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国民楽派?国民オペラ!ドイツ・ロマン主義、始まる。 [before 2005]

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民族色豊かな国民楽派の音楽だけれど、そのベースにはドイツ・ロマン主義がある。スメタナドヴォルザークと聴いて来て、改めてそう強く認識することに... で、ふと思う。ドイツ・ロマン主義もまた、国民楽派なのでは?18世紀、汎ヨーロッパであった古典主義に対して、19世紀、自らを主張したドイツ・ロマン主義。それは、民族的なムーヴメントであったように感じる(もちろん、そればかりではないのだけれど... )。音楽史を振り返った時、ドイツ語圏の音楽というのは、常にローカルな位置に置かれ、他国の影響を強く受けて来た。が、19世紀に入り、自らを肯定し... つまり、民族主義を打ち出すことで、音楽史にまったく新たな展開を巻き起こす。それどころか、メインストリームへと大躍進を遂げて... メインストリームとなったことで、その民族性は薄れてしまった?あるいは、隠されてしまった?いや、ここで、ひとつ、国民楽派として、ドイツ・ロマン主義を見つめたら...
ブルーノ・ヴァイルの指揮、カペラ・コロニエンシスの演奏、WDR放送合唱団のコーラス、クリストフ・プレガルディエン(テノール)を主役に、ドイツ・ロマン主義の幕開けを告げる記念碑的作品、ウェーバーのオペラ『魔弾の射手』(deutsche harmonia mundi/05472 77536 2)を聴く。その民族性に注目しながら、国民楽派として... って、かなり強引?意外と的を射てる?

幕開けの序曲から、そのロマンティックな雰囲気にすっかり惹き付けられ、オカルトなストーリーにドキドキし、狩人の合唱(disc.2, track.11)でワクワクして... ウェーバーの代表作、『魔弾の射手』は、まさにオペラの定番だ。だからだろうか、普段、あまりに何気なく捉えてしまっているのかもしれない。しかし、改めて音楽史から『魔弾の射手』を見つめれば、その重要性に気付かされる。1821年、ベルリンで初演された『魔弾の射手』は、ドイツ語によるオペラ、ジングシュピール(歌芝居)の伝統に則りながら、ドイツの民話を題材(舞台は、ボヘミアではあるのだけれど... )に、ドイツのフォークロワも盛り込み、臆することなくドイツのローカル性を前面に打ち出し、大成功。それまでのオペラが、インターナショナルな人気を獲得して来たナポリ楽派、その伝統を受け継ぐイタリア、ベルカント・オペラをスタンダードとして来たのに対し、鮮やかにそれをひっくり返したウェーバー... ドイツにおけるオペラ上演、ドイツ独自のオペラの模索は17世紀後半にまで遡るものの、『魔弾の射手』ほど開けっ広げに民族性を打ち出せたオペラは画期的であり、またその民族性からドイツ・ロマン主義を精製し、堂々たる音楽を繰り出せたことは快挙だったと思う。ある意味、『魔弾の射手』は、音楽史におけるコロンブスの卵だったか...
という、エポック・メーキングなオペラを、ヴァイルの指揮、ドイツの老舗、ピリオド・オーケストラ、カペラ・コロニエンシスで聴くのだけれど、これがなかなか興味深い。ヴァイルの指揮は、いつもながら実直で、ピリオド楽器のサウンドを丁寧にまとめ上げ、じっくりと物語を紡ぎ出す。すると、『魔弾の射手』に籠められた民族性が煮出されるような感覚があって、ピリオドならではのトーンに、フォークロワなトーンが重なり、実におもしろい。いや、このトーンこそ、ウェーバーの時代を蘇らせるものなのだろう。洗練されたモダン・オーケストラであったなら隠してしまう、生まれたてのドイツ・ロマン主義に孕む、濃い民族性... 例えば、村のみんなが踊るワルツ(dsc.1, track.9)ならば、シュトラウス家がウィーンを席巻する以前の、まだ民族舞踊であったワルツを素朴かつ活き活きと繰り広げて印象的。狩人の合唱(disc.2, track.11)などは、民謡調の豪放さがしっかり引き出されて、その朴訥とした表情が魅力的。そして、何より効果を発揮するのが、魔弾を求めて悪魔の棲む森(狼谷)へと分け入るあたり... このオペラの肝とも言える、第2幕のフィナーレ(disc.2, track.1-3)、悪魔、ザミエルと対峙するシーンでは、ピリオドの粗野な響きが絶妙に雰囲気を創り出し、おどろおどろしさを紡ぎ出す緊張感に充ちた音楽が、ドイツ・ロマン主義を加速させる。ピリオドであることが、民族性とともにドイツ・ロマン主義を味わい深く響かせるよう。
そこに、端正な歌声でドラマを彩る歌手たち... 魔弾を手に入れた射手、マックスを歌うプレガルディエン(テノール)の、瑞々しくもナイーヴな表情は、ドイツ・ロマン主義の若々しい頃を象徴するようで、印象深く... その恋人、アガーテを歌うシュニッツァー(ソプラノ)のイノセンスさは、まさにドイツ・ロマン主義のヒロイン!儚げでありながらも、魔弾をはじく清廉さを漂わせて、3幕のカヴァティーナ(disc.2, track.6)などは、浮世離れしてファンタジック。対して、悪魔に魂を売ったカスパールを歌うツェッペンフェルト(バス)の、苦悩しながら陰を帯びる歌声が何とも魅惑的... この3人に限らず、他のキャストもすばらしく、ザミエル役の語り、ジョンも含め、それぞれキャラクターが活き、手堅いアンサンブルを織り成す。また、クリアかつ表情豊かなWDR放送合唱団のコーラスも忘れるわけには行かない。ドイツのコーラスの高機能性を如何なく発揮し、魅了して来る。
いや、久々にヴァイル、カペラ・コロニエンシス盤を聴いてみて、ドイツの音楽のターニング・ポイントとしての『魔弾の射手』のおもしろさに惹き込まれる。で、ヴァイル、カペラ・コロニエンシスが強調するこのオペラの民族性を目の当たりにし、"国民オペラ"と呼ばれる『魔弾の射手』の位置付けに納得。18世紀、ヨーロッパ中のオペラハウスを沸かせたナポリ楽派のオペラ、その影響下にあったオペラが、都市における市民のオペラならば、『魔弾の射手』は、ドイツに根差し、ドイツに住まう人々が共感する国民のオペラ。で、"国民オペラ"の出現は画期的だったのだなと... ならば、これも国民楽派?

CARL MARIA VON WEBER
DER FREISCHÜTZ
WDR Rundfunkchor Köln ・ Cappella Coloniensis des WDR
Gerhaher ・ Pregardien ・ Zeppenfeld ・ Stojkovic ・ Schnitzer
Bruno Weil

ウェーバー : オペラ 『魔弾の射手』

オットカール/キリアン : クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
クーノ : フリーデマン・レーリヒ(バス)
アガーテ : ペトラ=マリア・シュニッツァー(ソプラノ)
エンヒェン : ヨハンナ・ストイコヴィチ(ソプラノ)
カスパール : ゲオルク・ツェッペンフェルト(バス)
マックス : クリストフ・プレガルディエン(テノール)
隠者 : アンドレアス・ヘール(バス)
ザミエル : マルクス・ジョン(語り)
ケルンWDR放送合唱団

ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシス

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