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スペイン、印象主義、瑞々しいピアノ、アルベニス。 [2005]

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うーん、スペインの音楽がおもしろ過ぎる。って、もっと、いろいろ、ワールド・ミュージック臭のするクラシックを幅広く聴くつもりが、スペインから離れられない!裏を返せば、これまでスペインの音楽をあまりに何気なく聴いて来てしまったのかもしれない。今、改めて、スペインの音楽の歩みを見つめ、そこから放たれる強い個性に触れれば、ただならず魅了されてしまう。まさに、ピレネー山脈の向こう側、西欧とは違う歩みであり、そうして紡がれる個性であり、それらはまた若くもある史実(今日に至るスペイン王国の成立は、15世紀末... )。「スペイン」の文化には、若いからこその、まだ丸くなっていない強い個性を感じる。スペインというひとつの王国になる以前の、西欧にはない異文化の混在と、それらを強引に、時に悲劇を伴いながら、ひとつに撚られたことで生まれる悲哀と激情... じっくりと洗練されて来た西欧では味わえない感覚が、「スペイン」には間違いなく存在している。
そして、その「スペイン」が際立つのが音楽!リテレスのサルスエラソルの歌曲も魅力的だったが、よりクラシックに昇華された「スペイン」を求めて、19世紀後半へ、スペインにおける国民楽派の傑作を聴いてみようかなと... カナダのヴィルトゥオーゾ、マルク・アンドレ・アムランのピアノで、アルベニスの集大成、『イベリア』(hyperion/CDA 67476)を聴く。

スペイン、カタルーニャに生まれたアルベニス(1860-1909)は、「スペイン」を素材にエキゾティックで魅惑的な作品を多く残したことで、国民楽派にカテゴライズされるのだけれど、その音楽は中東欧の国民楽派の作曲家たちとは一線を画すように感じる。独立運動を背景とした、止むに止まれぬ民族音楽への傾倒とは違うアルベニスの音楽... そもそも民族的であるところからスタートしている「スペイン」の音楽の、一見、国民楽派的でありながらも、もう一歩先を行くような展開があって、今、改めてアルベニスを聴いてみると、実に興味深い。国民楽派の音楽にある種の泥臭さがすーっと抜けていて、アカデミズムの堅苦しさをもするりとかわして、独特の洗練を感じさせる音楽を繰り広げる。で、そういうアルベニスのスタンスが集大成となって響くのが、ピアノのための作品、3曲ずつで、第4巻まで出版された、全12曲からなる『イベリア』。1905年からアルベニスの死の前年までの3年間に作曲され、遺作とも言える作品。何と言っても、アルベニスを代表する傑作...
いや、久々に聴くと、『イベリア』の瑞々しさに目が覚める!この瑞々しさは、国民楽派というより印象主義?より色彩的なパレットを用い、「スペイン」の何気ない表情を捉えて... イベリア半島、各地の表情を絵葉書的に描き出し、軽い音楽を聴かせるようでいて、その軽さに捉われない新しい音楽像の模索を見出し... アルベニスが逝った翌年、ドビュッシーは前奏曲集の第1巻(1910)を完成させているのだけれど、アルベニスの『イベリア』には、ドビュッシーが辿り着いた新しい音楽の在り方を先取りするような感覚があり、まったく引けを取らない。それでいて、「スペイン」なのである。フォークロワのプリミティヴさを、西欧の音楽を象徴するピアノというマシーンに巧みに落とし込み、消化し、実にナチュラルな響きを紡ぎ出す妙!下手にアカデミズムで「スペイン」をねじ伏せるのではない、「スペイン」が何であるかをしっかりと理解しているからこそ可能な、「スペイン」とピアノの融合とでも言おうか。時に、プリミティヴさにこそ、既存のアカデミズムを打破する鍵を探り、より自由な音楽を展開してしまうおもしろさ!フォークロワにこそモダンのヒントは隠されている?けして安易なエキゾティシズムではない、アルベニスの鋭敏な感性を以ってして表現される「スペイン」の瑞々しさは、ただならない... そんな瑞々しさに触れていると、クラシックという額縁すら消失してしまいそうで、まさに印象主義の洒落た気分が広がるよう。
さて、『イベリア』(disc.1/disc.2, track.1-3)の後で、その前後に作曲された作品がいくつか取り上げられるのだけれど、これがまた魅力的。『イベリア』を準備した作品とも言える、1897年に作曲されたラ・ベガ(disc.2, track.4)、スペイン、思い出(disc.2, track.7, 8)は、『イベリア』に負けず、瑞々しい詩情を湛えて、美しく。スペイン、思い出の2曲目、アストゥリアス(disc.2, track.8)などは、何とも言えずメランコリックで、ちょっとクラシック離れしてムーディー。一方、1909年の作品、イヴォンヌの訪問(disc.2, track.5, 6)は、こどものための曲集のために作曲されたもので、ピアノのお稽古にやって来たイヴォンヌの、いやいやながらのレッスンの様子(disc.2, track.6)を、ユーモラスに捉えて微笑ましく。映像のようにその情景を切り取って来る作曲家の鋭い観察眼と、イマジネーションを刺激する表情豊かな音楽に感心させられる。
そんなアルベニスをクールに弾きこなすアムラン。超絶技巧も何のそのと、さらりと弾き上げてしまう21世紀のヴィルトゥオーゾならでこそのタッチ。それはもう、的確過ぎて涼やかなほど... で、この温度感が、アルベニスの綴った音符ひとつひとつを磨き上げるような感覚があって、そうして紡がれた音楽の透明感が圧巻。何より、澄み切って浮かび上がる、アルベニスの瑞々しい色彩!魅惑の「スペイン」でありながら、より抽象的な響きの美しさを見事に捉えられて、エキゾティックさを越えて聴き入ってしまう。そうして、酔わされる。エスニックではない、より広がりを見せたスペイン情緒のポエジー。

ALBÉNIZ IBERIA & other late piano music
MARC-ANDRÉ HAMELIN


アルベニス : 『イベリア』
アルベニス : ラ・ベーガ
アルベニス : イヴォンヌの訪問
アルベニス : スペイン、思い出
アルベニス : ナバーラ 〔ボルコムによる補筆完成版〕

マルク・アンドレ・アムラン(ピアノ)

hyperion/CDA 67476




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