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優等生、メンデルスゾーンの底力、『エリアス』! [before 2005]

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旧約聖書を巡って、様々な時代の様々な作品を聴いて来たこの一ヶ月... 飽きるかな?なんて思ったけれど、いやいやいや... 物語は尽きないのが旧約聖書であって、"聖典"という本来の役割を忘れて、そのミラクルや悲劇にすっかり惹き込まれてしまう。だからこそ、古今の多くの作曲家にインスピレーションを与え、オラトリオにしろ、オペラにしろ、多くの作品が残されたわけだ。で、そうした作品の金字塔とも言える作品を聴いてみようかなと... ヘンデルの『メサイア』、ハイドンの『天地創造』と並び、三大オラトリオとして知られるメンデルスゾーンの『エリヤ』。実は、この作品が苦手だった。三大オラトリオと奉り上げられる一方で、何となく地味?『メサイア』の力強さ、『天地創造』の輝かしさに比べると、どうも食い付き難い。しかし、食らい付いてわかる旨味の凄さ!
そんな旨味を味わうピリオド・アプローチ... フィリップ・ヘレヴェッヘ率いる、シャンゼリゼ管弦楽団の演奏、ラ・シャペル・ロワイアル、コレギウム・ヴォカーレのコーラスで、メンデルスゾーンのオラトリオ『エリヤ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901463)を聴く。

旧約聖書を音楽で辿ると、おのずとオラトリオの歩みを追うことになる。最初のオラトリオ、カリッシミの『イェフタ』(ca.1645)を聴き、アレッサンドロ・スカルラッティの『カイン』(1707)を聴き、ヘンデルの『ソロモン』(1749)、ハイドンの『天地創造』(1798)を聴いて、そして、メンデルスゾーンの『エリヤ』(1846)を聴くのだけれど... それはまさにオラトリオの歩みそのもの。祈禱会での親密な雰囲気から、オペラと見紛うような華麗さを纏い、一気に進化したバロック期、その先にヘンデルの試行錯誤があって、再び"聖典"としての風格も取り戻し... そのヘンデルの晩年の大作、『ソロモン』を聴いた前回、カリッシミの『イェフタ』を思い出しながら、その音楽に改めて向き合うと、オラトリオの大成を噛み締めるようで、より感動的なのかもしれない。オペラとはまた違う端正な佇まい... 嗚呼、これが「オラトリオ」なのだなと... その『ソロモン』から100年、オラトリオの誕生から200年、メンデルスゾーンの『エリヤ』には、さらに深化したオラトリオの姿を目の当たりにし、さらなる感動を覚える!
バッハをリヴァイヴァルし、ヘンデルもオーケストレーションし直して取り上げたメンデルスゾーン。オラトリオを生み育てた時代、バロック期への造詣の深さが、『エリヤ』に、「オラトリオ」の歩みをしっかりと籠めるようで、より深い印象を与えるのか... 壮麗なコーラスにはバッハを、品位を漂わせるメロディーにはヘンデルの面影を感じ... それでいて、けして後ろ向きではない妙。音楽の雄弁さ、瑞々しさは、ロマン主義そのものであって... 古典へのリスペクトと、19世紀前半における現代の潮流としてのロマン主義への関心とを見事に結び生み出される音楽の充実感は、ちょっと他には探せないかも。また、音楽史切っての優等生なればこそ、「オラトリオ」という形式がはまる?オペラではなくオラトリオで傑作を残したメンデルスゾーンという作曲家の性格に、改めて興味深いものを感じる。一方で、エフタの悲劇や、ソロモンの雅やかさに比べれば、預言者、エリヤの物語は、ちょっと、地味... 宗教対決を描く第1部(disc.1)に、敵を倒したことで追われることになるエリヤ、その昇天とキリストの降誕が告げられる第2部(disc.2)、ドラマ性には薄さを感じるところもある。が、そういう点にじっくりと向き合うメンデルスゾーン。この「じっくり」が、物語から旨味を引き出していて... 今、改めて『エリヤ』を聴いてみると、端々からじわっと湧き上がる感動がたまらない。ドカンと派手な音楽をブチ上げるのではない、着実に感動を積み上げて行く『エリヤ』。そこには、これぞクラシック!という教科書のような姿があるのかもしれない。そういう手堅さがあって、しっかりと中身の詰まった音楽は、かえってただならないからおもしろい。優等生の底力に圧倒される。
そして、優等生の底力を、見事に引き出し切るヘレヴェッヘ!このマエストロならではの、スコアへの温かな眼差しが生む、有機的なサウンドは印象的で... シャンゼリゼ管によるピリオドとしての素直な音色、気負うことのない演奏が、作品の地力をナチュラルに響かせ、楚々としつつも、より大きな存在感を見せるよう。そこに、オラトリオの主役とも言える、ラ・シャペル・ロワイアルとコレギウム・ヴォカーレによるコーラスがしっかりと歌い上げ... 古い音楽を専門とするアンサンブルならではの澄んだハーモニーの特性を活かしつつ、それを2つ重ねることで、厚みを持たせ、力任せではない、肝の据わった重量感で、感動をより深いところから汲み上げる。さらに、雄弁に語り掛けるサロマ(バス)のエリヤを始めとする歌手たちの好演!要所、要所で、瑞々しい歌声を聴かせ、壮麗なオラトリオを美しく彩り、オーケストラ、コーラスと、絶妙なバランスで綾なす。そうして、生まれるより大きな感動。それは、静かに迫って来て、気が付くと圧倒的!

MENDELSSOHN ・ ELIAS
COLLEGIUM VOCALE ・ LA CHAPELLE ROYALE
ORCHESTRE DES CHAMPS-ÉLYSÉES
PHILIPPE HERREWEGHE


メンデルスゾーン : オラトリオ 『エリアス』 Op.70

エリヤ : ペリテ・サロマ(バス)
寡婦/天使 : ソイレ・イソコフスキ(ソプラノ)
王妃/天使 : モニカ・グロープ(アルト)
オバデヤ/アハブ : ジョン・マーク・エインズリー(テノール)
少年 : デルフィーヌ・コロ(ソプラノ)
ラ・シャペル・ロワイアル、コレギウム・ヴォカーレ
フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団

harmonia mundi FRANCE/HMC 901463




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