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西海岸、サイケにしてサイバー、ハーモニウム。 [before 2005]

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近頃、「リベラル・アーツ」という言葉をよく耳にする。中世に始まる大学の、その基本となった自由七科から発展し、現在の大学教育における基礎教養のことを指す言葉。で、グローバル化、少子化と、大学を取り巻く環境が大きく変わろうとする中、"教養"を、改めて見つめ直そうという動きがじわりじわりと盛り上がりを見せており、それが、「リベラル・アーツ」という言葉を耳にする機会を増やしているのだろう。ところで、自由七科には音楽が含まれていた。が、現代において音楽は"教養"足り得るのだろうか?現代人にとっての音楽は、娯楽。娯楽を"教養"として学ぶことに、21世紀は価値を見出せるだろうか?正直、自信はない... しかし、クラシックを様々に聴いていると、単に音楽を聴くだけではない、その地域の空気感や、その国の人々の性格までが透けて見えて来るようなところがあって... 音楽という、人々の生活に身近であるからこそ窺い知る、それぞれの地域や国々の本質もあるのかも。そう考えると、もっと実際的なものとして音楽を捉え、学ぶべき価値が見出せるように感じる。
てか、話しがデカくなってしまいました。ので、実際的に音楽を聴く... いや、空気感からアメリカ大陸の音楽を辿って来たのだけれど、前回、仄暗い東海岸の音楽を聴いたので、気分を変えて西海岸!エド・デ・ワールトの指揮、サン・フランシスコ交響楽団とその合唱団による、ジョン・アダムズのハーモニウム(ECM NEW SERIES/821 465-2)。初演者による初録音で聴く。

ジョン・アダムズ(b.1947)は、東海岸の出身(マサチューセッツ州、ウースターに生まれる... )で、ハーバード大学で音楽を学んだ後に、サン・フランシスコに移住。間もなくサン・フランシスコ音楽院で教え始め(1972-1983)、1979年から6年間、サン・フランシスコ響のレジデント・コンポーザーも務める。そして、この西海岸での充実した環境が、フリジアン・ゲート(1977)、シェイカー・ループス(1978)、『ニクソン・イン・チャイナ』(1985)など、ジョン・アダムズを代表する名作を次々に誕生させ、ミニマリズムをベースにしながらも、そこに留まらない、よりフレキシブルなスタイルを確立。閉塞感に覆われていた現代音楽に新たな風を吹き込み、現代音楽にして新鮮な感覚を聴き手にもたらしてくれた。そして、ここで聴くハーモニウム(1981)もまた、そうした作品のひとつで... 力強いオーケストラを伴奏に、ルネサンス期のイングランドの詩人、ジョン・ダンと、19世紀後半のアメリカの詩人、エミリー・ディキンソンの愛についての詩を、瑞々しいコーラスが、陶酔的に、圧倒的に歌い上げる!
そんなハーモニウムを久々に聴いてみると、まったく新鮮さを失っていないことに驚かされる。いや、またさらに新鮮!様々なイメージが喚起されて、もの凄く刺激的に感じられる... サイケデリックな時代(ミニマル・ミュージックが絶好調だった1960年代から70年代に掛けて... )の残り香だろうか、花のサン・フランシスコ、フラワー・ムーヴメントを感じさせる陶酔的な一方で、その南隣にある、先端技術が近未来を切り拓くシリコン・バレー的な臭いも漂い... オーケストラによるパルス、コーラスが繰り返す短いフレーズの、ミニマル・ミュージック的な表情は、サイケにも、サイバーにも聴こえておもしろい!というより、フラワー・ムーヴメントとシリコン・バレーという、相反するような存在が、不思議と一所に感じられる興味深さ... ヒッピーも先端技術も、解放的な西海岸気質の産物として、どこかで共鳴するのかもしれない。それを、今、感じさせてくれる、ハーモニウム。これが、クラシックにおけるウェスト・コースト・サウンドではないかと... で、カリフォルニアをリアルに感じられるような気がして来る。
一方で、その音楽を丁寧に聴き進めれば、様々に偉大なる過去が浮かび上がるのか... ルネサンス・ポリフォニーのヘブンリーさ、シューベルトの「グレイト」から繰り出されるリズミカルなパルス、ワーグナーの楽劇の情景を彩るトレモロ、ドビュッシーの印象主義が放つ瑞々しいサウンド... ハーモニウムには、何か壮大な音楽史そのものが読み込まれているようで、そういうものを感じ取ると、より大きな音楽が感じられる。それは、ストイックなミニマリズムを脱した、ポスト・ミニマリズムであるジョン・アダムズの音楽を象徴するクラシカルさ... クラシカルであることを厭わない屈託の無さにも、西海岸気質は見受けられるように思う。何より、そういうフレキシブルな姿勢があって、西欧の古典の英知にコンタクトして引き出されるマジカルさとでも言おうか... 第3部、ワイルド・ナイト(track.3)の圧倒的な盛り上がりは、ユニヴァーサル!聴くというより、体感するような音楽の在り様は、ただただエキサイティング!まさに、忘我の境地を味わうことに... そこに、音楽の魔法を感じてしまう。
で、その魔法をより際立ったものとしているのが、デ・ワールトが率いたサン・フランシスコ響とその合唱団。1981年のハーモニウムの初演は、彼らによってなされ、ここで聴く録音は、1984年の初録音。すでに30年以上の歳月が過ぎているわけだけれど、ディスクに籠められた新しい音楽と向き合う新鮮な気持ちと熱気は、今を以ってしても遜色無い。というより、生まれたばかりの作品の新鮮さが、そのままディスクに記録されているようで、スピーカーから流れて来るサウンドの真新しい輝きが眩しい!デ・ワールトのクリアさと、それに応えるサン・フランシスコ響の的確な演奏、さらに、美しいハーモニーを紡ぎながらも、熱気に充ちたコーラス!明晰さから生まれる熱さは、さらなる魔法を掛けるかのよう。

JHON ADAMS ・ HARMONIUM

ジョン・アダムズ : ハーモニウム

エド・デ・ワールト/サン・フランシスコ交響楽団、同合唱団

ECM NEW SERIES/821 465-2




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