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17世紀、イタリア、軽やかに踊る、チャコーナ。 [before 2005]

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音楽は国境を越える... というフレーズには、「世界平和」といった大きなメッセージが籠められる。そこでは、国境を越えた相互理解のツールとしての音楽がクローズアップされるわけだ。が、音楽史をつぶさに見つめれば、そうした次元を越えて音楽が存在していることに思い知らされる。国境など物ともせず、大洋ですら渡り切ってしまう音楽... そうして音楽史は紡がれて来た。インターネットはもちろん、飛行機も飛ばなかった時代に、そんなことがあり得るのか?なんて考えてしまったなら、それは、現代人の驕りなのかもしれない。あるいは、ツールに頼り過ぎる現代人の姿を如実に表しているように思う。昔の人々の方が、ずっとニュートラルに、貪欲に、音楽を楽しんでいたように感じる。すると、国境も、大洋も、意識するほどのものでなくなってしまう。
そんな一端を垣間見せてくれる1枚... ペルーで生まれたダンス、チャコーナが、大西洋を渡り、スペインで大ブームを巻き起こし、さらには地中海を渡って、イタリアでも大ブーム!17世紀、音楽の最新モードに取り込まれて、新たな展開を生む... という様子を、活き活きと捉えた、アントネッロによるアルバム、"CIACCONA"(SYMPHONIA/SY 01187)を聴く。

モンテヴェルディ(1567-1643)に、ロッシ(ca.1570-ca.1630)、カプスベルガー(1580-1651)、ディンディア(ca.1580-1629)、フレスコバルディ(1583-1643)、メールラ(1595-1665)、などなど... "CIACCONA"で取り上げられる作曲家たちの豪華さたるや!初期バロックにおけるオール・スターだ。もちろん、それぞれのチャコーナ(イタリア語ではチャッコーナ... )を聴かせてくれるわけで... つまり、17世紀の人気作曲家たちは、みなペルーからやって来たダンス、チャコーナに飛び付いていたわけだ。それほどにチャコーナは大ブームだったわけだ。で、ふと思う。1920年代、アメリカで誕生したジャズが大西洋を渡り、一大旋風を巻き起こした時、ヨーロッパの作曲家たちがこぞってこの新しい音楽に取り組んだことと重なるのでは?いや、そういう大西洋を渡った流行が、その300年前にも存在していたことが、実におもしろい!チャコーナは、17世紀のジャズ?なんて考えると、印象はまた違ったものになるのかも... しかし、音楽史は、まったく以ってスケールがデカい!
で、始まりは、メールラのチャコーナのアリア「恋のリラに乗せて」。チャコーナの小気味良いリズムに乗って、ソプラノが伸びやかに歌い上げるのだけれど、何て心地良いのだろう!晴れ渡る大空に、ふわふわと楽しげな雲が風に乗って流れて行くような... 時折、太陽が雲で陰って、スっと暗い表情を浮かべたりもするのだけれど、得も言えぬ朗らかさを漂わせて、キラキラとした音楽を聴かせてくれる。この朗らかさは、ちょっとヨーロッパのものではないのかもしれない。やっぱり、ペルー生まれのダンスということか?それでいて、ルネサンス・ポリフォニーを脱し、新しい時代を模索している最中ならではの、まだまだ煮詰まっていない初期バロックのシンプルな音楽の在り様が生むフレッシュさ!まるでインプロヴィゼーションであるかのようなセッション感が息衝いていて(これは、アントネッロの音楽性によるかもしれないが... )、何もかもが活き活きとしている。17世紀の人々がチャコーナに興じた気分だろうか?そのワクワクした気分が21世紀の我々の身体にも伝わって来る。続く、フレスコバルディのチャコーナのパルティータ(track.2)は、アルカイックなハープの独奏で、クール・ダウン。その後、スペイン出身のセルマ・イ・サラヴェルデの10番のカンツォン(track.3)は、キレ味の鋭いリコーダーで奏でられるのだけれど、この笛の雰囲気がどこかフォルクローレを思わせて、やさしい音色の一方で、思いの外、力強く、印象的。
しかし、見事に17世紀当時の最新モードに消化されたチャコーナの数々... 素朴で、朗らかなあたりが、南米のバロックを意識させるところもあるけれど... 定型のオスティナートにわずかにスパイシーな味わいを見出すこともあるけれど... 大ブームに乗りつつも、きっちりと自らの音楽を繰り出しているあたりに、17世紀の人気作曲家たちのフレキシブルさ、腹の据わった音楽性に、感心させられる。こういう姿勢、現代音楽の作曲家たちにもあったなら、クラシックはまた違った展開が生まれるように思うのだけれど... なかなか難しいかァ。まだ、音楽の形が定まっていない、初期バロックのやわらかな音楽なればこそのものが"CIACCONA"には溢れている。その若々しさ、瑞々しさは、クラシック離れしたトーンを生み、古いはずの音楽が、新しく感じられる。
という、マジックを聴かせてくれるアントネッロ... 古い音楽を古いものとして捉えず、まるで、生まれたての音楽のように向き合う彼らならではのスタンスが、17世紀のイタリアの音楽に爽やかな息吹を呼び覚ます。その中心にあるのが、リーダー、濱田芳通の吹く、リコーダーとコルネット!キレ味鋭くも、表情豊かなサウンドには魅了されるばかり... 鮮やかな妙技と、クラシック離れした感性が、"CIACCONA"に収められたナンバーに、今を生きる輝きを与えるかのよう。そこに、絶妙なサポートを見せるボナヴィータノバロック・ギターとテオルボ... ささやかにして、極めてクリアなサウンドを発するその存在感は、何とも言えず魅力的。アルカイックな西山まりえによるハープも美しく... そんな演奏に乗って、心地良く歌う、鈴木美登里のやわらかで伸びやかなソプラノ!このエアリーさが、たまらない。そうして聴こえて来る、フレッシュなチャコーナの数々... クラシックだ、初期バロックだという面倒臭い背景を忘れて、よりシンプルに楽しさや美しさが広がる。そんな"CIACCONA"に触れると、音楽は国境を越える... ではなく、音楽は時代を越えるのだなと...

CIACCONA la gioia della musica nell'Italia del '600 ANTHONELLO

メールラ : チャコーナのアリア 「恋のリラにのせて」
フレスコバルディ : チャコーナのパルティータ
セルマ・イ・サラヴェルデ : カンツォン 第10番
モンテヴェルディ : チャコーナのアリア 「あの高慢な眼差しは」
セルマ・イ・サラヴェルデ : カンツォン 第4番
ロッシ : ベルガマスクのアリア 「甘美に歌うあの小鳥は」
バルトロッティ : チャコーナ
ディンディア : ロマネスカのアリア 「私の涙に獣たちも」
セルマ・イ・サラヴェルデ : ファンタジア 「騎士の歌」
フェッラーリ : チャコーナのアリア 「恋する男達よ、私は君達に言いたい」
ストラーチェ : チャコーナ
ファルコニエーリ : フォリアス
カプスベルガー : カポーナ
ファルコニエーリ : 英雄、チャコーナのヴィラネッラ 「金髪のかわいいお嬢さん」

アントネッロ
鈴木美登里(ソプラノ)
石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
西山まりえ(チェンバロ/バロック・ハープ)
ラファエル・ボナヴィータ(バロック・ギター/テオルボ)
古橋潤一(リコーダー)
能登伊津子(オルガン)
濱田芳通(コルネット/リコーダー)

SYMPHONIA/SY 01187




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