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民謡を拾い集めて、「ハンガリー」を紡ぐ、コダーイ。 [before 2005]

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9月は、中東欧の国民楽派を巡る... で、チェコに始まって、『魔弾の射手』でドイツに寄り道してからの、ハンガリー!そして、この「ハンガリー」というのが、なかなか興味深い。その民族性をクローズアップする国民楽派の音楽を聴けば、よりこの国の独特なテイストを目の当たりにさせられ、刺激的。いや、ハンガリーにおける国民楽派は、より深くフォークロワを探り、自らのアイデンティティを鋭く模索するようなところがあって、凄い。だからか、他とは違う独特の深度をハンガリーの国民楽派から感じる。裏を返せば、なぜそれほどまでに自らを見つめようとしたのか?スラヴ系が多数となる中東欧に在って、異なるルーツを持つハンガリーの孤独?そうなるに至った、一筋縄には行かないハンガリーの歴史が綾なす独特なテイストを、今、改めて、見つめて...
イヴァン・フィッシャー率いる、ブダペスト祝祭管弦楽団による、ハンガリーの国民楽派、コダーイの、その代表作、ガランタ舞曲、『ハーリ・ヤーノシュ』とともに、民謡の収集から生まれた合唱作品も取り上げる興味深いアルバム(PHILIPS/462 824-2)を聴く。

クラシックにおいて、「ハンガリー」といえば、リストのハンガリー狂詩曲か、ブラームスのハンガリー舞曲。だが、リストにしろ、ブラームスにしろ、西欧から見つめたハンガリーは、ジプシー音楽との混同もありつつ、エキゾティシズムに彩られ、本当のハンガリーを捉えるまでには至らなかった。ならば、本当のハンガリーとは何か?ハンガリーの歴史は、まるで地層が堆積するように、様々な文化や民族が折り重なって成り立っている。その地層にしっかりと向き合い、真にハンガリーと言えるフォークロワを求めたハンガリーの作曲家たち... バルトーク(1881-1945)や、ここで聴くコダーイ(1882-1967)など、いわゆるクラシックの作曲家たちが、国民楽派というレベルを越えて、民俗音楽そのものの研究に没頭したことは、他の中東欧の国民楽派には無い深化をハンガリーの音楽にもたらし、独特な感性が育まれることに... また、西欧的なアカデミズムから抜け出す手段としてフォークロワを巧みに用い、近代音楽を派生させたハンガリーの音楽の興味深さも... 非近代的な素材から近代を派生させるという驚くべきケミストリー!現代音楽の時代に至ってなお、ハンガリーから個性的な逸材を生み出し続けている源には、バルトークやコダーイらの取り組みがあるのだろう。で、本題、コダーイを聴くのだけれど...
単なる作品集としてではなく、コダーイの音楽の芯の部分、民俗音楽の研究をもすくい上げ、その成果としての代表作を見つめるイヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管。エキゾティックなガランタ舞曲(track.1)に、『ハーリ・ヤーノシュ』組曲(track.11-16)の楽しい音楽、という、コダーイのわかり易いイメージではなく、コダーイそのものを徹底して捉えようとする本気度というか、気合いの入れようが凄い。それを象徴する、こどもたちが歌う、コダーイが採譜し合唱曲に仕立てた「踊り歌」(track.2)、「聖ゲルゲイの祝日の巡礼」(track.4)、「ジプシーはカッテージチーズを食べる」(track.10)の3曲... この素朴で軽やかなメロディーに触れると、『ハーリ・ヤーノシュ』の軽妙さが腑に落ち、コダーイのインスピレーションの源というものを強く意識させられる。またそれらが絶妙にオーケストラ作品に挿し挟まれ、フォークロワとアカデミズムが共鳴し合い、ハンガリーの音楽の独特さを際立たせつつ、コダーイという作曲家を立体的に、より深みを以って響かせていて感心させられる。いや、これが、チーム・ハンガリー、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管の、自国が誇る作曲家への愛なのだろう。ハンガリー人が格好を付けずに真摯にハンガリーと向き合って生まれたのがコダーイの音楽であって。それをまた、確信を以って鮮やかにローカル性を繰り出す、チーム・ハンガリーのサウンドの濃密さ、本物感。何て魅惑的な!
ハンガリーの魅力は、偽らざるハンガリーの素の表情。西欧のような洗練や、お洒落感は薄くなろうが気にしない。それどころか、多少、泥臭くなって、とにかくハンガリーであることを前面に押し出して来るイヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管の演奏。ワールド・ミュージックにカテゴライズされてもいいのでは?くらいに思えてしまうほどのローカル性があってこそ、俄然、息衝く、フォークロワに裏打ちされたコダーイの音楽。際立つ個性を、さらに解像度を上げて際立たせる彼らのサウンド... それらが嫌味にならないというのも驚くべきことで、そこにはイヴァン・フィッシャーの絶妙なバランス感覚、ブダペスト祝祭管の上手さが光る。たっぷりとフォークロワの気分を引き入れながらも、すっきりとしたハーモニーを作り出し、その細部ではキレ味の鋭さを見せて。だからこそローカルな表情が活きて、垢抜けない格好の悪さを味にしてしまう。いや、カッコよさにしてしまう!そんな、イヴァン・フィッシャー+ブダペスト祝祭管によるコダーイは、その核心をしっかりと掴めている分、ただならない揺ぎ無さがあり、その雄弁な姿を目の当たりにすると、もはやクラシックとか、民族音楽とか関係なく、ただただ音楽としてのすばらしさを噛み締めることに... 何だかとても心豊かな心地に...

KODÁLY ・ "HÁRY JÁNOS" SUITE ・ FISCHER

コダーイ : ガランタ舞曲
コダーイ : 踊り歌 *
コダーイ : マロシュセーク舞曲
コダーイ : 聖ゲルゲイの祝日の巡礼 *
コダーイ : オペラ 『ハーリ・ヤーノシュ』 からの管弦楽曲
コダーイ : ジプシーはカッテージチーズを食べる *
コダーイ : 組曲 『ハーリ・ヤーノシュ』

イヴァン・フィッシャー/ブダペスト祝祭管弦楽団
ブダペスト・エルケル・フェレンツ小中学校児童合唱団マニフィカト *
ケチュメート・ゾルターン・コダーイ小学校児童合唱団ミラクルム *

PHILIPS/462 824-2




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