春、フランスを巡る... [selection]
春の兆しを求めて、フランス音楽の黎明期、多声シャンソンの新しい潮流からコメディ・バレまでを辿って来たのだけれど、ここで、改めて、春に聴く「フランス」をセレクションしてみる試み。って、そもそも「フランス」って春なの?と、突っ込まれそうなのだけれど、どうも、当blog的には、春は「フランス」、というのが定番になっているようでして... 一年前、どんなCDを取り上げていたかなと見返すと、それこそ現存最古のバレエ、『王妃のバレ・コミック』に始まり、フランス革命の頃まで、フランス音楽史を追っていたり... さらにニ年前には、フォーレ、ロパルツ、ケクラン、さらにはフェヴァンに、ペロタンと... 意識して「フランス」を取り上げていたわけではないのだけれど、どうも春先になると、「フランス」が聴きたくなる?という自身の習性から導き出した、春は「フランス」。
明朗なるフランス音楽の春的性格を探りつつ、この春に聴きたい、春の匂いを漂わせるフランス音楽をセレクション。まだまだ肌寒く、桜の頃はまだ先ですが、一足先に音楽から春を感じてみる。ということで、冬の「北欧」に続いて、春、「フランス」を巡る。
アンサンブル・クレマン・ジャヌカンの"FRICASSÉE PARISIENNE"を取り上げた時にも書いたのだけれど、フランス音楽というのは、意外と明朗な印象を受ける。それは、ドイツにもイタリアにもない、独特な明朗さで... そんな明朗さに触れていると、フランスのイメージはちょっと変わるように思う。ヴェルサイユの絢爛さ、フランス料理の高級感、パリのモードのセレブ感、どこかお高くとまった、憧れの「おフランス」は、もっと気安いものとなって、屈託無く微笑みかけて来るようであり、そんな微笑みにちょっとドキドキさせられる(例えばドイツなら、微笑みはそうない。イタリアは楽しげだけれど、微笑みではない。というのは、あくまでも個人的な感想なのだけれど... )。花々しくも初々しい、ちょっと他には探せない感覚がフランス音楽にはあるように思う。そして、そういうフランス音楽が、春のイメージに重なるのか... そんな春が聴こえる8タイトルをセレクションしてみた。
まずは、サヴァール+ル・コンセール・デ・ナシオンの"L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"。ルイ13世の宮廷を彩った音楽(例えばゲドロンや、ボエセらの作品だったのだろう... )を、ルイ14世に仕えたアンドレ・ダニカン・フィリドールが再発見(1690)し、まとめたものを、サヴァールが21世紀に蘇らせるという凝った1枚。もちろん、音楽史的な興味深さもあるのだけれど、それよりも、このアルバムからこぼれ出すリュリ前夜のフランス音楽の瑞々しさに強く惹き付けられる。リュリが「バロック」の名の下に覆い隠してしまった、フランス音楽の素の表情の、さり気ないあたり... 勿体ぶることなく、シンプルに音楽を楽しむナチュラルな姿は、春のそよ風のよう!
それから、もう1枚、サヴァール+ル・コンセール・デ・ナシオンの演奏で、クープランの王宮のコンセール。リュリの次の世代にあたるフランス・バロックの大家の音楽は、リュリ流の「バロック」のヴォルテージがいい具合に醒め、かつてのフランス音楽の素の表情が息を吹き返す。そこに、新たな時代の「ロココ」というたおやかな性格も表れ始めて、ほのかに香しく... "L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"もそうなのだけれど、サヴァールならではの素朴な風合いが、「バロック」を絶妙に外す音楽に作用して、気の置け無さと、より味わい深い色合いを引き出す。最後には鳥のさえずりがさり気なく響き... この余韻!春の穏やかな日、そのもの...
さて、フランス音楽の中心は、次第にヴェルサイユからパリへと移る。すると、宮廷の音楽は王権のプロパガンダとしての役割を薄め、ロワイアル・ファミリーの私的なものに... そして、より親密に... そんな1枚、フランスのハーピスト、シャトロンの、マリー・アントワネットのサロンを再現する、"LE SALON DE MUSIQUE DE MARIE-ANTOINETTE"。自身もハープを奏で愛した王妃を包んだであろう、18世紀後半の趣味の良い音楽(当時のヒット・ナンバーもしっかりと押さえていて、流行への目敏さも... )の数々... まず、ピリオドのハープの、楚々としつつ凛とした響きが、野に咲く花のように可憐で、印象的。そんなハープが導く音楽は、とにかく、ラヴリー!
ここで、少しクラシックから離れまして、フランスの古謡を古楽アンサンブルが取り上げたならば... という興味深い1枚、デュメストル+ル・ポエム・アルモニークによる、"Plaisir D'amour"。アルバムのタイトルにもなっている、マリー・アントワネットの時代の流行歌、マルティーニの「愛のよろこび」(ちなみに、シャトロンも取り上げている... )や、キラキラ星の原曲、「ああ、もう聞いてよママ」など、馴染みのあるメロディーも聴こえて来て、歌の国、フランスの素の魅力を、古楽器の地味に溢れるサウンドで彩って、さり気なくシンプルに楽しませてくれる。そうして浮かび上がる、「フランス」の明朗さ!
さて、クラシックに戻りまして、デュトワが率いたフランス国立管による、プーランクの田園コンセールとフランス組曲... 擬古典主義にフランスの「田園」を持ち込むというおもしろさ!"Plaisir D'amour"から流れていたのと同じ、フランスの素の魅力を近代音楽に取り込んで、フランスならではの巧みな色使い(クラヴサンが絶妙!)で、活き活きと「田園」のサウンド・スケープを描き上げるプーランク。それは、心地良い西風に吹かれ、穏やかに過ごす春の野原だろうか?聴く者のイマジネーションを擽る表情豊かな音楽、演奏に、魅了される。
元気いっぱいの擬古典主義から、しっとりと印象主義へ... アンサンブル・イニシウムとアンサンブル・コントラストによる、ケクランの室内楽作品集。ちょっと物ぐさなドビュッシーをサポートして、オーケストレーションを手掛けたりと、どことなしに脇役的なイメージもなくもないケクランだけれど、その作品に改めて触れてみれば、この作曲家の鋭敏な感性に感じ入る。何より、その美しい響き!室内楽だと、これが、より際立ち... 濁りの無い印象主義は水彩画のようで、その瑞々しさ聴き入るばかり。そして、この淡さが、春霞のようで、もう...
というケクランをもう1枚、ホリガーの指揮、シュトゥットガル放送響による、ケクランによるオーケストレーション集、"Magicien orchestrateur"。ケクランのアルバムなのだけれど、ドビュッシーの『カンマ』に始まり、フォーレの『ペレアス... 』、シューベルト、シャブリエ、自身の作品も含め、多彩な音楽が繰り広げられる。が、やっぱりケクランの鋭敏な感性が際立つおもしろさ!オーケストレーションというと、色の多さを誇るようなところがあるけれど、ケクランはその真逆を行く。だからこそ得られる透明感と、かえって発色が良くなるという魔法。そうして活きて来るオリジナル... ドビュッシーもフォーレもみな瑞々しく、ふんわりと香るサウンドが印象的。
最後は、ヒューイットが弾く、シャブリエのピアノ作品集。お洒落な「フランス」を、さらりとピアノに乗せて、魅惑的な音楽を繰り出して来るシャブリエ。ドビュッシーやラヴェルのように、「フランス」からエッセンスを抽出して、自身の個性に反映されるのとは違う、もっとシンプルに、ダイレクトに、「フランス」そのものを用いてしまう屈託の無さが、かえって新鮮!そこからシャンパンのように弾ける、分かり易い「フランス」な気分が、何とも言えず心地良く、ふわっと酔わせてくれる。また、ヒューイットのナチュラルなタッチが、そんなシャブリエの魅力を卒なく輝かせ、そのキラキラと光る音楽に触れていると、何だかウキウキしてしまう。春と共鳴して?
という8タイトル。春にどうかなと... もちろん、安易に「フランス」を春のイメージに押し込めてしまうわけには行かないけれど、春に「フランス」を聴くと、その明朗さが映えて、ヒューイットのシャブリエのピアノ作品集ではないけれど、ウキウキさせてくれる。際立って楽しいわけじゃないけれど、風の中に花々の香りを見つけた時のような、ちょっとハッピーになれる... いや、密やかに心を豊かにしてくれるそんな魔法が、「フランス」の素の音楽、そうした表情を活かした作品にはあるような気がする。だから、春は「フランス」。で、この春、もう少しフランス音楽の諸々を聴いてみたいなと... いろいろと...
明朗なるフランス音楽の春的性格を探りつつ、この春に聴きたい、春の匂いを漂わせるフランス音楽をセレクション。まだまだ肌寒く、桜の頃はまだ先ですが、一足先に音楽から春を感じてみる。ということで、冬の「北欧」に続いて、春、「フランス」を巡る。
アンサンブル・クレマン・ジャヌカンの"FRICASSÉE PARISIENNE"を取り上げた時にも書いたのだけれど、フランス音楽というのは、意外と明朗な印象を受ける。それは、ドイツにもイタリアにもない、独特な明朗さで... そんな明朗さに触れていると、フランスのイメージはちょっと変わるように思う。ヴェルサイユの絢爛さ、フランス料理の高級感、パリのモードのセレブ感、どこかお高くとまった、憧れの「おフランス」は、もっと気安いものとなって、屈託無く微笑みかけて来るようであり、そんな微笑みにちょっとドキドキさせられる(例えばドイツなら、微笑みはそうない。イタリアは楽しげだけれど、微笑みではない。というのは、あくまでも個人的な感想なのだけれど... )。花々しくも初々しい、ちょっと他には探せない感覚がフランス音楽にはあるように思う。そして、そういうフランス音楽が、春のイメージに重なるのか... そんな春が聴こえる8タイトルをセレクションしてみた。
まずは、サヴァール+ル・コンセール・デ・ナシオンの"L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"。ルイ13世の宮廷を彩った音楽(例えばゲドロンや、ボエセらの作品だったのだろう... )を、ルイ14世に仕えたアンドレ・ダニカン・フィリドールが再発見(1690)し、まとめたものを、サヴァールが21世紀に蘇らせるという凝った1枚。もちろん、音楽史的な興味深さもあるのだけれど、それよりも、このアルバムからこぼれ出すリュリ前夜のフランス音楽の瑞々しさに強く惹き付けられる。リュリが「バロック」の名の下に覆い隠してしまった、フランス音楽の素の表情の、さり気ないあたり... 勿体ぶることなく、シンプルに音楽を楽しむナチュラルな姿は、春のそよ風のよう!
それから、もう1枚、サヴァール+ル・コンセール・デ・ナシオンの演奏で、クープランの王宮のコンセール。リュリの次の世代にあたるフランス・バロックの大家の音楽は、リュリ流の「バロック」のヴォルテージがいい具合に醒め、かつてのフランス音楽の素の表情が息を吹き返す。そこに、新たな時代の「ロココ」というたおやかな性格も表れ始めて、ほのかに香しく... "L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"もそうなのだけれど、サヴァールならではの素朴な風合いが、「バロック」を絶妙に外す音楽に作用して、気の置け無さと、より味わい深い色合いを引き出す。最後には鳥のさえずりがさり気なく響き... この余韻!春の穏やかな日、そのもの...
さて、フランス音楽の中心は、次第にヴェルサイユからパリへと移る。すると、宮廷の音楽は王権のプロパガンダとしての役割を薄め、ロワイアル・ファミリーの私的なものに... そして、より親密に... そんな1枚、フランスのハーピスト、シャトロンの、マリー・アントワネットのサロンを再現する、"LE SALON DE MUSIQUE DE MARIE-ANTOINETTE"。自身もハープを奏で愛した王妃を包んだであろう、18世紀後半の趣味の良い音楽(当時のヒット・ナンバーもしっかりと押さえていて、流行への目敏さも... )の数々... まず、ピリオドのハープの、楚々としつつ凛とした響きが、野に咲く花のように可憐で、印象的。そんなハープが導く音楽は、とにかく、ラヴリー!
ここで、少しクラシックから離れまして、フランスの古謡を古楽アンサンブルが取り上げたならば... という興味深い1枚、デュメストル+ル・ポエム・アルモニークによる、"Plaisir D'amour"。アルバムのタイトルにもなっている、マリー・アントワネットの時代の流行歌、マルティーニの「愛のよろこび」(ちなみに、シャトロンも取り上げている... )や、キラキラ星の原曲、「ああ、もう聞いてよママ」など、馴染みのあるメロディーも聴こえて来て、歌の国、フランスの素の魅力を、古楽器の地味に溢れるサウンドで彩って、さり気なくシンプルに楽しませてくれる。そうして浮かび上がる、「フランス」の明朗さ!
さて、クラシックに戻りまして、デュトワが率いたフランス国立管による、プーランクの田園コンセールとフランス組曲... 擬古典主義にフランスの「田園」を持ち込むというおもしろさ!"Plaisir D'amour"から流れていたのと同じ、フランスの素の魅力を近代音楽に取り込んで、フランスならではの巧みな色使い(クラヴサンが絶妙!)で、活き活きと「田園」のサウンド・スケープを描き上げるプーランク。それは、心地良い西風に吹かれ、穏やかに過ごす春の野原だろうか?聴く者のイマジネーションを擽る表情豊かな音楽、演奏に、魅了される。
元気いっぱいの擬古典主義から、しっとりと印象主義へ... アンサンブル・イニシウムとアンサンブル・コントラストによる、ケクランの室内楽作品集。ちょっと物ぐさなドビュッシーをサポートして、オーケストレーションを手掛けたりと、どことなしに脇役的なイメージもなくもないケクランだけれど、その作品に改めて触れてみれば、この作曲家の鋭敏な感性に感じ入る。何より、その美しい響き!室内楽だと、これが、より際立ち... 濁りの無い印象主義は水彩画のようで、その瑞々しさ聴き入るばかり。そして、この淡さが、春霞のようで、もう...
というケクランをもう1枚、ホリガーの指揮、シュトゥットガル放送響による、ケクランによるオーケストレーション集、"Magicien orchestrateur"。ケクランのアルバムなのだけれど、ドビュッシーの『カンマ』に始まり、フォーレの『ペレアス... 』、シューベルト、シャブリエ、自身の作品も含め、多彩な音楽が繰り広げられる。が、やっぱりケクランの鋭敏な感性が際立つおもしろさ!オーケストレーションというと、色の多さを誇るようなところがあるけれど、ケクランはその真逆を行く。だからこそ得られる透明感と、かえって発色が良くなるという魔法。そうして活きて来るオリジナル... ドビュッシーもフォーレもみな瑞々しく、ふんわりと香るサウンドが印象的。
最後は、ヒューイットが弾く、シャブリエのピアノ作品集。お洒落な「フランス」を、さらりとピアノに乗せて、魅惑的な音楽を繰り出して来るシャブリエ。ドビュッシーやラヴェルのように、「フランス」からエッセンスを抽出して、自身の個性に反映されるのとは違う、もっとシンプルに、ダイレクトに、「フランス」そのものを用いてしまう屈託の無さが、かえって新鮮!そこからシャンパンのように弾ける、分かり易い「フランス」な気分が、何とも言えず心地良く、ふわっと酔わせてくれる。また、ヒューイットのナチュラルなタッチが、そんなシャブリエの魅力を卒なく輝かせ、そのキラキラと光る音楽に触れていると、何だかウキウキしてしまう。春と共鳴して?
という8タイトル。春にどうかなと... もちろん、安易に「フランス」を春のイメージに押し込めてしまうわけには行かないけれど、春に「フランス」を聴くと、その明朗さが映えて、ヒューイットのシャブリエのピアノ作品集ではないけれど、ウキウキさせてくれる。際立って楽しいわけじゃないけれど、風の中に花々の香りを見つけた時のような、ちょっとハッピーになれる... いや、密やかに心を豊かにしてくれるそんな魔法が、「フランス」の素の音楽、そうした表情を活かした作品にはあるような気がする。だから、春は「フランス」。で、この春、もう少しフランス音楽の諸々を聴いてみたいなと... いろいろと...
タグ:フランス
コメント 0