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ソヴィエトの青春の輝き、ショスタコーヴィチ、4番の交響曲。 [2013]

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さて、もういくつも寝ていられずに、お正月... 2015年が目前に迫って来ております!
ともなれば、ニュースには今年を振り返る映像が流れて来て... こんなにもいろいろなことがあった?!と、変に驚かされてしまう、2014年。いや、いろいろなことがあり過ぎて、年初の頃なんて思い出せないくらい遠くに感じられる。真央ちゃんのラフマニノフ、エイト・トリプルで感動したのは4年くらい前に思えるし、「佐村河内」は20世紀の作曲家だったような気さえして来る。良いことも、悪いことも、てんこ盛りだっただけに、それらが一年の内の出来事だったとは考えられないような、奇妙な心地させられる。でもって、残り1週間を切ってもなお、2014年の疾走は止まる気配が無く、世界は騒然としたまま新たな年を迎えようとしている。そんな状態を見渡すと、ちょっと恐ろしくもなる。まったく、何て一年なんだ!そして、来年はどんなことになってしまうのか?
という、何とも言えない緊張感の中、超ド級の交響曲を聴いて、一年の垢を流してしまうかなと... ヴァシリー・ペトレンコ率いる、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団のショスタコーヴィチのシリーズ、第9弾、4番の交響曲(NAXOS/8.573188)を聴く。

規模の大きいもの、規模の小さいもの、歌が付くもの、擬古典主義なもの、プロパガンダを担ったもの、交響曲とは思えないもの、それぞれに様々なスタイルを持ったショスタコーヴィチの15の交響曲、その中でも特に異彩を放つ4番の交響曲。最も大きな規模を誇り、どの番号よりも交響曲として真っ当にも感じられるのだけれど、明らかに何かが違う... ちょうど30代に入ろうかという時、それまでのショスタコーヴィチの作曲家人生の集大成として作曲された4番の交響曲には、他の番号には無い濃密さと、密度が増して比重を増した独特の重量感がある。それは、ブラック・ホールに似たものを感じ、どうしようもないエネルギーの充満と、それを外へと放出できないフラストレーションが相俟って、恐ろしくパワフルな音楽を生み出している。ような。そんな印象だろうか... ショスタコーヴィチ青年の、青春期の集大成... そういう爽やかさにはまったく結び付かない異様さが、とてつもない存在感を以って聴く者に迫って来る。という、4番の交響曲の背景にあったものは?
1935年の秋から、翌、1936年の春に掛けて作曲されたこの作品。1930年代のロシアといえば、ソヴィエトという革命的新体制の成立(1917)による大混乱を経て、落ち着きを取り戻しつつある中、スターリンが権力掌握に乗り出すと、一気に全体主義的な方向へと突き進んだ時代。ついこの間までソヴィエトという体制の官僚主義を痛烈に風刺できていたはずが... ロシア・アヴァンギャルドが象徴する革命的、実験的な表現を様々に繰り出せていたはずが... 1934年に初演されたオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』への批判(1936年のプラダ批判... )を切っ掛けに、スターリンの恐怖政治がショスタコーヴィチを窮地に追い込んで行く。4番の交響曲の異様さは、「社会主義リアリズム」という検閲下、体制に沿った音楽が暗黙の内に強要され、芸術家のクリエイティヴィティはシベリア送りへとつながる不穏な空気の中、醸成されたものだったか?結局、この作品はリハーサルまでなされながら、初演は見送られ、スターリンの死後、8年を経た1961年に初演を迎えた。
という4番の交響曲をヴァシリーはどう鳴らすのだろうか?興味津々で聴き始めるのだけれど... 若々しく、フレッシュに繰り広げられて来たヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲のシリーズ。それも折り返しを過ぎれば、どんな風にフレッシュなのか予測はつく。が、4番では、そういうある種のマンネリをさらりと凌駕し、これまで聴いて来た4番は何だったのか?!というくらいに、見事にイメージを覆す。いや、イメージを覆すというよりは、まったく違う音楽のような風合を見せて、面喰うのか... 衝撃的なほど軽やかに音楽を展開して、驚かされる!ソヴィエト云々の背景が持つ真っ黒な呪いを浄化して、ショスタコーヴィチがスコアに残した音符のひとつひとつを克明に響かせ、「交響曲」のその何物にも捉われない抽象性、音楽史における交響楽の結晶としての形を明確に掘り起こす。そうして、ヘヴィーさで圧倒するのではない、ライトさで圧倒してしまう魔法!ライトであるからこそ、4番の交響曲の、「交響曲」としての構造を詳らかとし、隅々まで光を入れて輝かせてしまう、21世紀におけるショスタコーヴィチの在り様を高らかに提示する。しかし、あの4番の交響曲を、ショスタコーヴィチのブラック・ホールを、こうも容易く自分の領域に引き込んで、しっかりと消化し、確固たる真新しい音楽に生成できてしまうとは... ヴァシリーの驚異的な音楽性、現代っ子感覚に、感服...
そういうヴァシリーの音楽性、感覚を明確に繰り出して来るロイヤル・リヴァプール・フィルの冴え渡る演奏!もう最初の一音から凄い... 始まりの切り裂くような木管の音からして、何か尋常ではなく、それでいて、とても澄んだサウンドを発し... 木管に限らず、巨大なオーケストラ、全ての楽器が洗練されて聴こえ、息を呑むような鋭敏な美しさに充ち満ちている。そこから編まれる交響楽のクラリティの高さ!この透明感がクールな表情を生み、20世紀的な淀みや澱を全て洗い流し、軽快に音楽を動かして行くことで、浮世離れした空気感を創り出す。それは、ソヴィエトのダークさではない、交響楽の神々しさ、目も眩むような輝かしさであって、聴く者を圧倒するサウンド。ヴァシリーも凄いが、ロイヤル・リヴァプール・フィル凄い。何より、彼らのシリーズが、とうとうこういう次元に至ったかと、ただならず感慨があり、改めて魅了されてしまう。
さて、そんな輝かしい4番の交響曲を聴いて、ふと感じるものがある。これが、ロシア革命下で育まれたショスタコーヴィチの青春の集大成なのかも。すると、腑に落ちるものがあって... また、最後、光が消えるように終わるあたり、社会主義の理想が悪夢へと暗転する顛末を象徴するようで、ちょっとゾクっとさせられる。ここから、本当の恐怖が始まったのだと...


SHOSTAKOVICH: Symphony No. 4

ショスタコーヴィチ : 交響曲 第4番 ハ短調 Op.43

ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS/8.573188




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