中世、イベリア半島の多様性が生む、魅惑! [before 2005]
日本という国は、どれくらい昔まで遡れるのだろう?まったく以って悩ましいところなのだけれど、スペインならばもう少しわかり易い... カスティーリャ王国とアラゴン王国の連合した1479年。イベリア半島、最後のイスラム国家、グラナダ王国の征服によるレコンキスタの完遂、1492年。初代スペイン国王、カルロス1世が、祖父からアラゴン王位を継承し、母のカスティーリャ王位を代行した1516年。このあたりがスペインという国の始まりになる。が、その頃、日本はというと、応仁の乱(1467-77)を経て、戦国に突入する時代... そう考えると、「スペイン」って意外と新しい。一方で、「スペイン」以前のイベリア半島の歴史は極めて古い!巨石文明に、フェニキア人、ギリシア人の植民に、ケルト文化の流入、カルタゴの進出からローマによる支配へ、そしてゲルマン人がやって来て、イスラム教徒がやって来て... 凄い、文明の玉手箱やァ!いや、これが「スペイン」という個性をパワフルにしている要因かなと。で、その「スペイン」以前を探る、イベリア半島の中世を巡って...
イベリア半島における中世のスペシャリスト、エドゥアルド・パニアグアが率いる、古楽アンサンブル、ムジカ・アンティグアの、『聖母マリアのカンティーガ』から、マリアの生涯にまつわるナンバーを集めた"LA VIDA DE MARÍA"(PNEUMA/PN-610)と、エドゥアルド・パニアグア、ダドビ・マヨラル、セルゲイ・サプリチョフによるパーカッションで、アル・アンダルースのアラビアンなリズムを刻む"Latidos de Al-Andalus"(PNEUMA/PN-690)。 併存した2つの文化を聴く。
イベリア半島における中世のスペシャリスト、エドゥアルド・パニアグアが率いる、古楽アンサンブル、ムジカ・アンティグアの、『聖母マリアのカンティーガ』から、マリアの生涯にまつわるナンバーを集めた"LA VIDA DE MARÍA"(PNEUMA/PN-610)と、エドゥアルド・パニアグア、ダドビ・マヨラル、セルゲイ・サプリチョフによるパーカッションで、アル・アンダルースのアラビアンなリズムを刻む"Latidos de Al-Andalus"(PNEUMA/PN-690)。 併存した2つの文化を聴く。
いやー、テンション上がる!ブゥーン、ブォーンと、ドローン(管楽器だと思うのだけれど... )が聴こえ始め、そこに中世版のマーチングバンド(?)が鮮烈に登場して繰り広げる、100番、「夜明けの星」... 幕開けのこのフェスティヴァル感が、とにかく、最高!そんな風に始まる"LA VIDA DE MARÍA(マリアの生涯)"、のっけからエドゥアルド・パニアグアのカンティーガの聴かせ方に唸らされる。カスティーリャ王、アルフォンソ10世(在位 : 1252-82)により編纂された『聖母マリアのカンティーガ』は、ガリシア語(イベリア半島北西で話されるポルトガル語に近い言語... )で歌われる400を越える単旋律のナンバーを収録し、キリスト教における様々な奇跡を表情豊かな細密画とともに綴ったもの。音楽的には単旋律でしか記録されていないため、どう肉付けするかは演奏家次第。一方で、細密画には様々な楽器が描かれ、また中世のイベリア半島ならではのアラブ系の音楽家の姿も描かれているようで、西欧の中世にはない、インターナショナルなサウンドで彩られていたことを窺わせる。
というアルフォンソ10世が生きた13世紀、イベリア半島の音楽風景を、活き活きと蘇らせるエドゥアルド+パニアグア+ムジカ・アンティグア。カンティーガの素朴で味わい深く、何よりキャッチーなメロディーを、見事に色彩豊かに膨らませて来る!録音の秀逸さもあって、特色ある中世の楽器、ひとつひとつの響きが、思いの外、クリアに鳴り響き、そうして生まれる独特の瑞々しいサウンドには息を呑むばかり。中世の朴訥さ、アラビアンなエスニックさも、このクリアさで捉えると、不思議な清廉さが生まれて、おもしろい。癖が強いようで、どこかサラリとした感触。中世の昔を捉えながら、ミックス・カルチュラルなあたりが、どこか新しさも感じさせ、とてもフレッシュなのが印象的。何より、西洋、東洋、様々な楽器(もうね、楽器博物館!)に、アラブ風な歌唱、少年合唱と、中世にして大編成で挑むマリアの生涯を織り成す一大絵巻の壮観さたるや!21のナンバーを取り上げる2枚組に及ぶ長丁場も、歌のみならず、器楽アンサンブルによる演奏も挿み、飽きさせることなくマリアの生涯を丁寧に辿り、聴き入ってしまう。今さらながらに、エドゥアルド・パニアグアの大胆にして繊細な音楽性に感服。
それにしても、中世のイベリア半島の文化の豊かさを思い知らされる。西洋だから、東洋だから、という現代的な線引きをするりとかわして、しなやかに結び付き、影響し合う関係性が生む豊潤さ!21世紀、我々が学ぶべきものがここにあるような気がする。
LA VIDA DE MARÍA ・ ALFONSO X EL SABIO ・ EDUARDO PANIAGUA
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第100番 「夜明けの星」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第410番 「5つの祭りへの前口上」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第412番 「暁の中の暁」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第411番 「生誕」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第413番 「けがれなき処女」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第414番 「聖母マリアの三位一体」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第288番 「キリストの御母」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第330番 「神の御母」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第180番 「ご年配で、また乙女」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第120番 「聖母マリアのお情」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第384番 「花の中の花」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第415番 「受胎告知」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第416番 「アヴェ・マリア」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第80番 「天使の挨拶」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第417番 「お清めの祝日/聖燭祭」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第418番 「7つの徳」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第285番 「修道女と紳士」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第419番 「聖母被昇天」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第420番 「行列」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第421番 「審判の日」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第422番 「審判/女予言者シビラ」
エドゥアルド・パニアグア/ムジカ・アンティグア
戦没者の谷修道院付属児童聖歌隊
PNEUMA/PN2-610
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第100番 「夜明けの星」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第410番 「5つの祭りへの前口上」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第412番 「暁の中の暁」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第411番 「生誕」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第413番 「けがれなき処女」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第414番 「聖母マリアの三位一体」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第288番 「キリストの御母」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第330番 「神の御母」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第180番 「ご年配で、また乙女」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第120番 「聖母マリアのお情」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第384番 「花の中の花」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第415番 「受胎告知」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第416番 「アヴェ・マリア」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第80番 「天使の挨拶」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第417番 「お清めの祝日/聖燭祭」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第418番 「7つの徳」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第285番 「修道女と紳士」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第419番 「聖母被昇天」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第420番 「行列」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第421番 「審判の日」
■ 『聖母マリアのカンティーガ』 から 第422番 「審判/女予言者シビラ」
エドゥアルド・パニアグア/ムジカ・アンティグア
戦没者の谷修道院付属児童聖歌隊
PNEUMA/PN2-610
711年、ジブラルタル海峡を渡り、イスラム帝国が進軍して来ると間もなく、北の大西洋沿海部を残してイスラム世界に呑み込まれたイベリア半島。キリスト教徒による国土回復運動、レコンキスタの長い戦いが続く中、1492年のグラナダ王国の陥落まで、700年弱もの間、様々なイスラム系国家が存立していた史実は、後の「スペイン」という個性が生み出されるにあたり、重要なファクターとなったはず... で、広大な領域を支配したイスラム世界において、イベリア半島は西の辺境にあたるわけだが、そこで育まれたイスラム文化は、ダマスカス、バグダッド、カイロといったイスラム世界の中心に引けを取らない発展を見せた。当然、音楽もまたそうで... イベリア半島南部、アンダルースで育まれた音楽は、独自の発展を遂げ、リュートやトルバドゥールなど、ヨーロッパの中世の音楽に大きな影響を与えた。そんなアンダルースの音楽を体験する、"Latidos de Al-Andalus"。
"latidos"とは、スペイン語で「鼓動」の意味、とのこと... で、まさに!アンダルースのパーカッションが刻む絶え間無いリズムは、激しく踊る人の拍動のようで、鋭く、また艶めかしく、パワフル。アラブの音楽は西洋の音楽よりも複雑で、音階ならば微分音が用いられ、リズムもまた凝った拍子を繰り出して、安易なエキゾティシズムに終わらない興味深さがあるのだけれど、"Latidos de Al-Andalus"には、そんなアラブの音楽が充ち満ちている。てか、もうね、目が回るような、もの凄いパフォーマンスの連続で、ただただエキサイティング!いや、これほどに息衝くパーカッションって、他にあるのか?!ひたすらに圧倒される。でもって、パーカッションだけでなく、エドゥアルド・パニアグアによるリコーダーなどがメロディーを歌い、色を添えるのだけれど、やっぱり主役はパーカッション。録音の秀逸さもあって、ひとつひとつの音が恐ろしくクリアで、だからこそ見えて来るアラブの音楽の凄さ... それはまるで、モスクを飾る精緻な幾何学模様のよう... 叩くという、単純な行為に終始するパーカッションのイメージを覆す、複雑に織り成される「美」を体感。かと思うと、ひとつひとつの打音に表情や深みがあることにも驚かされ... そうした打音が連なると、意外にも艶やかな曲線が浮かび上がり、時にやわらかさすら感じて、謎めく。いや、これこそがアラベスク?なんと魅惑的な!で、それを生み出すエドゥアルド・パニアグアらの妙技と、まるでひとつの有機体のような、一糸乱れぬアンサンブルに舌を巻く。
LATIDOS DE AL-ANDALUS ・ EDUARDO PANIAGUA
■ Danza del ajedrez(チェスの踊り)
■ Palpito andalusi(アンダルシアのビート)
■ Respiracion azorada(騒がしい呼吸)
■ Control de arritmia(リズムの不整のコントロール)
■ La fortaleza(力)
■ La egipcia(エジプトの女)
■ Los amantes(愛人)
■ Lamento enamorado(愛の悲しみ)
■ La novia(花嫁)
■ La ceremonia(儀式)
■ Escala de pleyades(プレヤデスのスケール)
■ Adelante al-Maya(アル・マーヤの向こうへ)
■ Danza azul(青い踊り)
エドゥアルド・パニアグア(パーカッション)
ダビド・マヨラル(パーカッション)
セルゲイ・サプリチョフ(パーカッション)
PNEUMA/PN-690
■ Danza del ajedrez(チェスの踊り)
■ Palpito andalusi(アンダルシアのビート)
■ Respiracion azorada(騒がしい呼吸)
■ Control de arritmia(リズムの不整のコントロール)
■ La fortaleza(力)
■ La egipcia(エジプトの女)
■ Los amantes(愛人)
■ Lamento enamorado(愛の悲しみ)
■ La novia(花嫁)
■ La ceremonia(儀式)
■ Escala de pleyades(プレヤデスのスケール)
■ Adelante al-Maya(アル・マーヤの向こうへ)
■ Danza azul(青い踊り)
エドゥアルド・パニアグア(パーカッション)
ダビド・マヨラル(パーカッション)
セルゲイ・サプリチョフ(パーカッション)
PNEUMA/PN-690
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