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スパニッシュ・ギター、ラテン・ムード、ソル... [2008]

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ああぁぁぁ... 温暖化という言葉がヌルく感じてしまうほどの酷暑... 8月は、まだこれからだと思うと、もう倒れそう。夏バテ、なんて悠長なことを言ってられた頃が懐かしいくらいの、冗談じゃなく死にそうな毎日。とにかくは、熱中症など、気をつけて参りましょう。という8月、ワールド・ミュージックからクラシックを眺めてみる、夏休み的試みの続き。でもって、ちょっとスパイシーな音楽を聴いて、この酷暑を乗り切ってみようという、付け焼刃。ま、じっとりマーラーの交響曲を聴くよりは、風変わりで楽しい音楽を聴いた方が気も紛れるはず... そこで、スペイン情緒に彩られた異色のバロック、リテレスのサルスエラに続いての、19世紀、スペイン・ブームの先駆け!
ピリオドのギターの名手、シャビエ・ディアス・ラトーレが、ピリオド・アンサンブル、ラベリントス・インヘニオソスを率いて、19世紀初頭に活躍したギタリスト、ソルの歌曲を取り上げる、"Seguidillas Boleros"(Zig-Zag Territoires/ZZT 080201)を聴く。

フェルナンド・ソル(1778-1839)。
漠然と、スペイン情緒に、ギターのイメージで捉えていたソルなのだけれど、改めて見つめると、そう安易に語れる作曲家で無いことに気付かされる。まず、バルセロナに生まれたソルは、カタルーニャ人。カタルーニャを代表する聖地、モンセラート修道院の聖歌隊に参加し、音楽を学び始め、1797年には、19歳にして、最初のオペラ『カリプソ島のテレマコ』をバルセロナで上演したというから、凄い。その後、マドリードに移ったソルは、ナポレオン戦争により、フランス軍の占領下(1808-13)に置かれた、ナポレオンの兄、ジョゼフを王とするスペイン政府の役人となる。が、ナポレオンの敗退により、1813年、フランスへ亡命(以後、二度と故郷の地を踏むことは無かった... )。1815年にはロンドンへ移り、イタリア風アリエッタ集を出版し、大ヒット!ロンドンにおいて、一躍、人気作曲家の地位を獲得。1822年に初演されたバレエ『シンデレラ』は、ロンドンのみならずパリでも大成功、モスクワのボリショイ劇場の柿落としにも取り上げられたほど... もちろん、ギタリストとしても活躍したソルは、多くのギター作品を作曲し、教則本も出版。西欧におけるギターの紹介者として、大きな功績を残した。
という、ソルの歌曲を取り上げる、ディアス・ラトーレ+ラベリントス・インヘニオソス。1曲目、"Casa de atormentarme"から、あまりに素直にスペインが表現されてしまって、ちょっと戸惑ってしまう。それはもう、スペイン料理店にでもやって来たような、そんなトーンで... ベートーヴェン(1770-1827)の8つ年下、「ギターのベートーヴェン」とも呼ばれるソルの音楽は、ちょうど古典主義が集大成を迎え、ロマン主義が始動する頃に生み出されている。が、"Seguidillas Boleros"に収められた歌曲には、そういう時代感はほとんど感じられない。見事に、あっけらかんとスペイン風が繰り出されて、時代を突き抜けたものすら感じる。で、これこそが、19世紀前半、一世を風靡した「スペイン」なわけだ。異国情緒をライトに洒落た気分で包んで生まれる得も言えぬ気軽さ。ベートーヴェンの気難しさの対極にある、当時の幅広い音楽ファンを虜にした気軽さ。しかし、ソルの歌曲を丁寧に聴いてみると、古典主義の時代に学んだ端正な音楽像というものも聴こえて、18世紀後半の音楽が至った洗練や粋が、ソルの歌曲の気軽さにつながっているように思えて来る。紛うこと無き「スペイン」でありながらも、フォークロワの土臭さとは一線を画すサウンドの耳当たりの良さ!だからこそ、一世を風靡したか...
さて、"Seguidillas Boleros"は、芝居仕立てで、3幕とエピローグの4つの部分からなる。で、幕の終わりには、ディアス・トーレスらの妙技を堪能するギター作品が取り上げられ、アルバムに最高のアクセントを加える。クラシック・ギターのサウンドというのは、弦を爪弾くあたりが、何かさっぱりとした印象をもたらし、心地良く、メロディーがセンチメンタルな色を濃くしても、サラサラと流れてゆくようで、不思議な清らかさを湛えている。もちろんそこには、ディアス・ラトーレの確かなテクニックがあり、技巧的なパッセージも軽々と弾きこなされてしまうあたりには、爽快感すらあって... 特に印象に残るのは、3幕の終わり、ソリニスとのデュオによる幻想曲「2人の友」(track.16)。15分を越える大作を颯爽と弾き上げて圧巻!ヴィルトゥオージティに溢れる音楽も、ぴったりと息を合わせ、たっぷり歌いつつ、丁々発止のスリリングがあり、惹き込まれる。また、ピリオドならではの味わい、ソルの時代を蘇らせる、ロマンティック・ギターの魅力的な響き... 音のひとつひとつが、どこかやわらかで、モダンのギターが生み出すサウンドとは一味違う雰囲気が、なかなか素敵で、聴き入ってしまう。
そんなやわらかなギターの音色に乗って歌う、ラベリントス・インヘニオソスの歌手陣... クリマン(テノール)、ビラマジョ(テノール)、リカルト(バリトン)によるトリオは、素直でありながらも、何気にムーディーで、魅惑的。で、それがさらに映えるのが、アルバムの最後を飾るキューバン・ミュージック、ニロ・メネンデスによる"Aquellos Ojos Verdes"(track.23)。そう、クラシックではありません。そして、何とムーディーな!ソルの軽いナンバーの後で、こういうサウンドを持って来る趣向が、また素敵。ラベリントス・インヘニオソスも、すっかりラテン・アンサンブルに変身してしまい、いい味出してる!

FERNANDO SOR ・ SEGUIDILLAS BOLERAS ・ XAVIER DíAZ-LATORRE

ソル : Cesa de atormentarme
ソル : Preparame la tumba
ソル : Los canonigos, madre
ソル : Mucha tierra he corrido
ソル : 練習曲
ソル : Las mujeres y cuerdas
ソル : Muchacha y la verguenza
ソル : Cuando de ti me aparto
ソル : El que quisiera amando
ソル : モーツァルトの魔笛の主題による変奏 Op.9
ソル : Que costoso es el logro
ソル : Me pregunta un amigo
ソル : Lo que no quieras darme
ソル : Mis descuidados ojos
ソル : Sin duda que tus ojos
ソル : 2つのギターのための幻想曲 Op.41 「2人の友」
ソル : Como ha de resolverse?
ソル : Yo no se lo que tiene
ソル : Cuantas naves han visto
ソル : Acuerdate bien mio
ソル : Si dices que mis ojos
ソル : Puede una buena moza
ニロ・メネンデス : Aquellos ojos verdes

ラベリントス・インヘニオソス
ランベール・クリマン(テノール)
リュイス・ビラマジョ(テノール)
ジョルディ・リカルト(バリトン)
ペドロ・エステバン(カスタネット)
エンリケ・ソリニス(ロマンティック・ギター)
シャビエ・ディアス・ラトーレ(ロマンティック・ギター)

Zig-Zag Territoires/ZZT 080201




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