩いた田舎は、こんな感じだったのかな?民謡収録のための録音機材を担いで、都会から離れた地方を行くのは大変だったはず... けれど、そこから得られる発見には、ワクワクさせられたのだろう。そんなバルトークのワクワクが伝わって来る。
そうして得られた収穫を、集大成として編み上げたのが、管弦楽のための協奏曲(track.4-8)。今、改めて、田舎をワクワクしながら歩いていたバルトークの姿を思い浮かべながら聴いてみると、彼が拾い集めた様々な素材を感じられて、より息衝くものを覚える。民謡を西欧のアカデミズムに乗せるのではなく、民謡のプリミティヴな法則で、西欧のアカデミックな音楽を作曲したならば... バルトークの音楽の神髄がそこにあって、近代音楽への飛躍が生まれ、管弦楽のための協奏曲は、20世紀を代表するオーケストラ作品のひとつとして定番なわけだけれど、バルトークにとっては、馴染み深い田舎のメロディーに、リズムを、自由闊達に編み、ワクワクしながら作曲したのではないだろうか?ハンガリーのナチス化を嫌い、アメリカへと移住(1939)してからの、1944年に作曲された死の前年の作品。だからだろうか、田舎を歩いた若かりし頃の記憶が、まるで走馬灯のように流れてゆくような、そんなイメージがある。若々しく、鮮烈な音楽は、どこかで死を悟っていたからこそのもの?結局、バルトークは故郷へ帰ることはなかったが、その脳裏には瑞々しく田舎の風景があったのかもしれない...
そんな風に思ってしまうのは、やっぱりチーム・ハンガリー、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管の演奏が大きいのかもしれない。この作品が持つ近代音楽の印象がやわらかくなり、思いの外、フォークロワな臭いが立ち上がって、魅惑的!管弦楽のための協奏曲の、そのコンチェルトな性格が、ブダペスト祝祭管の腕利きなあたりを強調し、そうして発せられる特有の癖が、ぱぁーっと花開き、まさにバルトークが歩いた田舎が次々と展開されるよう。イヴァン・フィッシャーは、バルトークがしたように、管弦楽のための協奏曲という作品の中を歩いて民謡を拾い集めている?いや、それこそが、故郷に帰ることのなかったバルトークの思い?「ハンガリー」が際立つことで、不思議とセンチメンタルも広がる。

Bartók: Concerto for Orchestra
Budapest Festival Orchestra ・ Iván Fischer


バルトーク : 3つの村の風景 Sz.79 *
バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 Sz.116
バルトーク : 交響詩 「コシュート」 Sz.21

イヴァン・フィッシャー/ブダペスト祝祭管弦楽団
SLUKスロヴァキア民俗アンサンブル合唱団(女声) *

PHILIPS/456 575-2




フォークロワが呼ぶ闇の魅惑、バレエ『不思議な中国の役人』。

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そして、バレエ『中国の不思議な役人』(track.19-29)のアルバムへ... で、バレエの前には、バルトークが収集した民謡に基づくオーケストラ作品、5曲が並ぶのだけれど... そこで気になるのが、ハンガリー以外の地域の民謡を素材とした作品。バルトーク作品の中でも、特にキャッチーで、お馴染みの、ルーマニア民俗舞曲(track.8-14)。もうひとつ、ルーマニアから、ルーマニア舞曲(track.18)。そして、現在はルーマニア領となっている、かつてのハンガリー東部から、トランシルヴァニア舞曲(track.15-17)。今となってはちょっと不思議な感じがするのだけれど、第1次大戦の終結まで、ハンガリーは多民族国家であった史実。中世以来の伝統的なハンガリーの領域は、カルパティア山脈の内側、そこにはスロヴァキアが丸々含まれ、ルーマニアの3分の1と、ウクライナの一部も含み、クロアチアとは1102年以来、同君主連合を結び、ハンガリー王国を成していた。そうした中、バルトークは、王国内の全ての民族に関心を示し、民謡を収集。コダーイが徹底してハンガリーと向き合ったのに対し、バルトークはより広い世界を見つめていたわけだ。そして、このハンガリーの多民族性が、バルトークの音楽にさらなるスパイスを効かせることに... 様々な民俗音楽に触れ得る環境が、さらなる興味を掻き立て、民謡収集のフィールドワークは、やがて王国の枠を越えて、バルカンを南下し、トルコや北アフリカにまで及ぶ...
ということを意識して、バレエ『中国の不思議な役人』(track.19-29)を聴いてみると、何か腑に落ちるものがある。この作品は「中国」というだけに、エキゾティック。だけれど、中華風かというと、どうだろう?まあ、ヨーロッパにおける東アジアのイメージなど、この程度の認識なのだろう... なんて思っていたのだけれど、改めて、ハンガリーに留まらなかった民俗音楽研究家、バルトークの音楽として聴いてみると、そこには極めて多国籍なサウンドが蠢いていて、刺激的!「中国」に焦点を絞らずに、あえて様々なフォークロワを闇鍋的に混ぜ込んで、独特の妖しさを醸し出す妙。各地でスキャンダルを巻き起こした、このバレエの気色悪さ(美人局が少女を使い、中国の役人を引っ掛け、情事の最中に殺して金品を奪う... が、死なない!少女はゾンビと行為を続けるはめに... って、エログロ・ホラーやんけ!)を、見事に引き出している。いやもう、悪魔的... 西欧のアカデミズムではなく、民俗音楽から発するからこそ、本物の闇が浮かび上がるのか... で、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管だからこそ、民俗音楽から発する闇が息衝く!力強く、艶めかしく、それでいて、不可解でもある、底なしの闇の、何と魅惑的なこと!思い掛けないバルトークのダークサイド?

BARTÓK: THE MIRACULOUS MANDARIN ・ HUNGARIAN SKETCHES
IVÁN FISCHER ・ BUDAPEST FESTIVAL ORCHESTRA


バルトーク : ハンガリーの農民の歌 Sz.100
バルトーク : ハンガリーのスケッチ Sz.97
バルトーク : ルーマニア民俗舞曲 Sz.68
バルトーク : トランシルヴァニア舞曲 Sz.96
バルトーク : ルーマニア舞曲 Sz.47a
バルトーク : バレエ 『中国の不思議な役人』 Op.19 Sz.73 *

イヴァン・フィッシャー/ブダペスト祝祭管弦楽団
ハンガリー放送合唱団 *

PHILIPS/454 430-2




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