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ルイ13世の時代、リュリ前夜の多彩さ、ボエセ... [before 2005]

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ルネサンス後半からバロックに掛けてのフランス音楽が、とても魅力的に感じる。音楽史という大きな流れ... ルネサンスからバロックへ、フランドルからイタリアへ、ポリフォニーからモノディへ、というダイナミックな転換を俯瞰すると、フランス音楽は、ちょっと脇に追いやられ、地味な印象もある。しかし、メインストリームから外れた独自の展開、フレンチ・ローカルが育むナチュラルなセンスは、クラシックというジャンル、古楽というカテゴリーを越えた魅力を漂わせるのか、より音楽として惹き込まれる。いや、「フランス」という個性は、印象主義や6人組ばかりでなく、ぐんと時代を遡ってもなお輝きを放つ。ルネサンス後半からバロックに掛けては、また格別に!
というフランス音楽... 前回、聴いた、ゲドロンに続く世代... ヴァンサン・デュメストル率いる、ル・ポエム・アルモニークの、ボエセのバレ・ド・クールからのナンバーを中心に、当時のフランスの宮廷を垣間見るアルバム、"Je meurs sans mourir"(Alpha/Alpha 057)を聴く。

アントワーヌ・ボエセ(1586-1643)。
3つ年上にフレスコバルディ(1583-1643)、ひとつ年上にシュッツ(1585-1672)と、初期バロックを彩った巨匠たちと同世代のボエセ。シャンブルの音楽監督、ゲドロンの娘と結婚し、やがてそのポストを引き継ぎ、ルイ13世(在位 : 1610-43)の宮廷で活躍。特に、踊ることに熱狂した王(太陽王の父... )のために、バレ・ド・クールの音楽を多く手掛け、リュリの登場を準備するような格調をバレ・ド・クールに加える(大規模なコーラスで始まる入場付きバレエ、"バレ・ア・アントレ"というスタイルを確立... )。で、ゲドロンを聴いてからボエセに触れると、拡充され密度を増した音楽の姿に目を見張る。フランスらしさをそのままに、素材重視の瑞々しい音楽を繰り広げていたゲドロンに対して、ボエセは、より同時代の音楽に注視し、総合的な形を模索するのか。フランスらしいメローさ、キャッチーさとともに、生まれて間もないイタリアのオペラを意識するようなところもあり、様々なスタイルをカクテルし、より豊潤な響きを紡ぎ出す。そこに、スペインというスパイスが加わる、おもしろさ!
当時のフランスは、スペイン・ブーム?宮廷では、スペイン・ハプスブルク家から嫁いで来た王妃、アンヌの存在もあっただろう... のっけから、ギターの音色が心地良く流れ出し、ほんのりスパニッシュ。かと思うと、太鼓が鳴り、どことなしに南米のバロックな色合いも?スペインの民衆劇を題材にスペイン語で歌われる1曲目、「音楽を」は、リズミカルで楽しげ。ギターの軽快な伴奏に乗って歌われる「ついにこの女羊飼いは」(track.13)のメロディーは、ちょっと渋目にラテンな雰囲気で、ニュー・メキシコの砂漠にさすらいの女ガンマン登場!みたいなカッコよさ。歌詞はフランス語、もちろんボエセの作曲だけれど、何このテイスト... そして、スペイン語で歌われる「野原の甘美な風よ」(track.16)の哀愁が沁みる。けど、どことなしにフランスの色合いも滲んで不思議なカクテルを生み出す。そこに、決定打!当時のパリで人気を集めたスペインからやって来たギタリスト、ブリセーニョのラ・グラン・チャコンナ(track.17)。17世紀、ヨーロッパを熱狂させた南米発のチャコーナ・ブームを物語る、ダンサブルなナンバーは、その軽快さ、景気の良さに、21世紀を生きる現代人の心も浮き立たせるはず。
もちろん、「フランス」としての個性も、一世代前のゲドロンから一段と進化したものがあり、ダンス・ナンバーの充実ぶりは、リュリ後のラモーのオペラ・バレを思わせるようなところもあり、実に多彩で表情豊か。軽妙にリズムが弾ける勇敢な戦士たちのバレ(track.6)なんて、最高!そんなダンスに差し挟まれたレシ(レチタティーヴォに相当する... )の数々がまた印象的。ムネモシュネのレシ「何という美しさ、おお人間たちよ」(track.10)の力強さは、リュリのトラジェディ・リリクを先取っていて、続く"時"のレシ「私はあらゆるものを盗むが」と「泥棒だ、助けてくれ、皆来てくれ」(track.11)の緊張感のある展開は、太陽王のバレエ引退後のオペラそのもの。フランス・オペラならではのドラマティックさが、すでに存在していることが興味深い。しかし、「バレ・ド・クール」とは何とも不可解だ。バレエの前段階として認識されているわけだけれど、そこにはオペラ的要素が多分に含まれていて、ある意味、未分化な状態。そして、これらが観衆のためのものではなく、踊り手のためにあるということ... 強引にバレ・ド・クールを現代に置き換えるならば、盆踊りとなるだろうか?参加して初めて完結するという特異な芸術。その後のパフォーミング・アーツの概念を度外視した、秘めたる可能性をそこに感じたり...
さて、ゲドロンに続いてのデュメストル+ル・ポエム・アルモニークなのだけれど。より規模が大きくなって、音楽的にも密度を増したボエセの音楽、その時代を、彼らならではの洗練と、肩の力が抜けたふんわりとしたトーンでまとめ上げて、素敵。それでいて、リュリ前夜の音楽というものを意識させる堂々たる歌と演奏を繰り広げ、古楽という段階からバロックという次元へナチュラルにシフト、ゲドロンとはまた違った充実を卒なく聴かせてくれる。そこに、息の合ったアンサンブルが生み出す、丁々発止のスリリングさもあって、特にダンスでのスパークするリズムには痺れてしまう。アルバム全体は情感豊かに、しっとりと、お洒落でもあるのだけれど、時折やって来る胸空くような瞬間の、爽快感がたまらない。

BOESSET Je meurs sans mourir
Le Poème Harmonique - Vincent Dumestre


ボエセ : 音楽を
ボエセ : 出発を急がねばならない
ボエセ : 狂人と脳障害者のバレ
ボエセ : 勇敢な戦士たちのバレ
ボエセ : シレーヌのレシ 「どんな季節はずれの太陽が」
ボエセ : アンフィオンとシレーヌたちのレシ 「何と甘美な拷問」
ボエセ : 眠りの神のレシ 「何とすばらしい冒険か」
ボエセ : ムネモシュネのレシ 「何という美しさ、おお人間たちよ」
ボエセ : "時"のレシ 「私はあらゆるものを盗むが」 と 「泥棒だ、助けてくれ、皆来てくれ」
ボエセ : 私は死ぬことなく息絶える
ボエセ : ついにこの女羊飼いは
ボエセ : どこに行くのか、残酷な女よ
ボエセ : 従僕たちのアントレ
ボエセ : 野原の甘美な風よ
ブリセーニョ : ラ・グラン・チャコンナ
コンスタンタン : ラ・パシフィク
ボエセ : おお、神よ!
ボエセ : 私たちの自由で満足した心は

ヴァンサン・デュメストル/ル・ポエム・アルモニーク

Alpha/Alpha 057




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