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味わい深いギリシャ、人々に寄り添ったテオドラキスの魅惑。 [before 2005]

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あんまりにも実りの無い話しがグダグダ、グダグダと続くものだから、ギリシャへの関心は随分と薄れてしまいましたが、そろそろタイム・リミット... で、何でこうもグダグダなんだ?という素朴な疑問を抱き、ふと手に取った一冊、村田奈々子著、『物語 近現代ギリシャの歴史』を読んで、あらゆることに納得してしまった。いや、納得というか、目が醒めた!ずばり、「ギリシア」はファンタジーである。今、存在しているギリシャという国は、ファンタジー(白亜のパルテノンが象徴する古代の英知の数々に、アレクサンドロス大王の栄光!)を基に人工的に創られた国なのである。そして、幻想を基に国家など成り立ち得ない、からこその、顛末。これが、ニュースに映し出されるグダグダの正体なのだなと... しかし、忘れてならないのが、ファンタジーの下に実際のギリシャ(古代ローマとヘレニズム化したオリエントのハイブリットたるビザンチン文化に、スラヴ系、アジア系、バルカン半島にやって来た様々な民族、ヴェネツィア、ジェノヴァの商人たち少々、そして、オスマン・トルコ!を、混ぜこぜしての壮大なる混交物、ギリシャ... )が存在していること... このファンタジーに隠された実際のギリシャを音楽から探る。
シャルル・デュトワの指揮、モントリオール交響楽団らの演奏で、映画『その男ゾルバ』の音楽で知られる、ギリシャの国民的作曲家、テオドラキスの作品集(DECCA/475 613-0)。そのゾルバのバレエ版からの抜粋を中心に、ギリシャのサウンドに触れる。

ミキス・テオドラキス(b.1925)。
1964年の映画『その男ゾルバ』の音楽で世界的に知られる、近代ギリシャを代表する作曲家のひとり... が、その人生は近代ギリシャそのものを体現するように波乱に満ちている。2つ年上のマリア・カラス(1923-77)と同じアテネ音楽院で学び、ナチス・ドイツがギリシャに侵攻すると、3つ年上のクセナキス同様、レジスタンスに加わり活動。第2次大戦後のギリシャ内戦(1946-49)では左派の側に立ち、エーゲ海に浮かぶイカリア島へ島流しとなるも、内戦終結の翌年、無事にアテネ音楽院を卒業。その後、パリへと向かい(1954-59)、コンセルヴァトワールでメシアンに師事。最新の音楽に触れながら、その才能は頭角を見せ始め、巨匠、ミトロプーロス(1896-1960)にも期待される存在に... それから間もない頃に手掛けた仕事がゾルバとなる。
クレタ島を舞台としたゾルバの音楽(track.2-9)には、ギリシャ本土から離れたローカル性だろうか、多分に土の臭いが漂い、映画音楽を越えて、音楽そのものが力強く主張して来る。ここで聴くのは、映画公開後、12年を経た1976年、アテネ国立歌劇場バレエ団がバレエ化した時のもの、ということもあるかもしれない。しっかりとオーケストレーションされ、踊ることが強調された躍動する音楽は、どこかハチャトゥリアン(1903-78)を思い起こさせるところもある。ソヴィエトの作曲家にして、アルメニア人の作曲家でもあったハチャトゥリアンのスタイル、トーン... フォークロワをふんだんに取り込んで、わかり易く、パワフルにリズムを炸裂させる!そこには、左派、テオドラキスの、社会主義リアリズム的な性格もあったか?戦後「前衛」の時代に活躍しながら、"ゲンダイオンガク"というエリート主義とは距離を取り、ギリシャを生きる人々に寄り添ったテオドラキスの音楽は、ギリシャにおける国民楽派にも思える。そして、その素直な魅力にこそ、実際のギリシャの姿が浮かぶのか...
リトル・スター(track.3)の、ソプラノによって歌われるメロディーの、何とも言えずメローなあたり、ソング・ライターでもあったテオドラキスの才能が如何なく発揮されるナンバーは、たまらなく人懐っこく、聴く者の耳を捉えて離さない。で、何だろう?この感覚... センチメンタルなのだけれど、独特の甘さを含む、西欧には探せない味わい... マリーナ(track.4)で歌われる音楽には、ぼんやりとクレズマー(東欧系ユダヤ人、アシュケナジムの伝統音楽... )の雰囲気を感じたりして、東欧と近東を結ぶようなトーンがおもしろい。また、ツィターが彩りを添えるゾルバの踊り(track.8)では、『第三の男』のテーマを思わせる飄々とした表情を見せ、大いに盛り上げる野卑なリズムには、バルトークやコダーイを思わせるところもあって、ドナウ川流域、バルカン諸国との距離の近さも感じる。で、それらがごった煮となるとギリシャになる。そんなギリシャの魅惑!カッコつけることなく、というより、カッコ悪いくらいでカッコいい絶妙さ... 島の素朴さが息衝くゾルバに大いに魅了される。
そんな音楽をヴィヴィットに繰り広げる、デュトワ、モントリオール響。デュトワらしい発色のいいサウンドと、それを実現するモントリオール響の密度の濃い演奏が印象的で、テオドラキスの音楽への彼らの揺ぎ無い自信が、実際のギリシャをより雄弁に響かせる。そこに、味わい深い歌声を聴かるフォルティ(ソプラノ)の存在が効いていて... 彼女のほんのりフォークロワなトーン、どことなしにオリエンタルな表情が、素敵!さて、ゾルバの前後には、テオドラキスのクラシックでの仕事を聴く2つの作品、アダージョ(track.1)と、『謝肉祭』からの3つの小品(track.10-12)が取り上げられるのだけれど、こちらはフィルハーモニア管に替えて、クラシックの流麗さを際立たせるのか... この切り返しにデュトワの巧みさを感じる。テオドラキスの幅を2つのオーケストラで描き出す妙。さり気ないのだけれど、なかなか巧いなと...

MIKIS THEODORAKIS:ZORBAS SUITE-BALLEY / 3 PIECES FROM CARNAVAL, etc.
ORCHESTRE SYMPHONIQUE DE MONTRÉAL, etc. / CHARLES DUTOIT


テオドラキス : アダージョ 〔フルート、弦楽オーケストラとパーカッションのための〕 **
テオドラキス : バレエ組曲 『ゾルバ』 〔抜粋〕 **
テオドラキス : バレエ 『謝肉祭』 から 3つの小品組曲 *

シャルル・デュトワ(指揮)
ケネス・スミス(フルート) *
フィルハーモニア管弦楽団 *
モントリオール交響楽団、同合唱団 *
イオアナ・フォルティ(ソプラノ) *

DECCA/475 613-0




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