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生誕150年、シベリウスをアンチ・メインストリームとして聴いてみる。 [before 2005]

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今から150年前、ミュンヒェンの宮廷歌劇場にて、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が初演される。そこから、瞬く間にヨーロッパ中に広がった「ワーグナー」という魔法。魔法に掛かったロマン主義は一気に爛熟期へ... そんな1865年、デンマークにニールセン、フィンランドにシベリウスが、ロシアにはグラズノフ、フランスにはデュカスが生まれた。今年、生誕150年のメモリアルを迎える作曲家たちの存在を改めて見つめると、なかなかおもしろい。「ワーグナー」という魔法に掛かって生まれた世代でありながら、やがて近代音楽の大波が逆巻く20世紀を渡って行くことになる彼らの宿命... 独自の進化を遂げた北欧の2人に対して、時代の流れなど意に反さず、マイ・ペースを貫いたグラズノフ、ロマン主義から脱しようと苦闘したデュカス... 過渡期なればこそ際立つそれぞれの生き様が、思い掛けなく魅惑的な音楽世界を生み出すのか。何より、そうした個性たちを生み出した"1865年"の興味深さ!その後の音楽史の展開を見つめれば、"1865年"が実に感慨深いなと...
さて、先日、パーヴォ・ヤルヴィの指揮で、シベリウスのオペラを聴いたのだけれど、今度は、パーヴォの父、ネーメ・ヤルヴィが率いたイェーテボリ交響楽団の演奏で、シベリウスの交響詩を中心とした管弦楽作品集(Deutsche Grammophon/457 654-2)を聴く。

ロマン主義が充満する中、音楽を学び、フィンランドの独立運動を背景に、国民楽派としてフィンランドに根差した音楽を摸索したシベリウス。そうして生まれた音楽は、フォークロワなテイストも巧みに引き込みながら、20世紀に入ってからもロマンティックで、北欧の雄大な自然を見事に捉え、聴く者を魅了する。そう、そんなシベリウスが大好きなのだ... が、このメモリアルを切っ掛けに、じっくりとシベリウスと向き合ってみると、また違ったシベリウス像を見出せるようで、何だかとても刺激的に感じる。そして、それを強く感じたのが、ネーメ、イェーテボリ響による管弦楽作品集。久々に聴いてみると、何だか発見が多くて、驚かされる。裏を返せば、これまであまりにステレオタイプにシベリウスを認識していたということか?いや、シベリウスは刺激的!
で、その始まりが、交響詩「エン・サガ」。ウィーン留学を終えて間もなくの頃、26歳の若きシベリウスが、北欧神話を綴った中世アイスランドの叙事詩、『サガ』を題材に作曲した作品。で、20分弱という堂々の規模を誇り、中世の叙事詩の仄暗さ、謎めいた雰囲気、プリミティヴさを巧みに響かせつつ、そこに浮かぶ素朴でキャッチーなメロディーのインパクトたるや!この独特なトーンは、ショスタコーヴィチを予感させるところがあって、驚かされる。もちろん、ロマン主義ならではのドラマティックさ、瑞々しさもあり、そういうシベリウスらしさも魅力的なのだけれど、北欧の透明感とはまた違う、東欧を思わせる土着性が漂うのか... で、東欧をより意識させられるのが、悲しいワルツ(track.3)。その悲しげな表情ももちろんなのだけれど、どこかアイロニーを含んだ3拍子を聴いていると、ショスタコーヴィチのワルツを思い出し、おおっ?!となる。そして、1926年の作品、シベリウスの集大成とも言える交響詩「タピオラ」(track.8)の沈鬱さ、後半の執拗さには、間違いなくショスタコーヴィチへとつながるサウンドが聴こえ、20世紀のメインストリームからは外れた、独特な感性の成熟に圧倒される。
シベリウスがもう少し作曲を続けていたなら、やがてショスタコーヴィチ的な音楽が生まれていたのでは?シベリウス作品の中から響く、ショスタコーヴィチを思わせるアイロニー、マッドさ、厳しさを手繰り寄せれば、北欧にして、北欧ばかりでないシベリウスの東欧性を発見することに... それは、北欧の東端に位置するフィンランドの性格?当時、ロシアの支配下にあったフィンランドの空気感?あるいは、シベリウス作品のインスピレーションの源とも言える、フィンランドの東、フィンランド人の心の故郷、カレリア地方(現在はロシア領... )の感覚なのだろうか?シベリウスを東方から見つめることで、また新しいシベリウス像が見えて来るのかもしれない。すると、孤高の作曲家にも、20世紀音楽との強いつながりを見出し、刺激的なアンチ・メインストリームの系譜が浮かび上がるのか... けして守旧派ではない、シベリウスの鮮烈に改めて魅了されてしまう。
という、新鮮なシベリウス像を聴かせてくれた、ネーメ、イェーテボリ響。じっくりと展開するネーメのスタイルが、シベリウスにより東欧的な印象を与えるのか... しかし、それは、けしてシベリウスの音楽に東欧性を上塗りするものではなく、じっくりと展開させることで、煮出すような、不思議な感覚。だからこそ、新鮮。また、イェーテボリ響ならではの瑞々しい演奏が、ネーメの音楽性を素直に捉えて、独特な深み、豊かな表情を生み出しており、またそれがナチュラルにまとめられ、何とも言えずオーガニック!北欧ならではの透明感、色彩感を保ちながらも、それだけに留まらない、より大きな存在としてのシベリウスの可能性を籠めて、濃密でもあるおもしろさ。そうして捉え直すシベリウス像は、これまでになく刺激的。

SIBELIUS: TAPIOLA ・ EN SAGA ・ VALSE TRISTE
GOTHENBURG SYMPHONY ORCHESTRA ・ NEEME JÄRVI

シベリウス : 音詩 「エン・サガ」 Op.9
シベリウス : 音詩 「春の歌」 Op.16
シベリウス : 悲しいワルツ Op.44-1 〔劇音楽 『クオレマ』 から〕
シベリウス : 鶴のいる風景 Op.44-2 〔劇音楽 『クオレマ』 から〕
シベリウス : カンツォネッタ Op.62a 〔劇音楽 『クオレマ』 から〕
シベリウス : ロマンティックなワルツ Op.62b 〔劇音楽 『クオレマ』 から〕
シベリウス : 音詩 「吟遊詩人」 Op.64
シベリウス : 音詩 「タピオラ」 Op.112

ネーメ・ヤルヴィ/イェーテボリ交響楽団

Deutsche Grammophon/457 654-2




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