SSブログ

フランスの外から「フランス」を捉える... マスネ、フランク... [2006]

Alpha104.jpg
最近、神社の本をいくつか読む。で、神社について知らないことがいっぱいあることを思い知らされる。一方で、日本の神様について、実は、よくわかっていないことも多いらしいことを知る。つまり、本当の意味での日本のオリジナルとはどんなものだったか?記紀は多分に編集されているようだし、仏教ともハイブリットな期間が長かったわけだし、それをまた近代日本が強引にひっぺがしたことで、余計にオリジナルから遠くなったようなところもあるようだし、結局、オリジナルなんてものは幻想に過ぎないのかもしれない。裏を返せば、様々に外からの影響を受け歩んで来た道程こそが"オリジナル"と言えるのかも... 変容してゆく姿こそが、日本のオリジナル... それは一言で語り切れるような代物ではなく、安易に「日本的」なんて、ひとつのイメージで括ることはできない。
さて、この春、フランスを巡って来たのだけれど、フランスもまた、ひとつのイメージで括ることのできない国... 思いの外、ドイツ的でもあったシャブリエの音楽を聴いて、ふとそんなことを考えてしまう。そしてまたさらに、「フランス」というイメージを越えてゆく音楽を聴いてみようかなと... トルコのピアニスト、イディル・ビレットと、アラン・パリスの指揮、トルコのオーケストラ、ビルケント交響楽団の演奏で、マスネとフランクのピアノのための協奏的作品集(Alpha/Alpha 104)を聴く。

19世紀、パリの音楽シーンは、劇場が中心だった。ドイツ出身のマイアベーアにより一世を風靡する華麗なるグランド・オペラ、やっぱりドイツ出身のオッフェンバックによるオペラ・ブッフも欠かせない。イタリアからはベルカント・オペラに続いてヴェルディが人気を博し、フランスの作曲家たちはオペラ・コミックで斬り込んだ... それから、忘れてならないのが、ロマンティック・バレエ!なのだけれど、器楽作品となると、すっかり劇場の活況に隠れてしまい、先を行くドイツから随分と後れを取るような状況が続く... それを変えようという動きが、普仏戦争の敗戦を背景としたナショナリズムの高まりから生まれる。1871年、フランク(1822-90)、サン・サーンス(1835-1921)、ビゼー(1838-75)、マスネ(1842-1912)、フォーレ(1845-1924)ら、フランスの音楽史を築いた錚々たるメンバーが集い、国民音楽協会が設立され、オーケストラから室内楽まで、器楽作品を紹介するコンサートをスタート... フランス音楽は、劇場の外にも目を向け、新たな展開を見せることになる。
という背景から見つめる、フランス音楽におけるピアノのための協奏的作品... まずは、国民音楽協会で初演された、フランクの2作品、交響的変奏曲(track.4)と交響詩「魔人たち」(track.5)... フランクにとってのフランス音楽の復興は、ドイツに追い付くことであり、そこにはドイツ音楽への憧れが漂っている。交響的変奏曲(track.4)にはベートーヴェン風のリリシズムが、交響詩「魔人たち」(track.5)にはリスト流の灰汁の強さがあって、手堅い音楽を響かせる。で、おもしろいのは、そういうベースがあって、じわりじわりと「フランス」が主張し始めるところ。交響的変奏曲(track.4)などは特に、その"変奏"を経て、華麗に「フランス」が花開くようであり、ドイツを手本にフランスを復興させるというフランクの志向がそのまま形となって、それが何かひとつのサクセス・ストーリーのように聴こえて来て、絶妙!これがまた、映像的な印象をもたらすのか、ドイツの構築性が見事にフランス風に昇華され、聴き終えた後の心地が、映画を見終えたような余韻が残り、何とも言えず、味わい深い。
そして、このアルバムの最も興味深い1曲、マスネのピアノ協奏曲(track.1-3)!かのフランス・オペラの大家がコンチェルトを書いていたとは... という新鮮さがまずありつつ、オペラで見せるフランス流の抒情性とはまた一味違う、ドイツ・ロマン主義をしっかりと踏襲した聴き応えのある音楽が印象的。「スロヴァキアの歌」というタイトルが付けられた終楽章(track.3)では、文字通りの東欧風が繰り広げられ、国民楽派調の雰囲気ある音楽が魅惑的。で、この極めて19世紀的なコンチェルトが、1903年に初演(こちらは、国民音楽協会ではなくパリのコンセルヴァトワールにて... )されたというから、マスネの保守的なスタンスがくっきりと浮かび上がる。しかし、その古き良き時代を煮詰めたような音楽が放つ豊潤さたるや!ある意味、19世紀が終わったからこそ持てる視点でもあるのか?絵にかいたような「19世紀」が、雄弁に語り掛けて来るようで、おもしろい。
という、フランクとマスネを聴かせてくれるのが、またおもしろい面々でして... トルコを代表するピアニスト、ビレットをソリストに、フランスの指揮者、パリスに、彼がかつて率いた、トルコ、アンカラのビルケント大学に付属するというビルケント交響楽団の演奏... トルコという思い掛けない場所から捉えられるフランス音楽は、独特!ビレットのタッチは力強く硬質で、そのあたりがフランク、マスネに底流するドイツ流の手堅さを強調していて、興味深い。またオーケストラも、どこか無骨で、それぞれの作品に重さを与えて、交響詩「魔人たち」(track.5)のダークさ、「スロヴァキアの歌」(track.3)の野卑さは、いい具合に映え、印象的。どこか、キラキラとして軽い印象を受けるフランス音楽だけれど、トルコのセンスが、フランス音楽にまた違った表情を与えるケミストリー!この、イメージに囚われない冒険が、思いの外、刺激的!

MASSENET – FRANCK
Idil Biret – Bilkent Symphony Orchestra – Alain Pâris


マスネ : ピアノ協奏曲 変ロ長調
フランク : 交響的変奏曲 変ロ長調 〔ピアノとオーケストラのための〕
フランク : 交響詩 「魔人たち」 〔ピアノとオーケストラのための〕

イディル・ビレット(ピアノ)
アラン・パリス/ビルケント交響楽団

Alpha/Alpha 104




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。