遠い記憶の中のアメリカへ、リアルなメキシコのディープへ、 [before 2005]
ふぅ、8月です。シーズン・オフ、真っ只中、クラシックも夏休み!そこで、クラシックから少し離れてみようかなと... いや、離れ切れはしないのだけれど... ちょっと気分を変えて、ワールド・ミュージックからクラシックを眺めて見たならば?民俗音楽を中心に、その名の通り、世界中の様々な音楽に目を向けるワールド・ミュージック。考えてみれば、西欧文化に基づくクラシックも、ワールド・ミュージックの一部だと言えるかもしれない。クラシックを遡って、まだまだプリミティヴな表情を見せていた頃の音楽、古楽に触れれば、よりそうしたことを感じられる。あるいは、遡らずとも、国民楽派の音楽に、ワールド・ミュージックは現れていると言えるかもしれない。そして、このワールド・ミュージックとクラシックの境をウロウロしてみると、音楽の本質に迫れる気がする。
ということで、アメリカ大陸から... 古楽ヴォーカル・アンサンブル、アノニマス4が歌う、アメリカの讃美歌、ゴスペルの原風景、"American Angels"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907326)と、近現代のスペシャリスト集団、クロノス・クァルテットが、大胆にリアルなメキシコの音楽風景を活写する"NUEVO"(NONESUCH/7559-79649-2)を聴く。
ということで、アメリカ大陸から... 古楽ヴォーカル・アンサンブル、アノニマス4が歌う、アメリカの讃美歌、ゴスペルの原風景、"American Angels"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907326)と、近現代のスペシャリスト集団、クロノス・クァルテットが、大胆にリアルなメキシコの音楽風景を活写する"NUEVO"(NONESUCH/7559-79649-2)を聴く。
1曲目、"Holy Manna"のワン・コーラス目、いきなり音階(ソソラソファ... みたいな... )で歌われてしまうことに、ギョっとする。のだけれど、その後で、ちゃんと音階に詩が乗って歌い出されて、納得する。みんなで歌うために、お手本として、音階で歌われるのだなと... そして、そこに、何か温かなものを感じる。教会に集った全ての人に配慮された音楽というのか、歌がみんなのものであるということに感動を覚えてしまう。こういう感覚、クラシックには希薄だし、21世紀の音楽、全体にも言えることのように感じるから... 一方で、歌われる讃美歌(18世紀のもの... )は、どれもポリフォニーを展開するからおもしろい。それは、ルネサンス期、ルター派が歌った讃美歌の雰囲気を思わせて、みんなで歌うにはハイ・レベル?例えば、7曲目、"New Britain"というタイトルで、あのアメージング・グレイス(track.7)が歌われるのだけれど、やっぱりポリフォニーとなっていて、凄く不思議な感じ。お馴染みの瑞々しいメロディーがポリフォニーを纏うと、まさにルネサンスの音楽のようにふわっとしたトーンに包まれ、ヘヴンリー。ドラマティックに旋律が強調される普段とは違う、ポリフォニーならではの輝きが新鮮。
そうした讃美歌の一方で、ゴスペル・ソングの真っ直ぐな表現には、また違った輝きがあって... もちろん、現在、歌われる、パワフルなゴスペルとはまったく異なるのだけれど、遠い昔(19世紀のもの... )の姿を留めた素朴な音楽にも、今に至るゴスペルの力強さがすでに芽生えており、その、そこはかとないゴスペルとしての存在感に、惹き付けられる。特に、最後、"Angel Band"(track.20)の、人懐っこく、懐かしいトーンには、参ってしまう。いや、このアルバムに綴られた全てのナンバーから、そうしたものは溢れ出していて... それは、アメリカのピュアな魂とでも言おうか、その純粋さが、聴く者に遠い記憶を呼び起こすような感動をもたらす。
そんな、"American Angels"を聴かせてくれたアノニマス 4(来年、解散と聞いて、ちょっとショック... )。ア・カペラの女声4声というシンプルなハーモニーでありながら、滋味溢れた歌声には、美しさばかりでない、素朴の中に、アメリカの広大な大地と、大きな空を思わせるスケール感を響かせて、見事。今となっては、ド派手なパフォーマンスに彩られるアメリカの音楽も、こうしたところから始まったのかなと思うと、何とも言えない感慨を覚える。そして、アメリカの原風景に、心洗われる。
AMERICAN ANGELS ・ ANONYMOUS 4
■ 讃美歌 "Holy Manna"
■ 讃美歌 "Abbeville"
■ 讃美歌 "Wondrous Love"
■ ゴスペル・ソング "Sweet Hour of Prayer"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "Jewett"
■ 讃美歌 "Dunlap's Creek"
■ 讃美歌 "New Britain"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "The Morning Trumpet"
■ 讃美歌 "Resignation"
■ 詩篇歌 "Poland"
■ 宗教的バラッド "Wayfaring Stranger"
■ ゴスペル・ソング "Sweet by and by"
■ フューギング・テューン "Blooming Vale"
■ 讃美歌 "Idumea" (I) (II)
■ 讃美歌 "Sweet Prospect"
■ ゴスペル・ソング "Shall We Gather at the River"
■ 詩篇歌 "Amanda"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "Invitation"
■ 讃美歌 "Parting Hand"
■ ゴスペル・ソング "Angel Band"
アノニマス 4
harmonia mundi FRANCE/HMU 907326
■ 讃美歌 "Holy Manna"
■ 讃美歌 "Abbeville"
■ 讃美歌 "Wondrous Love"
■ ゴスペル・ソング "Sweet Hour of Prayer"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "Jewett"
■ 讃美歌 "Dunlap's Creek"
■ 讃美歌 "New Britain"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "The Morning Trumpet"
■ 讃美歌 "Resignation"
■ 詩篇歌 "Poland"
■ 宗教的バラッド "Wayfaring Stranger"
■ ゴスペル・ソング "Sweet by and by"
■ フューギング・テューン "Blooming Vale"
■ 讃美歌 "Idumea" (I) (II)
■ 讃美歌 "Sweet Prospect"
■ ゴスペル・ソング "Shall We Gather at the River"
■ 詩篇歌 "Amanda"
■ キャンプ・リヴァイヴァル・ソング "Invitation"
■ 讃美歌 "Parting Hand"
■ ゴスペル・ソング "Angel Band"
アノニマス 4
harmonia mundi FRANCE/HMU 907326
もう、最初の一音から、テンション高過ぎ!エレキで増幅された弦楽四重奏が、マリアッチを繰り広げれば、毒々しく、最高にチープで、そんなサウンドに包まれると、メキシコの下町に拉致された気分。とにかく、クロノス・クァルテットの大胆さたるや... クラシックの取り澄ました気分をかなぐり捨てて、リアルなメキシコのディープへと躊躇なく踏み込んでゆく姿は、カッコ良過ぎ!一方で、そのカッコ良さを形にしているのが、アルゼンチン出身の現代音楽の鬼才、ゴリホフ(b.1960)によるアレンジ。フォルクローレからポピュラー・ミュージックまで、多彩な素材を扱いながら、この作曲家ならではの、露骨なラテン的なアプローチが、メキシコの持つカラーを鮮やかに活かし切り、時に露悪的であっても、それをきちんとテイストに昇華してしまう力技... ラテンの血を以ってして成されるアレンジには、中てられつつも、間違いなく魅了される。いや、この甘辛感がメキシコなのかもしれない。何より、人々が泣き笑い生活している街の情景が、そうしたノイズも拾って、活き活きと音楽としてまとめられての雄弁さ!何で、ここでトルコ行進曲(track.10)?!と、ツッコミを入れなくてはならないところもあるけれど、そうした禍々しさも含めて、ひとつのサウンド・スケープとして鳴り響く音楽は、ある種の交響楽のようにすら感じられる。
そうした中で、近現代のスペシャリスト集団、クロノス・クァルテットならではの選曲も... メキシコの作曲家、レブエルタス(1899-1940)の代表作、センセマヤ(track.6)を、弦楽四重奏とパーカッションによる版(プルツマンによるアレンジ... )で取り上げるのだけれど、これが、思いの外、おもしろい!オーケストラではなくて、弦楽四重奏というタイトな編成に刈り込んだことで、センセマヤのプリミティヴが、よりモダニスティックに尖って響いて、クール。そこに、クロノス・クァルテットらしい鋭い演奏が光り、このアルバムに強いスパイスを効かせる。しかし、マリアッチに、フォルクローレに、近代音楽まで、メキシコの音楽の多様性に眩惑される。
そして、このアルバムの魅力は、そのタイトルの通り、"NUEVO"、新しいこと!メキシコのスタンダードばかりでなく、カフェ・タクーバ(メキシコのロック・バンド)や、プランクトン・マン(メキシコのテクノ・ユニット)が取り上げられ、現代的な鋭い視点でメキシコをしっかりと活写しているところが、実に刺激的。それをまた、クロノス・クァルテットがしっかり消化しているところが凄い。
KRONOS QUARTET NUEVO
■ セベリアーノ・ブリセーニョ : シナロアの男 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ アウグスティン・ララ : たやすいこと 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ ファン・ガルシア・エスキベル : ミニ・スカート 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ 伝統歌 「涙を流す」 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕 *
■ アルベルト・ドミンゲス : ペルフィディア 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕
■ シルベストレ・レブエルタス : センセマヤ 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕 *
■ オスバルド・ゴリホフ : グアダルーペの聖母のための祭
■ マルガリータ・レクオーナ : タブー 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ ベリサリオ・ガルシア・デ・ヘスス & ホセ・エリソンド : 4つのとうもろこし畑 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕
■ ロベルト・ゴメス・ボラーニョ : チャボ組曲 〔アレンジ : リカルド・ガリャルド〕 **
■ アリエル・グジック : プラスマート 〔アレンジ : クロノス・クァルテット〕
■ チャリノ・サンチェス : ナチョ・ベルドゥスコ 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ カフェ・タクーバ : 12/12 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ プランクトン・マン : ダンス・リミックス 「シナロアの男」
クロノス・クァルテット
デヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)
ジョン・シェルバ(ヴァイオリン)
ハンク・ダット(ヴィオラ)
ジェニファー・カルプ(チェロ)
アレハンドロ・フローレス(ヴォーカル/ヴァイオリン) *
タンブッコ・バーカッション・アンサンブル *
ルナ・サンタオラージャ(ヴォーカル) *
グスターボ・サンタオラージャ(パーカッション) *
NONESUCH/7559-79649-2
■ セベリアーノ・ブリセーニョ : シナロアの男 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ アウグスティン・ララ : たやすいこと 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ ファン・ガルシア・エスキベル : ミニ・スカート 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ 伝統歌 「涙を流す」 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕 *
■ アルベルト・ドミンゲス : ペルフィディア 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕
■ シルベストレ・レブエルタス : センセマヤ 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕 *
■ オスバルド・ゴリホフ : グアダルーペの聖母のための祭
■ マルガリータ・レクオーナ : タブー 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ ベリサリオ・ガルシア・デ・ヘスス & ホセ・エリソンド : 4つのとうもろこし畑 〔アレンジ : スティーヴン・プルツマン〕
■ ロベルト・ゴメス・ボラーニョ : チャボ組曲 〔アレンジ : リカルド・ガリャルド〕 **
■ アリエル・グジック : プラスマート 〔アレンジ : クロノス・クァルテット〕
■ チャリノ・サンチェス : ナチョ・ベルドゥスコ 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ カフェ・タクーバ : 12/12 〔アレンジ : オスバルド・ゴリホフ〕
■ プランクトン・マン : ダンス・リミックス 「シナロアの男」
クロノス・クァルテット
デヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)
ジョン・シェルバ(ヴァイオリン)
ハンク・ダット(ヴィオラ)
ジェニファー・カルプ(チェロ)
アレハンドロ・フローレス(ヴォーカル/ヴァイオリン) *
タンブッコ・バーカッション・アンサンブル *
ルナ・サンタオラージャ(ヴォーカル) *
グスターボ・サンタオラージャ(パーカッション) *
NONESUCH/7559-79649-2
クロノス・クァルテットは、サンフランシスコを拠点に活動を続けています....
by サンフランシスコ人 (2016-02-26 07:43)