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グリーグ、「北欧」のロマンティシズムの独自の進化の萌芽... [before 2005]

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さて、生誕150年、ニールセン、シベリウスを切っ掛けに、冬、北欧を巡ったのだけれど... 北欧の音楽を改めて「北欧」として聴いてみる興味深さ!けして一括りにはできない、多彩な音楽性を見出しながらも、「北欧」に通底する独特な感覚を見出し、大いに惹き込まれる。この感覚は何だろう?空気の振動によって伝わる音の性質だろうか?「北欧」の大気から来るもの?作曲家を育んだ空気感というのは、音楽が生み出されるにあたり、重要なファクターになるのかもしれない。冷たくも澄んだ空気の中で生まれる音の鋭敏さ、透明感... 「北欧」の音楽は、エキゾティシズムではなく、分子レベルから読み解くことができるのかもしれない。
そんなイメージを以って、もう少し、冬、北欧を巡ってみようかなと... で、北欧を代表する作曲家、グリーグ!ミハイル・プレトニョフのピアノで、グリーグのピアノ・ソナタに、『抒情小品集』から11曲(Deutsche Grammophon/459 671-2)などを聴く。

3つ年上にチャイコフスキー(1840-1893)、2つ年上にドヴォルザーク(1841-1904)、ひとつ年下にリムスキー・コルサコフ(1844-1908)... という風に、グリーグ(1843-1907)の同世代の作曲家たちを並べてみると、グリーグがどういう時代を生きた作曲家なのか、掴み易くなる。と同時に、グリーグが生きた時代、ロマン主義がドイツからヨーロッパ全体へと広がり、やがて国民楽派が興隆する姿が見えて来るようで... そうか、そういう流れの中にいた人なんだと、今さらながらにグリーグという存在を再認識させられる。いや、普段、ピアノ協奏曲に、『ペール・ギュント』くらいで、あまりに漠然と捉えていたことを反省...
そうしたところから聴く、グリーグのピアノ作品。まず、最初は、ライプツィヒ音楽院での留学(1858-1861)を経て、コペンハーゲンでゲーゼに付いて学んでいた頃(1863-66)、ちょうど今から150年前(ここで、ニールセン、シベリウスが誕生!)、1865年、グリーグ、22歳になる少し前に書かれた作品、ピアノ・ソナタ(track.1-4)。ドイツ・ロマン主義をしっかりと自分の物として、きっちりとした佇まいを見せるその音楽は、思いの外、端正で、ロマン主義にしては、幾分、楚々としながらも、瑞々しく、20代前半にして、グリーグは、音楽に対する独自の温度感を見出していたのか... ロマン主義というと、どこか若気の至り的なノリ、時にヤリ過ぎ感があるわけだけれど、若きグリーグは、抑制を利かせて、ロマンティックではあっても、ちょっと大人びた表情をそのピアノ・ソナタに籠める。本場、ドイツとはわずかに距離を置くような、程好いシンプルさが生む瑞々しさ!これが耳に心地良い。一方で、1楽章からは、「山の魔王の宮殿にて」のフレーズが、一瞬、聴こえて来るような... 瑞々しく美しいピアニズムに、あの灰汁の強いフレーズが、ほんのわずか顔を覗かせるデジャヴュは、思い掛けないスパイス。
さて、ピアノ・ソナタの後に聴く7つのフーガ(track.5-11)は、ライプツィヒ音楽院時代、1861年に作曲された習作。で、そのタイトルの通り、7つのフーガが繰り出されるのだけれど... バッハの街で学んでいるからか、バッハを思わせる生真面目さ、極めて古風なる渋いテイストに、びっくり。けれど、そこにもまた、グリーグの音楽が持つ温度感が感じられて... 少しドライに繰り広げられるフーガ、その対位法の在り様は、ちょっと音列音楽を思わせる、ひんやりとした感覚を生み... 作曲を学ぶ上での必須科目、対位法だからこそ、グリーグの音楽性が炙り出されるところもあるなと... そこから、グリーグのライフ・ワークとも言える、生涯を掛けて全10集を送り出したピアノ小品集、『抒情小品集』からの11曲(track.12-23)が取り上げられるのだけれど。ピアノ・ソナタ、7つのフーガを聴いてから触れる『抒情小品集』は、そのシンプルさが際立ち、大陸のロマン主義にはない楚々とした佇まいが印象的。それでいて、どこか俳句に似て、瞬間、瞬間の刹那が生む瑞々しさに、思いの外、惹き付けられる。場合によっては、そのシンプルさに、19世紀(ヴィルトゥオーゾたちが彩った過剰な時代... )の作品であることを忘れさせられるところも... サティを予感させるエアリーさ、シルヴェストロフへと通じるノスタルジックさ、ブライアーズを思わせるアンビエントさ... そんな、時代を超越するような感覚に魅了されつつ、ニールセン、シベリウスを待つまでもなく、「北欧」のロマンティシズムの独自の進化を遂げる因子を見出すようで、おもしろい。
そして、プレトニョフのピアノ!まず、その響きの美しさに耳が奪われる。ピアノというマシーンが生み出す端正なサウンドをそのまま活かし切り、克明にスコアを捉えて生み出される清廉な響き... 繊細ではあっても、けしてナイーヴにはならない、芯の強さを感じさせるプレトニョフのタッチは、グリーグの音楽のより深いところまでを見通すかのよう... また、見通されて生まれる、グリーグの音楽の新鮮さ!ロマン主義ではあっても、けしてロマンティックに流されず、淡々と音楽を構築してゆく実直さが、独特な爽やかさへとつながり、心地良さを生む。その心地良さには、現代的な感覚も浮かび... プレトニョフは、グリーグをクラシックの重苦しさから解き放つよう。そうして味わう、ジャンルに捉われないグリーグの魅力。そこには、「北欧」が間違いなく作用している。「北欧」という周縁性が生んだセンスは、やっぱりクールだ。

GRIEG: PIANO SONATA OP.7/SEVEN FUGUES/LYRIC PIECES/CARNIVAL SCENE
MIKHAIL PLETNEV


グリーグ : ピアノ・ソナタ ホ短調 Op.7
グリーグ : 7つのフーガ
グリーグ : 鐘の音 Op.54-5 〔『抒情小品集』 第5集 から〕
グリーグ : 子守歌 Op.38-1 〔『抒情小品集』 第2集 から〕
グリーグ : 蝶々 Op.43-1 〔『抒情小品集』 第3集 から〕
グリーグ : メロディー Op.47-3 〔『抒情小品集』 第4集 から〕
グリーグ : スケルツォ Op.54-5 〔『抒情小品集』 第5集 から〕
グリーグ : 春に寄す Op.43-6 〔『抒情小品集』 第3集 から〕
グリーグ : トロールハウゲンの婚礼の日 Op.65-6 〔『抒情小品集』 第8集 から〕
グリーグ : バラード Op.65-6 〔『抒情小品集』 第8集 から〕
グリーグ : 小川 Op.62-4 〔『抒情小品集』 第7集 から〕
グリーグ : 過ぎ去った日々 Op.57-1 〔『抒情小品集』 第6集 から〕
グリーグ : おばあさんのメヌエット Op.68-2 〔『抒情小品集』 第9集 から〕
グリーグ : ドワーフの行進 Op.54-2 〔『抒情小品集』 第5集 から〕
グリーグ : 謝肉祭より 〔『田園生活の情景』 Op.19 から 第3曲〕

ミハイル・プレトニョフ(ピアノ)

Deutsche Grammophon/459 671-2




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