バッハ、ケーテンでの充実、ブランデンブルク協奏曲。 [before 2005]
ベルリン・フィルの次の首席指揮者が決まりましたね。キリル・ペトレンコ... キリル・ペトレンコ?!えーっと、近頃のオーケストラ事情を丁寧に追っていないので、大したことは言えないのだけれど、ティーレマンとか、ネルソンスとか、そのような名前が挙がっている。というような話しは、何となく聞いていたのだけれど、キリル・ペトレンコ?本当に?自身の中では、ヴァシリーじゃない方の... みたいな位置付けだったから、感想の持ちようがなくて、うろたえております。CDばかり聴いている人にとって、録音がめっきり少ないキリル・ペトレンコは、どんな指揮者なのか把握しづらく... けど、振り返れば、それぞれの時代のオーケストラ・シーンを象徴する存在を的確に選んで来たのがベルリン・フィルであり、それは、ある種、預言めいたものすら感じるだけに、ベルリン・フィルというひとつのオーケストラに留まらず、次なるオーケストラ・シーンがどういうものになるかも含めて、キリル・ペトレンコが示す方向性が、楽しみ。そして、録音!彼らのファースト・リリースが何になるのか、興味津々!
さて、再びバッハに戻りまして... バッハもまた、ビッグ・ポストを狙って活動していたひとり。残念ながら、キリル・ペトレンコのようなビッグ・ポストは得られず... しかし、そんな就職活動の一環から、代表作のひとつが生まれた!ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコの、バッハ、ブランデンブルク協奏曲、全6曲(TELDEC/0630-17493-2)を聴く。
1717年、アンハルト・ケーテン侯の宮廷楽長に就任したバッハ。このケーテンでの仕事(1717-23)は、バッハの音楽人生に絶妙なスパイスとなった。質素な礼拝を旨とするカルヴァン派の侯爵家では、教会音楽は詩篇歌くらいなもので、教会カンタータなんてあり得ず、バッハの仕事は器楽作品にシフトすることに... なおかつ、主君、レオポルト候(在位 : 1704-28)が、大の音楽好き!ヴィオラ・ダ・ガンバ、ヴァイオリン、チェンバロを弾きこなし、さらにはバス歌手でもあったというから、ただの音楽好きとは話しが違う。そして、バッハがシェフを務めた、レオポルト候、自慢の宮廷楽団!規模こそ小さかったものの、解散されたプロイセン王の宮廷楽団(1713年、フリードリヒ・ヴィルヘルム1世の即位により、音楽から軍拡へ... )から腕利きをスカウト。さらに、ヴェネツィア帰りのハイニヒェン(バッハの2つ年上で、後にドレスデンの宮廷楽長となる... )も加えて、充実した演奏を繰り広げていたようで... こうした恵まれた環境が、バッハの創作を大いに刺激し、わずか6年のケーテン時代に、器楽作品の傑作を次々に生み出す。で、その集大成とも言える作品が、ここで聴くブランデンブルク協奏曲集...
「ブランデンブルク協奏曲」というと、どうも定番過ぎて、ユルいイメージがある。1番の1楽章から、何かこう締りが悪いようで... チャンチャンチャンと一本調子に刻まれる通奏低音のチェンバロに、彩りを添えるもチープに感じられるオーボエ、ブガブガと吹かれるホルン、それらが合奏協奏曲らしく、わっと鳴り響くと、まとまりに欠けるようで、バッハにしては華麗なのだけれど、何かもどかしい。しかし、それを、バロック・ロックを仕掛けたイタリアの気鋭のピリオド・オーケストラが手掛けると、どうなるか?いやー、彼ららしい息衝くサウンドが、バッハのケーテン時代を活き活きと蘇らせる!久々に聴いたからだろうか、こんなにも鮮やかだった?!と、驚いてしまう。そして、鮮やかに繰り広げられるバッハ・サウンドの輝かしさたるや!ケーテンの宮廷楽団の精鋭たちの、丁々発止でセッションしていただろう様子が、合奏協奏曲というスタイルからありありと立ち上がって来る。で、イル・ジャルディーノ・アルモニコというイタリアからの視点が、「ブランデンブルク協奏曲」に真新しいイメージを生むのか... バッハが取り込んだイタリア流のヴィッヴィット、ドラマティックが強調され、「バロック」としての魅力が引き立つ。3番の終楽章(disc.1, track.10)なんて、まるでヴィヴァルディを聴くよう!いや、こういう感覚こそ、ケーテン時代のバッハのリアルに近付いているように思う。ケーテンで生み出された作品に共通する漲る創意を、余すことなくすくい上げるイル・ジャルディーノ・アルモニコ。その沸き立つサウンドがたまらない!見事にフレッシュ!
さて、バッハにとってのケーテン時代の後半は、充実していたばかりではない。1720年に、最初の妻、マリア・バルバラを亡くし... 1721年にレオポルト候が迎えた候妃が音楽に無理解で... さらには、宮廷の財政状況が悪化、ケーテンでの音楽活動に陰りが見え始めるようになる。そうした中、ケーテンではなく、ブランデンブルク・シュヴェート辺境伯、クリスティアン・ルードヴィヒ(プロイセンの王族... )に献呈されたことで、「ブランデンブルク協奏曲」と呼ばれるこの協奏曲集、次なるポストを得るための、バッハのポートフォリオのようなものだったらしい。だからこそ、ケーテンでの成果が集大成のように響くのだろう。そしてそこには、音楽好きの侯爵と、腕利きの音楽家たちとの思い出がいっぱい詰まっているように思えて来る。ブランデンブルク協奏曲は、仲間たちとの輝かしい瞬間を閉じ籠めたアルバムなのかも... 今、改めて聴いてみると、偉大な作曲家、バッハのイメージとは一味違う姿が窺え、そんな姿を見出すと、ちょっぴり切ない。
Bach: Brandenburg Concertos ・ Il Giardino Armonico ・ Giovanni Antonini
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV 1049
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV 1050
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV 1051
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV 1052
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV 1053
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV 1054
ジョヴァンニ・アントニーニ/イル・ジャルディーノ・アルモニコ
TELDEC/0630-17493-2
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV 1049
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV 1050
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV 1051
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV 1052
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV 1053
■ バッハ : ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV 1054
ジョヴァンニ・アントニーニ/イル・ジャルディーノ・アルモニコ
TELDEC/0630-17493-2
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