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生誕150年、シベリウス、迷走のオペラから劇音楽の雄弁! [before 2005]

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2015年のメモリアルを追う今月、そろそろ今年のクラシックの顔を取り上げねば... ということで、生誕150年のメモリアル、シベリウス!改めてシベリウスという作曲家を見つめ直すと、実に希有な存在であるように思える。生まれこそ19世紀ではあっても、20世紀を半分強も生きた人物。シベリウスの7番まである番号付きの交響曲の内、2番以降の6つが20世紀の作品だったりする。が、その音楽はロマン主義に留まり、フィンランドにおける国民楽派としての音楽でもあるわけで... シベリウス作品は、近代音楽に囲まれながら、極めて19世紀的な性格を残したものと言えるわけだ。ならば、時代遅れだったのか?いや、そういう安易な物差しでは計れない、独特な境地に達した純度の高い音楽を響かせるのがシベリウス作品。他には無い輝きを放っている!
そんなシベリウス作品にして、また独特な存在感を見せる知られざる作品を聴いてみようかなと... パーヴォ・ヤルヴィの指揮、エストニア国立交響楽団の演奏で、シベリウスの唯一のオペラ、『塔の中の乙女』(Virgin CLASSICS/5 45493 2)を聴く。

初めて『塔の中の乙女』を聴いた時は、もの凄く新鮮に感じた。あのシベリウスがオペラを書いていた?!という驚きでいっぱいだったのだろう... が、今、改めてそのオペラを聴いてみると、ん?んんん?となる。聴き慣れたシベリウス作品とはあまりにギャップがあり、戸惑ってしまう。ヘルシンキ音楽院(1885-89)を経て、ベルリン(1890)、ウィーン(1891)へと留学、1892年、帰国コンサートで発表されたクレルヴォ交響曲が成功し、瞬く間にフィンランド楽壇で地位を築いたシベリウス。そんな順風満帆の若き作曲家がオペラへと乗り出すのだけれど、これが、なかなか形にならず、苦しむことに... で、最初の構想(で書かれた序曲が、後に「トゥオネラの白鳥」に改作された... )を破棄し、新たな題材で作曲し直したのが、ここで聴く『塔の中の乙女』(track.1-9)。
タイトルからは、ファンタジック(ラプンツェルとか、メリザンドとか... )な物語を期待してしまうのだけれど、いやいやいや... 農場主が乙女を塔に監禁、乙女の恋人が助けに行くと、農場主夫人がだんなを怒って、乙女解放、ハッピーエンド... かなりトホホな1幕物のオペラ... 実は、シベリウス自身もこの台本と悪戦苦闘したらしい(てか、なぜにこの台本を選んだ?!)。が、トホホなあたりを、国民楽派ならではのフォークロワなのどやかさ、キャッチーさで彩っていて、台本にもう一捻りあれば、スメタナの『売られた花嫁』的な可能性もあったのでは?1896年の初演では、聴衆には歓迎されたとのこと... 序曲に始まり、端々から聴こえて来る、牧歌的で人懐っこい雰囲気には、シベリウスの砕けた一面を見るようで、印象的。大団円のフィナーレ(track.9)の、こどもたちのコーラスが加わっての愛らしいメロディーで盛り上がるハッピー感なんて、最高!また、乙女が歌うアリア「サンクタ・マリア」(track.3)は、ウィーン世紀末を感じさせる豊潤なロマンティシズムが漂い、乙女と恋人による二重唱(track.6)は、ウィーンのオペレッタ的なスウィートさもあって、若きシベリウスの音楽の同時代性が興味深い!ひとつひとつのナンバーを丁寧に見つめれば、やっぱり新鮮なのかも... で、問題は、台本か... 物語の薄さが、音楽に大きな流れを生み出し得ないような... どこか中途半端で、ドラマとしての聴き応えに欠けてしまうのか...
という『塔の中の乙女』の後に聴くのが、その9年後の作品、1905年に作曲、初演された、劇音楽『ペレアスとメリザンド』(track.10-18)。いやー、シベリウスという個性が確立されて繰り出される、音楽ドラマの濃密さにたるや!最初の一音から、クラクラしてしまう。『塔の中の乙女』とは違い、まったく迷い無く、自らの音楽性を以って物語へと斬り込むシベリウスの姿勢、そうして生まれる雄弁さに、ただただ圧倒される。これがまた、『塔の中の乙女』の後だからこそ、余計に感じられて、この2つの音楽ドラマを並べようというパーヴォの視点の鋭さにも感服させられる。しかし、オペラのように、全てを音楽で綴るのではない、劇音楽の、背景としての音楽だからこそ、シベリウスの音楽性が鮮烈に活きて来るおもしろさ!この『ペレアス... 』を聴けば、シベリウスの音楽が持つベクトルが、しっかりと見えて来る。「ロマン主義」、「国民楽派」という、極めて19世紀的なスタイルを、独自に進化させて到達した抽象性というのか... ドラマに、直接、干渉するのではなく、その背景となって、より大きなストーリーを物語る力強さ!そういう音楽を前にすると、音楽を聴く、というスケール感を越えて迫って来るものがある。
そして、この2つ作品を器用に奏でたパーヴォ、エストニア国立響... 『塔の中の乙女』(track.1-9)では、あっけらかんと「シベリウス」となる前のシベリウスの迷走をカラフルに描き出し、そこに籠められた音楽の興味深さを、しっかりと鳴らし切る妙。物語の薄さの一方で、同時代の多彩なセンスの展開に魅力を見出すパーヴォの目敏さに感心させられる。一方の『ペレアス... 』(track.10-18)では、地に足の着いたエストニア国立響のサウンドを活かし、これぞシベリウス!という境地を、じっくりと鳴らして来る。それは、北欧ならではの透明感ばかりでなく、大地から響いて来るような逞しさを見せて、圧巻... そんな、好対照の音楽ドラマを聴いた後で、魅惑的な悲しいワルツ(track.19)が取り上げられるのだけれど、これがまた絶妙にスパイスを効かせて、クール!パーヴォらしい独特な軽やかさから豊かな表情を紡いで、アルバムの最後をお洒落に締め括る!何てセンスが良いのだろう... 何気にシベリウスを味わい尽くす1枚。

SIBELIUS: THE MAIDEN IN THE TOWER, PELLEAS ET MELISANDE
ESTONIAN NATIONAL SYMPHONY ORCHESTRA / PAAVO JÄRVI

シベリウス : オペラ 『塔の中の乙女』

乙女 : ソルヴェイグ・クリンゲルボーン(ソプラノ)
恋人 : ラース・エリック・イェンソン(テノール)
農場主夫人 : リリ・パーシキヴィ(メッゾ・ソプラノ)
農場主 : ギャリー・マギー(バリトン)
エストニア国立男声合唱、団エッレルヘイン少女合唱団

シベリウス : 劇音楽 『ペレアスとメリザンド』 Op.46
シベリウス : 悲しいワルツ Op.44-1 〔劇音楽 『クオレマ』 より〕

パーヴォ・ヤルヴィ/エストニア国立交響楽団

Virgin CLASSICS/5 45493 2




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